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028,ベテルニクス姉妹



 ベテルニクス商会第一支店に到着しても、オーナ嬢はオレの手を握ったまま離してくれなかった。

 おそらくこのまま店員たちにも、そしてミーナ嬢にさえも見せつける気なのだろう。


 さすがにそこまでされると色々と危うい気がするので、馬車を降りると同時にトイレに行くから先に行っていてもらうことにした。

 苦しい、本当に苦しい言い訳すぎて自己嫌悪に陥りそうだが。


 尚、その間にエドガーに先行してもらってミーナ嬢を呼んできてもらう。

 さすがにふたり揃えば、牽制しあって手を出してくることはないだろう。

 ……そう思いたい。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「お姉さま、ソウジ様が嫌がっています。離れていただけませんか?」

「オーナこそ、ソウジ様は子どもには興味がないそうよ。離れなさい」

「行き遅れのお姉さまこそ離れてください」

「大人の魅力がわかっていないお子さまこそ離れなさい」


 エドガーがミーナ嬢を呼ぶ前に、彼女は駆けつけてきてくれた。

 これで大丈夫かと思ってトイレを出たのだが、その瞬間にふたりに左右を挟まれ、そのまま応接室へと連行されてしまった。

 あとはもう、地獄絵図である。


 オレの左右の腕を挟んで、大きいのと中くらいのが幸せな感触を齎してくれるが、それ以上にプレッシャーがきつい。

 人生最大のモテ期が訪れているのは確かだと思うが、こんな修羅場はほしくなかった。

 それに、今はふたりの気持ちに応えることはでないも胃が痛い要因のひとつだろう。


 それでも、お世話になっているベテルニクス商会に泥を塗るわけにもいかない。

 ふたりを振って関係を悪化させるのは本意ではないし、これからもベテルニクス商会の力は必要だ。

 だが、だからといってどちらか、もしくは両方と付き合うというのもいざこの世界を離れるときの足枷になってしまうので難しい。

 そもそも、両方と付き合うなんてできるのか?


 この世界は一夫多妻とかありなんだっけ?

 結婚なんてするつもりゼロなので、まったく調べていなかった。


「あなたは第二支店のほうへ早く顔を出したほうがいいんじゃない?」

「それは明日でも問題ありません。予定でも明日が顔見せですし。ですから、今日はソウジ様のお屋敷に泊めてもら」

「だめよ! いくらオーナでもそれはだめ!」

「……お姉さまはソウジ様と一夜をともにしたのでしょう? 不公平ではありませんか?」

「え?」

「え?」


 現実逃避している間にも姉妹の間で繰り広げられている牽制合戦は拡大していたのだが、聞き捨てならない言葉がオーナ嬢から出てきた。

 一夜をともにした? 誰が、誰と?


「ミーナ様、これは一体どういうことでしょうか?」

「あ、えっと、その……」

「お姉さま……。まさか……」

「ち、違うの! あれよ! ほ、ほら試食会! 試食会をして夜遅くまで……。その……」

「はあ……。ヘタレのお姉さまのことだからそんなことではないかと思っていました」

「へた!? ヘタレじゃないわよ! 私だって頑張って! うぅ……」


 どうやらミーナ嬢はベテルニクス商会、というよりはオーナ嬢への牽制のために、虚偽の報告をしていたようだ。

 いや、虚偽というよりは、この場合は拡大解釈によるミスリードだろうか。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はいはい、わかりました。焦る必要はなさそうですね。ほら、お姉さまも離れてください。私は離れましたよ。いつまでもそうしているとソウジ様に嫌われますよ?」

「うぅ……。わかったわよ……」


 美人で日本のグラビアモデル顔負けのスタイルのよさと零れ落ちそうな見事な双丘を持ち、商才溢れる今をときめくミーナ嬢だが、色恋沙汰の経験はもしかして少ないのだろうか。

 マヨネーズで釣れたり、試食会でうやむやにできたり、色々とミーナ嬢の回避手段を思い出すと、だんだん正解な気がしてくる。

 むしろ、オーナ嬢の言うようにへたれという言葉がしっくりくる。


 今もオーナ嬢に言われてオレから手を離し、シュンとして小さくなっている。

 普段のギャップでその姿はかなりやばい。

 なるべく意識して見ないようにしなければ、頭を撫でていたかもしれない。

 そんなことをしたら、やっと騒ぎが治まったのに再燃してしまう。


 とにかく、呆れてるオーナ嬢から話を聞くと、やはりベテルニクス商会というよりは、オーナ嬢個人へ、オレとミーナ嬢が恋仲になっていると勘違いさせるような内容の手紙が届いていたようだ。

 自身の姉のことをよく知っているオーナ嬢としては、すぐさま嘘だと見抜いたようだが。

 ただ、すぐにでも確かめたかったが、転移施設を使うのもそう簡単ではないため、確認をとれなかった。

 今回、第二支店を任されたことによってやっと迷宮都市へ来ることができたので、事の真相を確かめるために色々と大胆に行動したようだ。


 だが――


「では、ソウジ様。お屋敷に参りましょうか。お姉さまは今日は反省していてください」

「そ、そんな! もうちゃんと反省したから……って! だめよ! あなたはここに泊まりなさい! 何をどさくさに紛れてソウジ様の屋敷に泊まろうとしているんですか!」


 オレへの説明とミーナ嬢へのお説教をしていたオーナ嬢が、十分に自分の姉の気勢を削いだと判断したところで行動を起こした。

 だが、さすがに見逃すミーナ嬢ではなかったようで、仲良くまた喧嘩が始まってしまった。

 もうなんというか、微笑ましいという言葉しか出てこない。


 実はオーナ嬢は、大好きな姉の気が引きたいがためにオレを利用しているだけなのではないだろうか。

 そんなことを思ってしまうくらいには、ふたりのやり取りは端から見ていると微笑ましいのだ。


 うーむ。これなら特に対策もしないでもいいかもな。

 そんなことを思いつつ、仲の良い姉妹を眺めていたのだが、不意にオーナ嬢がこちらに目線だけをよこすと一瞬だけ、少女とは思えない艶めかしい女の表情とともに獲物を狙う猛禽類の鋭い瞳をみせた。


 目の前で喧嘩しているミーナ嬢には見えないようにタイミングを図っての一瞬の出来事だったが、明らかにわざとオレにその表情をみせたのがわかった。

 彼女はどうやら、姉をいじりたいがためにオレを利用しているわけではないらしい。

 でなければあんな女の顔はしないだろう。

 嫌な汗が背筋を流れていくのを感じざるを得なかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 結局、第一支店でベテルニクス姉妹とは別れ、無事屋敷まで帰ってきた。

 ミーナ嬢がヘタレだと言うことがわかったので、これからも回避手段には事欠かないだろう。

 だが、問題はオーナ嬢だ。

 最後にみせた表情が今でも脳裏に焼き付いている。

 少女とは思えない艶めかしい女の表情が妙にちらつくのだ。


 オーナ嬢は確かに魅力的な美少女だが、オレの好みかと言われるとそうではない。

 どちらかというと、ミーナ嬢のほうがタイプだろう。

 だからって彼女と付き合うつもりもないが。


 とにかく、オーナ嬢に関してはこれから会う機会が増えるだろう。

 あまり、少女だと思って舐めてかかっていては、いつの間にか身動きが取れなくなっている可能性がある。

 それだけの迫力が彼女にはあった。

 もちろん、命の危険だとか、陥れられるとかそういう方向ではない。


 ひとりの男と女として、何かしてきそうなのだ。

 ミーナ嬢以上に警戒しておく必要があるだろう。


「もぐもぐ。あ、ミドー様。おかえりなさい! 頼まれていた魔法式が出来上がりましたよ!」

「ありがとうございます。無理はされていませんか?」

「いいえ! もう絶好調です! 先程も美味しいお菓子を頂いていたところだったんです! いいですよね、ショートケーキ! この苺がたまりません!」


 腹ペコ魔人は今日も絶好調なようで、元気にワンホールが簡単に乗りそうな大皿を見つめて報告してくれる。

 不気味なオーナ嬢を相手にしたあとだと、ミリー嬢のほんわかした雰囲気が非常に心地よい。

 彼女から手渡された魔法式を軽く確認してみるが、オレの知識ではすでに半分も理解できないレベルのものになっている。

 それでもわかるのは、この魔法式が精神に影響を与えるものだということだ。


 ほんわかした雰囲気のままミリー嬢の口から語られる魔法式の効果に、頭のどこかでストップがかかっているが、手段を選んでいられるうちにこういったものを準備しておくのは悪い手ではない。

 本当に必要になったときに作っていては間に合わないのだから。


 実際にこの魔法式を使った魔道具が使われたら、彼女はなんと思うのだろうか。

 自分の作ってしまったものが、人間の精神を意図的に操り、そして破壊する様をみたら、彼女は正気のままでいられるだろうか。


 いや、無理だろう。

 実現しないと思っているからこそ、彼女には作り出せるのだから。


 オレはなんと酷い男なのだろうか。

 だが、彼女に魔法式作りをやめさせる気はない。

 申し訳ないが、彼女には最後までオレに付き合ってもらう。

 いや、隠し通すつもりではいるが、世の中そうは甘くないだろうからね。


 彼女が真実を知ってしまったときに、それでも魔法式を書いてくれるのかはわからない。

 だが、それまでは妄想の中のできごとと思っていてもらおう。


 罪悪感を胸にしまって、次に書いてもらう魔法式の話に花を咲かせる。




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