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023,元探索者



 神々へと至る家を見学し終え、屋敷へと戻ってきた。

 これからは、本格的に迷宮攻略へ向けて動き出すことになる。

 だが、ただ迷宮を攻略すればいいというものではない。

 迷宮の最奥に存在する大結晶を入手すること、それが最大の目的だ。


 現在、迷宮へ資源を求めて潜っているものたちではなく、迷宮の深部へと進もうとしているものたちも同じ目的を持っている。

 彼らはライバルであり、蹴落とすべき相手だ。

 大結晶を入手しても、神へとアクセスするために使わず、売り払うのならまだ取り込むことは可能だろう。

 だが、大賢者、ハードリックの例があるため、彼に続こうとするものも多い。

 つまり、金が目的ではないものたちだ。


 そもそも、迷宮の深部では、浅い層では決して手に入らない高額な素材を得ることが出来る。

 そういったものを売り払うことによって、お金にはあまり困らない状況になってしまうそうだ。

 もちろん、有用な魔道具や装備のためにそういった資金を使ってしまうこともあるので、必ずしも困らないわけではないようだが、大抵の場合、金に困っているような探索者では深部へたどり着くことなどできはしない。


 そういった理由で、現在攻略の最前線にいるような探索者たちを取り込むのは難しいだろう。

 やはり、金銭での拘束よりも、信頼やその他の拘束力を用いたほうがよい。

 たとえば、忠誠を捧げてもらうとか、恩を売るとか。


 迷宮という場所は、魔物と日夜命を賭けた戦闘を繰り広げる世界だ。

 怪我を負うのは日常茶飯事であり、死ぬことだってよくあることだ。

 死なないまでも、日常生活に支障をきたすほどの怪我をすることだってある。

 そういった元探索者向けの職業も、迷宮都市にはたくさんある。

 だが、大抵のものたちはやりきれない思いを抱え、燻って生きていくことになる。

 もう一度探索者として返り咲きたいと思うものは大勢いるのだ。


 もちろん、探索者として培った経験などを活かして、後任を育てる仕事をしているものも多い。

 今回は、迷宮攻略に向けての様々な知識を得るためにも、こういった人物たちを雇い、情報収集をまずしていくことにした。

 元探索者のエドガーとマッシブもいるが、彼らの本業はオレの護衛だ。

 それに、迷宮の深部どころか、浅い層での活動を中心としていたので、迷宮攻略の知識を得るには力不足といえる。

 無論、吸い出せる知識は吸い出しておいたが。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 何度か依頼をしに訪れたことがある第三区画の探索者ギルドには、迷宮で怪我を負って現役を引退せざるおえなくなった元探索者を訓練教官として雇用したりしている。

 無論、五体満足な探索者の訓練教官もいるので、臨時雇用に近いものだ。

 ぶっちゃけ給料は安い。

 だが、怪我で満足に仕事をできなくなったものにとっては、まだマシな職業と給料だ。

 ほかにも総合ギルドや医療ギルドなどからも、怪我が元で引退した探索者や冒険者に職業斡旋が行われているが、基本的にはどの給料も安い。

 この辺りは職があるだけマシなので仕方ないだろう。

 実際に、食うだけならなんとか生活していける額ではあるのだから。


 今回はそういった元探索者の中から、特に迷宮に詳しかったり、戦闘能力が高かったものたちを雇用しようと思っている。

 探索者ギルドに話を通すと、大変喜ばれた。

 探索者ギルドでも臨時雇用をしてなんとか彼らの生きる目的を作ろうとしているようだが、適正というものはある。

 どうしても、探索者としてしか生きられないものも多く、なかなか仕事が続かないそうだ。


 ただ、オレとしても慈善事業をするつもりはない。

 こちらの要望にあった人間しか雇用しないし、人数だって多くは雇わない。

 期間だってそれほど長く雇うつもりもない。

 そもそも、まずは情報収集だ。


 探索者ギルドから元探索者で障害持ちの人間をリストアップしてもらったところ、以前に迷宮の中層辺りで活躍していた人間が幾人かいるのがわかった。

 彼らは、ほどほどに稼いでいた探索者なので、怪我で引退したあともそれなりに生活はできている。

 ただ、どうしても貯金を食いつぶしていたり、現役時代に使っていた装備や魔道具を売り払って生活費を捻出しているようだ。

 以前と同じような生活をしていては、そう遠くないうちに破綻するだろう。

 人間というものは、一度贅沢な生活を経験してしまうと、生活のグレードを下げることが容易にはできないものだ。

 それはこの世界でも同じであり、彼らも必死に職を探し、ほかよりも高い探索者ギルドで臨時雇用してもらっている状況らしい。


 そういった理由もあり、現在の臨時雇用よりも高い給料を払うと知れば、すぐにこちらに移るだろうと言われた。

 さらには、もう彼らは探索者としての芽がないので、これまで積んできた経験や技術の伝授に躊躇いはない。

 それらが一番金になった時期はもうとうに過ぎているそうだし。


 迷宮は、一定周期で地形や出現する魔物が変化する。

 彼らが現役を引退した直後や、迷宮が変化する前までだったら、情報が高く売れただろう。

 だが、地形や魔物が変化してしまったあとでは、その情報が役に立たなくなる場合が多い。

 そうなると、高い金を払ってまで知りたいと思えるようなものではなくなる。

 戦闘技術についても、ほとんど実践で鍛え上げた彼らは、教えるのがうまいとはいえない。

 腕や足がなくなっていたり、まともに戦闘ができなくなっている状況では、口頭で教えるのが関の山だ。

 いくら迷宮の中層で活躍していた探索者でも、そうなってしまえば教えを請いたいと思うものは少なくなるようだ。

 だが、それでもまったくいないわけではなくなるので、探索者ギルドで臨時雇用されたりする。


「では、一度面接を行なってから決めたいと思います」

「畏まりました。全員に連絡を取り、ミドー様のご都合のよろしい時間に集合させます」

「ええ、ではそうですね――」


 リストアップしてもらった人材の中から、ギルド職員のお勧めも聞きつつ面接をする人を決める。

 相手側が受けるかどうかまだわからない状態だが、断るものはいないだろうと太鼓判を押されたので大丈夫だろう。

 探索者ギルドの臨時雇用の数倍の給料なのだから当然だと思うが。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 後日面接した結果、八名の中から三名を雇用することにした。

 元探索者ということもあって、ほとんどの人間が荒っぽい。

 情報収集するにも、こちらが聞きたい情報をうまく言葉にして伝えられるかどうかも問題だった。

 識字率が三割をきるこの世界では、探索者や冒険者になる人間に学を求めるのは間違っている。

 こちらの望む情報をきちんと言葉にして相手に伝えるというのは、意外と学がいるものだ。

 リーダー役をしていた人間ならまだしも、そうでないものにとって頭を使う作業はなかなかに厄介なのだ。

 そもそも、それができるならもっとマシな仕事に就いていただろう。


 結果、比較的ほかよりもマシな女性が即採用となり、残りの二名もほかよりはマシという理由で採用した。


 この三名には、毎日屋敷で聞き取り調査を行い、それを各それぞれ十日行う契約となっている。

 その後、再度雇用するかどうかは状況をみて、だ。


 調査用の質問などはすでに用意してあるので、エドガーとマッシブにも協力してもらって手分けして行う予定だ。

 三名には別室で聞き取りを行うので、彼らにも手伝ってもらうことになった。

 ボーナスを出すといったらふたつ返事で了承してくれたしね。


 尚、こちらの質問に真面目に答えていなかったり、態度が悪かったりする場合、途中で契約を解除する旨も伝えてある。

 エドガーたちに、舐められないように釘を刺しておく必要があると助言をもらったので組み込んだ内容だ。


 ベテルニクス商会を通さない仕事としては、ミリー嬢以来になるし、ミリー嬢は真面目で大人しかったのでそんな心配は必要なかった。

 だが、今回は相手が相手だ。

 引退したとはいえ、中層で活躍していた探索者なので、侮られては食い物にされかねない。

 まあ、そうならないように人選もきちんとしたつもりではあるが。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「ミドー様! お父さんの研究資料が届きました! これでもっと色んな魔法式を書けるようになりますよ!」

「それは楽しみですね。あとで私にも読ませてください」

「はい! もちろんです! 小さな頃はちんぷんかんぷんでしたが、今の私ならちゃんと読めるはずです! 今から読んできていいですか!」

「ええ、新しい魔法式、期待していますね」

「任せてください! ミドー様のお知り合いの魔法使い様にもよろしくお伝えください!」

「ええ、伝えておきます」


 雇った元探索者たちの聞き取り調査が始まって数日。

 魔法式の研究者をしていたという、ミリー嬢の父親が所持していた研究資料が屋敷に届いたようだ。

 これは、ミリー嬢の父親が亡くなった際に借金のカタに差し押さえられてしまったものだった。

 だが、ミリー嬢が少しずつ借金を返していたこともあって、数年たった今でもまとめて保管されていたらしい。

 何年も保管されていることなど非常に珍しいことではあるが、そもそも魔法式の研究資料などはなかなか売れないものだ。

 ぶっちゃけてしまえば、不良在庫を持て余していたのだ。

 そこで、オレが借金を肩代わりし、差し押さえられていた資料のすべてを回収したのだ。


 例の魔法式の専門書のようなレアなものはないが、今のミリー嬢の知識より遥かに有益な資料が揃っていると彼女は豪語していた。

 まあ、彼女の父親の遺品でもあるし、借金もオレにとっては大した額ではなかったので、問題はない。

 ミリー嬢のやる気もさらにあがったようだし、よかったよかった。


「旦那、ミリーの嬢ちゃんがものすげぇ浮かれてたが、ついにプロポーズでもしたんで?」

「ミーナ様の前でそういう冗談は口が裂けても言わないでくださいね。ちなみに、違います」

「もちろんでさぁ。俺が殺されちまう。まあ、ミリーの嬢ちゃんじゃ愛人止まりだわなぁ」

「それも違いますけどね」

「……旦那。今度いい娼館紹介しやしょうか?」

「あとで詳しく聞きましょうか」


 今日の聞き取り分の書類を持ってマッシブがやってきたが、彼の冗談はいまいち笑えない。

 ミーナ嬢の耳に入ったりしたら、ミリー嬢の身の安全が危うくなる。

 ……いや冗談だが。


 ちなみに、オレも男だ。

 たまにはそういうところにも行きたくなるのは健全である証拠だ。



気に入ったら、評価、ブクマ、よろしくおねがいします。

モチベーションがあがります。


2018.6.10 誤字修正

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