040,魔法の武具
魔導義体を与えたバルドの経過は順調そのものだ。
先日ついに、フルパワーテストも行うことができた。
屋敷の裏手にあるストレリチアの拠点の訓練所を使って行なったのだが、そのときのバルドはまるで超人そのものだった。
ただ、魔導義体以外の生身の部分に負荷がかかりすぎて、筋肉が断裂したり、一部は骨が砕けたりもして大怪我を負ってしまったが。
魔導義体自体は耐久値もパワーも、人間のそれを大きく上回っているが、それを支える土台である生身の肉体をどうにかしないと、スペック通りの力を発揮できないようだ。
ストレリチアのような魔道具による肉体改造に成功していれば、もう少し負荷に耐えられたと思うが、残念ながらバルドはその肉体改造に失敗して身体を欠損したのだ。
残っている部分が多少強化されていてもこれなのだから、ストレリチア以外に魔導義体を使う場合には、もっと考えなければいけないことは多いようだ。
ちなみに、肉体改造に失敗したもうひとりの少年も、失った半身に魔導義体を取り付けたので、すでに日常生活を行えるまでになっている。
ただ、バルドよりも長く眠らせたままだったので、残っている肉体の衰えを元に戻すためのリハビリ中だ。
時間はかかるだろうが、彼もやる気は十分なのですぐにバルドと同様に実験に協力してくれるだろう。
まあ、バルドが大怪我をしてしまったので、治るころにはふたり揃っているはずだ。
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バルドの大怪我をきっかけにしたわけではないが、たとえ魔導義体があっても、治る怪我なら治せたほうがいい。
オークションでポーションを数本落札できたので、パトロンになった魔法式学者たちに再現できないか研究させている。
ポーションの効果も魔法の産物ではないかと思っているのだ。
骨折を数日で完治させてしまうほどの効果を持つものなのだ。
魔法の力を持っていると思うほうが自然だ。
実際に、教会で独占している回復魔法の魔道具版がポーションなのではないかと睨んでいる。
ただ、ポーションは液体なので、色々と勝手は異なっているわけだけど。
だが、やってみる価値はあると思い、せっかくなのでやらせているというわけだ。
ちょうど、オレと同じ考えに至り、研究をしていたものがいたのだ。
無論、ポーションが高すぎて実物を得られず、研究は早々に頓挫していたようだが。
オレがオークションでポーションを競り落としたと聞いたときには、土下座して頼んできたほどだ。
しかし、彼ひとりに任せては時間がかかりそうだったので、幾人かを結果が出たら査定に大幅なプラス評価をつけることを条件に手伝わせている。
パトロンになったとはいえ、ただで金を出してやる謂れはない。
納得の行く研究成果がなければ、援助をやめるのは必然だ。
それは魔法式学者以外のものにも共通したことなので、彼らも重々承知している。
だから、自分がやりたいことだけをやって過ごすことはできないのだ。
ミリー嬢のような本物の天才でもなければ。
ちなみに、彼女にも助手を数名つけた。
魔法式学者にも女性はいたので、ミリー嬢に、いや、彼女が書く魔法式に悪い影響を与えない人物に限定してだが。
今や、この屋敷の中には魔法式学者が二十名近く通っており、一部は新しく建てた学者寮に住み着いている。
使用人寮よりも簡素なものだが、彼らが住んでいた安宿や住居よりはずっとマシらしい。
研究費用は出してもらえるし、ミリー嬢の使っている執務室に行けば、許可制ではあるが、稀少な魔法式の書物を閲覧できる。
さらに、三食つくし、掃除や買い出しも使用人が代わりにやってくれる。
彼らにとって、そこは天国のような場所なのだそうだ。
学者寮に住んでいないものは、家族がいたり、ほかに仕事を持っているものなどだ。
それでも、魔法式の研究に情熱を傾けているので、能力に応じた支援をしている。
ただやはり、片手間でできることには限界があるので、学者寮に住み着いたものたちに比べると少々劣るものが多い。
オレというパトロンを得て、喜び勇んで仕事を辞めて学者寮に移り住んできたものたちのほうが、その後の研究結果により、評価が確実に上なのだから。
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オークションで手に入ったのは、何もポーションだけではない。
この世界には、迷宮の宝箱などから強力な魔法の品が手に入ることがある。
アーティファクトほどの力はなくとも、高名な鍛冶師が打ったものを遥かに凌ぐ力を持った武具たちだ。
魔法の、という名がつくように、武具自体に魔法の力があり、魔道具のようにその力を発揮させることができる。
魔道具との違いは、使用者の魔力を消費するか否か、だ。
むろん、魔道具のように魔石の魔力を消費しないので、使い捨てではない。
もちろん、武具なので、どうやっても耐久値の限界というものが存在するが、その力を使うだけなら魔道具よりもずっと使用回数は多い。
ただの武具としても性能は高く、深い階層に潜るのならば必需品となっているくらいだ。
そんな魔法の武具をいくつか落札することに成功したので、魔法式学者たちの中でも武具に関して高い評価をつけたものたちに研究を進めさせている。
具体的には、魔法の武具の再現、だ。
魔法の品である以上、どこかしらに魔法式が刻まれているのだ。
魔法の武具はその魔法式が欠損した場合、力を発揮できなくなるので、必ずどこかに隠されている。
しかも、巧妙に隠されており、その上一箇所にすべてではなく、必ず複数カ所にわけられてパズルのようになっており、見つけられてもただしい魔法式に組み替えるだけでも一苦労だ。
その上、魔法の武具に刻まれている魔法式は、そのまま魔石に刻んでも機能しない。
もちろん、効果が同じ魔法を使えるものがやってもだ。
魔法の武具を手にできる一流の魔法使いたちが、こぞって複製しようと血道をあげていたが、結局成果がでずに放棄された研究テーマでもある。
うちの魔法式学者たちは、貧乏人ばかりなのでもちろん魔法の武具なんて初めて見るものも多い。
だが、放棄された研究テーマだということは知っている。
しかし、それがどうしたと言わんばかりに、己の研究欲を満たすために我先にと魔法の武具に群がって魔法式を探しては、あーでもないこーでもないとやっている。
一先ずすべての魔法式を発見し、正しく構築することできたらゴーレムたちに刻ませてみるつもりだ。
それで問題がないならいいが、魔法の武具はそもそも魔道具とは違って使用者の魔力を消費して動いているので、その辺の原理の解明もしたい。
それができれば、魔石バッテリーなどを使わなくともよくなるのだし。
もちろん、魔力は人それぞれ総量が異なるので、魔石バッテリーと併用できればさらに楽になる。
とにかく、現状ではまずどのような魔法式が使われ、どうやって使用者の魔力で動いているのかを突き止めるのが先決だ。
応用発展はそのあとのことになるだろう。
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魔法の武具は、オークションに出品されるだけあり、かなり高い。
だが、当然ながら効果や武具の種類によってピンきりだ。
それでも、一番安いものでも、一般的な探索者の年収を軽く超える値段がつくのだから恐ろしい。
オレがいくらベテルニクス商会にレシピを売り払い、特許収入やゴーレムの作った魔道具で必要ないものや、そもそも売却するために作っているものがあっても、さすがにいくつも魔法の武具を購入していては資金が底をついてしまう。
もちろん、魔道具の売却はベテルニクス商会を経由している。
個人での一定金額以上の魔道具の売却には、商人としての特殊免許が必要だからだ。
その点、ベテルニクス商会を経由させればそんなものは必要ない。
免許制の意味があるのか疑問だが、どこにでも抜け道というものは存在するということだ。
初歩の初歩の魔法の魔道具のような、一般人でも購入可能な金額のものについては、この一定の金額に達するほうが稀なため問題になっていない。
むしろ、毎日一般人向けの魔道具を作り続けても、相当無理しなければ到達し得ない金額設定だからだ。
その金額に、楽々届いてしまうのは当然ながら武器としての用途の魔道具だ。
オレのゴーレムが作り出す魔道具は、日に百個に届くときすらある。
ストレリチアや研究開発などで消費する分以外にも、予備の製作にすら余裕がある状況だ。
さらには、まだまだオレのゴーレム生成能力は向上し続けている。
本当にオレはゴーレム使いとして落ちこぼれなのか、小一時間問い詰めたいレベルだ。
そんなわけで、現在の資産は下手な貴族なんて目じゃないレベルだ。
ベテルニクス商会にレシピを売却する必要なんてないほどのものだが、利益じゃなくて恩を返しているだけだし、ベテルニクス商会とはこれからもいい関係でいたいので、レシピの提供はし続けるだろう。
ネタ切れにならない限りは。
提供する頻度もそう高くないし、基本的には試食会を行なってから提供するので、当分は大丈夫だとは思うけど。
今日も、オークションに気になるものが出品されるので、ミリー嬢と宮園嬢を連れて向かう予定だ。
宮園嬢は完全におまけというか、ミリー嬢のために連れて行く感じになっている。
今ではこのふたりは親友のように仲がよい。
毎日一緒にいるところをみかけるし、この間もふたりで街中へショッピングに行ったらしい。
ストレス解消にもなっているのか、以前よりも彼女の書く魔法式が伸び伸びしているような気がする、おそらくだが。
オレにできないことを宮園嬢はミリー嬢にしてくれている。
このまま彼女には、ミリー嬢と仲良くしていてもらいたいものだ。
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モチベーションがあがります。




