033,ゴーレム使い(落ちこぼれ)
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宮園嬢は、オレとは違う方法でこの世界にやってきたそうだ。
オレはウォーキングから家に帰る途中で、唐突にこの世界にやってきたが、彼女はトラックに轢かれて神様にこの世界へ転生しないか、と持ちかけられたらしい。
……神にアクセスする予定のオレとしてはなんと羨ましいことか。
死ねば神に会えるのだろうか。
保証なんてないのだから無論実行には移さないが。
転生といっても、今の彼女の容姿をみてわかるように、日本人の姿そのままでこの世界へやってきたようだ。
さらに彼女は神から魔法の才能を授かってもいるそうだ。
魔物を殺すたびにその才能は強くなり、いずれ大賢者へと至るとまで言われたらしい。
最初から魔法を使えたし、すぐ近くに村などもあり、あまり苦労はしなかったようだ。
数日歩き詰めで死にかけたオレとは、待遇が全然違う気がするが、今は置いておこう。
そうして、魔物を討伐して魔法の才能を強化しつつ、旅を続けて迷宮都市へやってきたそうだ。
ただ、魔法の才能の強化にはかなりの数の魔物の討伐が必要らしく、最初はそこまででもなかったため楽だったが、今ではなかなか強くなれないそうだ。
迷宮都市で地道に魔物の討伐と資金稼ぎをしていたが、ベテルニクス商会の実験料理店を発見し、豚骨ラーメンと出会って自分と同じような日本人がいるのではないかという可能性に気づいたそうだ。
あとはまあ、ご存知の通り。
彼女の話の中でも特に引っかかったのは――
「才能の強化に必要な魔物の数がわかるのですか?」
「もちろん! 御堂さんだって何か能力もらったでしょ? 心の中でそれをみたい! って思えばゲームみたいな画面がでてくると思うけど」
話を聞いている間に、凹んでいた彼女もすっかり元に戻ってきたようだが、部屋に入ったときのような態度はさすがに鳴りを潜めている。
まあ、かなり馴れ馴れしいのは現代日本の女子高生の特徴ともいえるものだろう。
何か神から能力をもらった覚えはないが、もし該当するものがあるとすれば、それは特殊なゴーレムだろうか。
試しに彼女がいったように、心の中で能力をみたいと思ってみる。
すると、確かに宮園嬢の言う通り、いやに鮮明なゲーム画面がでてきた。
「……これは」
「ね? 言ったとおりでしょ! 能力の説明とか、使い方とか、強化の仕方とか。色々ヘルプが書いてあるから便利だよ! でもアイテムボックスとかがないのが不満なんだよねー。荷物ってどうしても嵩張るし、あたしみたいなか弱い女の子には辛くって辛くって」
宮園嬢が何かどうでもいいことを言っていたが、スルーしてゲーム画面――能力ウィンドウを確認していく。
確かに能力の説明や使い方、強化の仕方などが丁寧に書かれている。
こんなものがあるのなら、最初から教えてほしかった。
だが、ひとつだけ納得できないのは、能力の名称だろう。
宮園嬢の能力は、魔法の才能というそのままの名称だったが、オレの能力は、ゴーレム使い(落ちこぼれ)、というあまりにもあんまりなものだったのだ。
確かに、普通のゴーレム使いよりも小さいゴーレムしか出せないが、今では総数五百程度のゴーレムを一度に生成して操作することができる。
それでも落ちこぼれなのだろうか。
いや、この世界のゴーレム使いからしてみれば、三メートルのゴーレムを出せない時点でそうなのかもしれない。
あの男に襲われたときも何度も言われたしな。
一先ずそれは置いておいて、ヘルプの内容をみるに、今後の魔道具製作はずいぶん進展しそうだ。
宮園嬢からもらえた情報は、とんでもない価値があった。
それだけでも、彼女をスルーしなくてよかったと十分に思える。
いや、むしろ彼女には何かお礼を考えねばならないレベルだろう。
一方的にもらってばかりでは、オレのプライドが許さない。
ベテルニクス商会とだって、オレ的にはギブアンドテイクの付き合いなのだし、これも同じことだ。
「ところで、宮園さん」
「あ! その名字呼びやめて! 茉莉! あたしは茉莉だから!」
「いや、ですが」
「あと、御堂さんのほうが年上なんだから敬語もやめてほしいな。というかあたし敬語できないし、壁を感じるし!」
「わかりました。呼び方については茉莉さんと呼ばせていただきます。ただ、話し方はこれが素なのでご勘弁を」
「むー。じゃあ仕方ないか。許してあげる!」
女子高生特有の馴れ馴れしさにもだんだん慣れてきた。
ただ、丁寧に話すのをやめる気はない。
もちろん、敵対するなら別だが、彼女からはそんな雰囲気は微塵も感じられない。
むしろ、この短時間でずいぶん懐かれたような気さえするほどだ。
「ところで茉莉さんは、日本人にあってどうするつもりだったのですか?」
「え? えーっと……。豚骨ラーメンとか餃子とか麻婆豆腐があるならもっと色々と作ってもらえないかなぁって……。あはは……」
一瞬、ミリー嬢が料理をぺろりと平らげている場面が浮かんだが、まさか彼女も腹ペコ魔人ということはあるまい。
魔法使いとしてそれなりに稼いでいるようなので、迷宮都市でも美味しいものが食べられる高級店などにもいけるくらいの金は持っているだろう。
だが、どちらかというと、日本食が恋しくなったパターンだろうか。
迷宮都市の高級料理は、日本人の感性からすると海外の料理といったものばかりだ。
米が浸透しておらず、パン食文化なところも恋しくなる原因でもあるだろう。
そういうことなら、情報のお礼も兼ねて食事に招くのもいいかもしれない。
「構いませんよ。お気づきかと思いますが、あれらのレシピは私が提供したものです。あの店は匂いや辛さといった問題が若干ある料理を主に出しているところなので、提供したレシピでもそういった条件のもののみなのです」
「そうなんだ! じゃ、じゃあ、お茶漬けとかカレーとかは!?」
「お茶漬けは米と緑茶がありますので、まあ、なんとかなるかと。カレーについてはまだスパイスのブレンドを試行錯誤している段階ですね」
「ほんと!? お茶漬け! お茶漬けが食べたい!」
「屋敷に戻ればほかにも色々作れますので、もしよろしければご招待しましょう。能力の画面について教えてくれたお礼です」
「やったー! ……って屋敷?」
宮園嬢リクエストのお茶漬けは、紅茶がある世界なので、製法を教えただけで緑茶はすぐに完成している。
使用人でも好んで飲む人がいる一方、ほとんど飲まない人もいる。
ミリー嬢なんかは後者だ。
カレーについては、当然ながらカレールーなんてないので、スパイスのブレンドで一から作っている最中だ。
カレーも匂いが強いものなので、豚骨ラーメンなどの反応から試行錯誤を始めるのがずいぶん遅くなってしまった。
モーリッドたちが精一杯頑張っているので、そのうち最適なブレンドを見つけ出すだろう。
「ええ、私の屋敷がこの第三区画にあります。よくこのベテルニクス商会の支店長様とも食事会を行なっていますので、安心していただいて結構ですよ」
「御堂さん……。お金持ちなんだ」
「料理のレシピのおかげですよ。私自身は何もしていません」
「男の人で料理できるのってモテるよ! 草食系男子! その上お金持ちとかモテモテでしょ!」
「さあ、どうでしょう。それで、如何ですか?」
「もちろん、行く! お茶漬け食べたいもん!」
座っているソファーでピョンピョン跳ねてまで喜んでいる様子は、完全にお子ちゃまだ。
そのうち、悪い大人に騙されて、ホイホイついていってしまうのではないだろうか。
うーむ。放っておくのはまずい気がする。
神にもらった魔法の才能という能力の件もある。
彼女は地球へ帰りたいのかまだわからないが、一度死んでいるという話だし、戻っても居場所がなくなっている可能性が高い。
もし、地球へ帰りたくないのであれば、オレの目的とぶつかりあうこともないし、同郷ということもあってかなりオレに心を許している気もする。
理由を話せば協力もしてくれる可能性も高いし、一先ずは取り込む方向でことを進めてみるか。
ここに来るまでは厄介事にしか感じていなかったが、いざ会ってみるとなかなかどうして有益なことばかりだ。
もう少し日本人探しに力を入れてみてもいいんじゃないだろうか。
ほかにもまだいるのかどうかは実際に探してみないとわからない。
宮園嬢は話してみると意外と素直な子だとわかったが、むしろそちらのほうが稀な性格だろう。
……オレのような前例があるわけだし。
一先ず、使用人を呼び出すためのベルを鳴らし、ミーナ嬢に時間をとれないか確認してもらう。
オレには挨拶と謝罪をしたが、ミーナ嬢へはまだ挨拶すらしていないのだという。
まあ、相手は支店長だし、今は忙しい時期だ。タイミングも悪かった。
オレに頼まれていたこととはいえ、すべてミーナ嬢が対応するわけもない。
ただ、それでも挨拶くらいはさせておこうと思う。
宮園嬢の返事次第ではあるが、もしかしたら手助けしてもらうかもしれないからね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「緊張したー……。御堂さん、すごい美人と知り合いなんだね。キャリアウーマンって感じ!」
「ええ、実際にベテルニクス商会の支店長ですよ、ミーナ様は」
「そういえば、そういってたっけ!」
忙しい中すぐに時間を取ってくれたミーナ嬢に感謝して、宮園嬢に今回のことを謝罪させたあと挨拶を交わした。
ミーナ嬢は笑って許してくれていたが、いつもの笑顔とは少し違ったのでちょっと怖い。
宮園嬢は当然普段のミーナ嬢の笑顔なんて知らないので、気にならなかったようだ。
それよりも、同性からみてもミーナ嬢は格段に美しいようで、そちらのほうに緊張していたようだ。
まあ、オレも色々とヘタレなところを見ていなければ今でもそうなっていた可能性が高い。
だいぶ慣れてしまったが、ミーナ嬢は迷宮都市、いや、アレド大陸でも有数の大商会、ベテルニクス商会の支店長をしているほどの人物なのだ。
そんな人物と緊張しなくなるくらい会っているのだから、不思議なものだ。
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