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004,ベテルニクス商会ラビリニシア支店



 転移施設の職員に、迷宮都市ラビリニシアの役所を兼ねた総合ギルドの場所を聞き、乗り合い馬車に乗って移動する。


 ここ、迷宮都市はギテールの街よりもかなり広いので、街中は乗り合い馬車が定期的に走り、低価格で利用することができる。

 オレ以外にも、普通の市民と思しき人間も多数乗っており、それぞれに談笑したりしている。

 活気が溢れる街中と同様に、市民の表情は明るい。


 ギテールの街もそれなりに大きな街ではあったが、迷宮都市はそれを数倍上回る規模の街だ。

 第一区画から第十二区画まで街が別れており、大体二区画で中規模の街と同等程度の大きさになる。

 つまり、街が複数合体したような都市が迷宮都市なのだ。


 それぞれに各種ギルドが区画ごとにあり、就労者たちの管理を行なっている。

 その中でも街全体を総合的に管理するギルドが、総合ギルドと呼ばれるものだ。

 迷宮都市に移り住む場合には、この総合ギルドに書類を提出し、指定される額を支払わなければならない。

 オレはベテルニクス商会の力で身分証などを作ってもらうことができたので、支払うべき金額も納め終わっており、予め用意してもらった書類を提出すれば、晴れて迷宮都市の市民権を得られる。

 わざわざ、市民になるのは、この迷宮都市に長く滞在することが予想されるからだ。

 そうなると、宿に泊まるよりも住居を借りた方が安上がりで済む。

 地球への帰還の可能性を探るにも、時間がかかることは予想に難くない。

 いくら資金に余裕があっても、いつまでももつものではないのだから、節約できるところで節約したほうがいいだろう。

 宿屋に泊まるならまだしも、住居を借りるにも市民権が必要になる。

 土地の売買は、ギテールの街同様に周囲を石壁で囲まれている以上、面積にも限界があるため法で禁止されている。

 あくまでも土地は迷宮都市を治める領主から借りる形になるそうだ。

 ただ、土地以外の建物などは売買の対象となるので、借りた土地をどうするかは借りた本人の意思次第となる。

 法を侵さない範囲で建物を建てるなり、利用するなりする。


 オレの場合は、すでにある建物を借りて済む賃貸になる。

 土地の所有権などは建物の所有者が持っているが、基本的に日本の賃貸物件と同じで、月の料金を払って部屋なり家なりを借りるのだ。


 アパートのような集合住宅もあるようだが、今後を見据えて一軒家を借りる予定だ。

 なるべく安いところを探したいが、まずは総合ギルドだ。


 乗合馬車に揺られること三十分あまり、全十二区画の中央に存在する総合ギルド前に到着した。

 料金は基本的に区画ごとに支払う形になるので、二区画分の料金を取られた。

 中央は区画に分類されていなくても、一区画扱いらしい。

 まあ、大した額ではなかったのでよしとしよう。

 さすがは低価格と謳われているだけある。


 ちなみに、ギテールの街や迷宮都市ラビリニシアがあるフッドフォール王国の通貨はアレド硬貨と呼ばれるものだ。

 フッドフォール王国を含む、アレド大陸全体で流通している通貨だというから驚きだ。

 それだけ信頼性の高いものなのだろう。

 ただ、すべて硬貨だ。

 紙幣は一枚もない。

 なので、嵩張ってしまうと思われがちだが、実際はそうでもない。

 この世界には、魔道具が広く普及している。

 その中でも誰でも持っているものが、財布袋と呼ばれる魔道具だ。

 小さなガマ口のような袋で、中の空間が拡張されているものだ。


 オレも最初は何を言っているのかわからなかった。

 だが、実際に使ってみると、これがまた便利なのだ。

 財布袋の中は、そのまま説明通りに空間が拡張されており、見た目以上にものがはいる。

 その上、重さは何を入れても変わらないのだから驚きだ。


 ただし、財布袋という名前からもわかるように、基本的にお金しか入らない。

 正確には最大の大きさの通貨である十万レド硬貨までしか入らない。

 大きさは五百円玉を一回り大きくした程度だ。

 アレド硬貨は、一レド硬貨から十倍ずつ硬貨があり、最大で十万レド硬貨となる。

 大きさは価値が高くなるほど大きくなり、一レド硬貨で一円玉よりも少し小さいくらいだ。

 四人家族の一般家庭で月に二十万レドもあれば、多少の贅沢をしながら暮らせる程度の価値がある。

 ただ、物価の違いによって多少上下する。


 迷宮都市ラビリニシアでは、月二十万レドでは贅沢の回数が少なくなるが、ギテールの街だったら、二倍から三倍の回数贅沢はできるくらいには物価が違う。

 まあ、どんな贅沢をするかにもよるが。


 さて、その財布袋だが、基本的に硬貨より小さいものしか入らないので、物流革命を起こすほどではない。


 ただ、その代わり財布袋は一般人が複数持てるくらいには安い。

 もちろんオレも種類別に複数持っている。

 尚、財布袋に入れて禁制品を持ち込もうとする人間は絶えないそうで、財布袋の中身を透視できる魔道具があるそうだ。

 ただ、この魔道具の管理は警察機構を有する衛兵ギルドが厳重にしているので、悪用される心配は少ない。


「お待たせ致しました。こちらが住民証明書となります。再発行には別料金がかかりますので、失くさないように大切に保管してください」

「ありがとうございます」


 総合ギルドは、とにかくでかい建物だった。

 中には様々なお役所施設が集まっており、専用の案内係までいるほどの巨大施設となっている。

 案内係に住民登録の場所を聞き、案内してもらってようやく目的を果たすことができた。


 案内係は子どもだったが、この世界では小さな子どもも労働力なので労働基準法違反などではないし、虐待でもない。

 むしろ、案内係といった危険が少なく、力がなくてもできる仕事などは積極的に子どもが雇用されている。

 ちなみに、フッドフォール王国にはチップの習慣はない。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 晴れて迷宮都市ラビリニシアの市民となったオレは、さっそく税金を支払いに案内係の子どもを捕まえて税務課へ足を運ぶ。

 フッドフォール王国の税金は、基本的に人頭税だけだ。

 商人となるとまた違った税が発生するが、オレは商人ではないので問題ない。

 人頭税は、迷宮都市ラビリニシア市民だと一年で十万レド。

 アレド大陸は太陽暦が採用されており、地球と同じ365日が一年だ。

 うるう年なんかもあるそうだし、時計の魔道具もそれなりに普及しているので秒まで時間の単位もある。

 それでも一般人が皆全員時計を所持しているわけでもないので、せいぜいが分単位。

 おおらかなところでは時単位での行動になるようだ。


 税務課に人頭税を支払えば、総合ギルドでやることはとりあえず終わりだ。

 次は、さっそくだがベテルニクス商会の支店を目指す。

 ベテルニクス商会は、迷宮都市でもそれなりに大きな商会を営んでいるようで、不動産などを扱う商会にもコネが効くそうだ。

 ドルザール氏との約束もあるので、顔見せを兼ねて尋ねる。


 乗り合い馬車は定期的に同じ巡回路をまわっているが、それとは別にタクシーのような辻馬車も存在している。

 こちらは料金は割高だが、指定の場所までいけるので乗り合い馬車で行けないところが目的地の場合は助かる。

 バスとタクシーの違いみたいなものだ。

 そのまま大きさも違うし。

 辻馬車は四人程度が定員だが、乗り合い馬車は最大で十人以上乗れる。


 総合ギルドを後にして、暇そうにしていた辻馬車を拾ってベテルニクス商会の支店を指定する。

 知名度がそれなりにあるようなので、それだけで御者は把握してくれた。

 ちなみに、辻馬車は定員までは相乗りも可能だ。

 ただ、その場合は割り勘になるし、目的地によっては値段も違う。

 その辺もしっかりとルールが制定されているので、揉めることも少ない。

 巡回の衛兵なども通りをみるとそれなりに多い。

 揉め事などが発生すればすっ飛んでいって、すぐに介入してくれるのだそうだ。

 なかなか治安がよろしいようで一安心だ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「さすがに本店よりは小さいのか」


 それがベテルニクス商会ラビリニシア支店の外観をみた感想だった。

 本店の巨大さはこの迷宮都市でもなかなかみないほどのものだったので、そうだろうとは思っていた。

 ただ、それでも十分に大きな店構えだとは思う。

 ギテールの街の本店がでかすぎるだけなのだろう。


 本店を過ごした時間のおかげで、ほかの店よりも大きいとはいってもあまり緊張せずに中に入ることができた。

 ベテルニクス商会ラビリニシア支店で取り扱っているものは、迷宮で産出される資源全般だ。


 迷宮都市ラビリニシアは、その名の通りに内部に迷宮を有する都市である。

 迷宮とは、街の外の凶暴な原生生物をさらに凶暴にした――魔物と呼ばれる生物を生み出す巨大な空間の総称だ。

 迷宮で生み出される魔物は、魔石と呼ばれる魔力の結晶体を体内に有している。

 この魔石が、魔道具の主材料として用いられるのだ。

 オーナ嬢にもらった清掃の魔道具の先端についているのも魔石だ。

 迷宮以外の生物からは、この魔石が穫れないので、魔石を体内に有している生物が魔物という括りなのだそうだ。

 ほかにも魔物からは迷宮外の生物同様に肉や毛皮や鱗など、様々な特徴にあった素材がとれる。

 その上、迷宮は迷宮外のどこかの風景を模した世界を独自に構築しているようで、構築された風景によっては木材だったり、鉱物だったり、ときには海洋資源すら採れるのだそうだ。


 つまり、迷宮とは資源の宝庫なのである。

 無論、入手するには魔物がいるので命がけとなるが。

 その魔物すら立派な資源なのだから、迷宮は美味しい。

 もちろん、毎年何百人ではきかない人数が命を落としているのでそう簡単にはいかないが。


 そんな迷宮から穫れる資源全般を取り扱っているのなら、ベテルニクス商会ラビリニシア支店のこの大きさも納得がいくというものだ。

 尚、迷宮はラビリニシアのそれぞれの区画に存在している。

 内部の特徴がそれぞれ違うようなので、とれる資源もまた違ったものになる。

 なので、ベテルニクスの支店で扱っているのは、正確には第三区画の迷宮の資源全般ということになる。

 よその区画からも資源が持ち込まれることがあるので、一概にはいえないが。


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モチベーションがあがります。

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