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017,公認免許受験



 本日は、ゴーレム使いの公認免許受験日だ。

 久しぶりにやってきた職業ギルドで、事前に用意しておいた受験用書類を提出する。

 試験は、実技のみであり、ゴーレムの生成と基本の操作が合格点に達していれば合格となる。

 日本の免許制度のように、一定回数以上の座学や実技が必要ではないし、試験内容自体も非常に簡単だ。

 この辺りはまだまだ法制度が発達していないが故の結果だろう。

 ゴーレム使いの公認免許以外でも、もっと取り扱いの難しい技術でも同じようなものだというのだから。


 受付前にある木製のベンチで時間まで待つ。

 残念ながらゴーレム使いはそう多くないので、一度に何十人も受験することは稀だ。

 今回もどうやらオレを含めて七名しか受験者がいないらしい。

 それでも多いくらいだと言うのだから、ゴーレム使いの少なさがわかる。

 だからこそ高給取りとして重宝されるのだろうけど。


 しばらくの間、ミリー嬢から借りた魔法式の本を読んで待っていると、職員がゴーレム使いの受験者を集めだした。

 どうやら試験時間のようだ。

 明確な時間が決まっているわけではなく、試験会場の空き具合で時間は変化する。

 日本のように、分単位でスケジュールを決めるような世界ではないのだから仕方ない。

 海外のように時間にルーズな世界なのだ。


 職員が全員集まっているか確認したのち、ぞろぞろと試験会場へと移動する。

 とはいっても、以前実技を見学したあのグラウンドだった。

 今日は様々な公認免許の試験日でもあるようで、そこかしこで真剣な表情をした受験者たちが試験に望んでいる。


「それでは、一番の方からゴーレムの生成と基本操作を行なってもらいます。ほかの受験者は順番がくるまで静かにお願いします」


 グラウンドで試験をする以上、ほかの受験者に隠して行うことはできない。

 仕切りなんかがあれば別だけど、そんなものは用意されていない。

 一番の受験者も、皆にみられていることでかなり緊張しているようだ。

 集中力が大事な魔力操作なので、緊張していては本来の力を出せないかもしれない。

 だが、それも含めての試験なのだろう。

 ゴーレム使いは、たくさんの人間がいる場所で重機代わりにするのが基本だし、たくさんの視線に晒されるのには慣れておかなければいけない。


「――では、次の方!」


 一番手を務めたエルフの男性は、なんとか三メートルのゴーレムを生成し、基本の操作をやり終えることができて、ホッと息をついていた。

 いやあ、改めてみると本当に大きい。

 動きは鈍重でこそあるが、それを補って余りあるパワー。

 材質が土なので、耐久性は低いが、それでも普通の工事現場では十分なものだ。


 次々と受験者たちがゴーレムの生成を行い、数人が基本操作で失敗してこそいたが、半数以上は合格ラインだろう。

 そして、オレの番がやってきた。


「では、次の方! まずはゴーレムの生成を」

「わかりました」


 職員の号令に従って、ほぼ一瞬でゴーレムを生成する。

 その大きさは、ほかの受験生たちとは違って、十センチ程度。

 だが、オレの生成できるゴーレムの限界が十センチなので仕方ない。

 それに、大きさは試験対象外なのだから。


「……え? 小さい、ですね。え?」

「……小さなゴーレムなんて初めてみた」

「なんだあれ。どうやって生成したんだ?」

「ほんとにゴーレムなの?」

「……ぶっ! ぶはははは! なんだあれ! あれがゴーレムかよ! ちいせえ! 小さすぎて何の役に立つんだよ! ぶはははは!」


 若干一名以外は、驚きと珍しさで目を丸くしていたが、反応は予想通りなので気にすることはないだろう。

 腹を抱えて笑っている受験生のヒューマンの男性のような反応も、中にはいるだろうと思っていたのでこちらも問題ない。


「生成の合格の基準に大きさの項目はなかったと思いますので、問題ありませんよね?」

「あるに決まってんだろ! バカじゃねぇのか! ゴーレムは重量物を運ぶためにあんだぞ!」

「いえ、確かに合格です。では次はゴーレムの操作をお願いします」

「はぁ!? そんな小せえゴーレムが何の役に立つってんだよ! 合格とか頭おかしいんじゃねぇのか!?」


 何やら腹を抱えて笑っていた受験生がいちゃもんをつけてくるが、合格基準が覆ることはない。

 無視してゴーレムの操作を行う。

 基本の操作を正確に行い、命令通りに動けるかをひとつひとつ確かめる。

 驚いていた職員も、小さなゴーレムのキビキビした動きや、命令を寸分違わず実行している様をみて、真剣に採点していた。

 ただ、三メートルのゴーレムのような重量物の運搬だけは、この小さなゴーレム単体ではできない。


「次は重量物の運搬ですが、このゴーレムでは無理ですよね?」

「そうに決まってんだろ! どうやったらこんなチビが運べるってんだよ!」

「君。さすがに目に余る。次に口を出したら減点とする」

「チッ」


 先程から野次を飛ばしていた、ヒューマンの男性についに職員が警告する。

 ほかの受験者たちも迷惑そうにしていたので、当然の結果だ。

 もともとオレは無視していたので気にしていないが、ちょっとスッとした。


 気分もよくなったので、職員に笑みを返し、新たにゴーレムを複数体生成する。


「ほぅ! これはすごい」

「ゴーレムを同時に!?」

「すごい!」

「小さなゴーレムがいっぱいで可愛い……」

「なっ……」


 普通は、ゴーレム使いひとりにつき、生成できるゴーレムは一体だ。

 だが、オレはそうではない。

 その光景をみた職員と受験者たちは口々に驚きの声をあげ、野次を飛ばしていた男は絶句していた。

 ふふ、なかなかこういうのも悪くない。


 小さなゴーレムたちが、三メートルのゴーレムが運搬していた重量物を、全員の力を使って担ぎ上げる。

 そして、三メートルのゴーレムが運ぶよりもずっと早く重量分の運搬をやってのければ、職員と受験者から拍手が沸き起こったほどだ。

 その様子に、同じグラウンドでほかの試験を受けていた人たちも気になって視線を向けてくるほどだった。


「これは大したものですね。小さなゴーレムでも十分に活動できるようです。いや、操作能力においては一流といって差し支えないものでしょう。文句なしです」

「ありがとうございます」


 すべての試験をやり終えれば、待っていたのは職員からの絶賛の嵐だった。

 実際に、ほかの受験者よりも数段上の操作能力を見せつけたと思う。

 ミリー嬢が一流と褒めてくれた魔力操作の賜物だ。

 ありがとう、不思議な踊り。そして、モリス。


「では、次!」


 あれだけ称賛されれば、まず不合格ということはないだろう。

 やり終えた達成感と、余裕もあり、残りの受験者の試験をのんびりと楽しめた。


 ちなみに、野次を飛ばしていたヒューマンの男は操作能力がいまいちな上に、途中でゴーレムが魔力切れで崩れてしまっていた。

 あれでは合格は無理だろう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 公認免許は即日発行され、これで無事オレも無職を卒業できた。

 いや、まだ正確にはどこにも雇われていないし、職があるのとは違うのかな?

 とはいっても、どこにも雇われるつもりもないので、免許取得で無職卒業ということにしておこう。


 公認免許は、日本の運転免許くらいの大きさのカードだ。

 ここに必要事項が明記されており、ゴーレム使いを必要とするような重量物の運搬などがある仕事に応募する際に提出することで有利になる。

 本人の魔力に反応して、特殊な印が浮かび上がるので、偽造もできないし、盗難にあっても本人以外は使えない。

 再発行には結構な額がかかるので、失くさないように厳しく注意された。

 試験の受験料の百倍の金額なので、合格したものたちはコクコクとうなずいていた。


 ……オレなら普通に払えるので、そこまで気にしないでいいだろう。

 そもそも、使う場面があるかどうか。


 そうして、職業ギルドをあとにして、辻馬車を捕まえようとしていたところで事件は起きた。


「待ちやがれてめぇ! てめえのせいで不合格になっちまったじゃねぇか! 責任とりやがれ! この落ちこぼれ野郎!」

「意味がわからないのだが?」


 大声で難癖をつけてきたのは、試験中に野次を飛ばしていたヒューマンの男だった。

 彼は当然不合格だったが、それはどうみても自身の技量不足のせいだ。

 ゴーレムの生成に必要な魔力や魔力操作は、本人の努力である程度なんとかなる。

 一定のライン以上になると、才能がものをいうらしいが、それでも努力は裏切らない。

 その最低限の努力もしていなかったのだろう、この男の言い分はどこからどうみても意味不明だ。


 まあ、小さなゴーレムしか生成できないので、落ちこぼれと言われても仕方ないのかもしれないが。

 だが、オレが落ちこぼれなら、不合格だったおまえはなんなのか。


 青筋を立てて、大声で喚き立てる男を中心に職業ギルド前の広場は円形に人垣が形成されていく。

 その人垣のせいで、職業ギルドに駐在している衛兵たちがなかなか進めないようだ。


 娯楽が少ないこの世界だ。

 地球の昔の人も、火事と喧嘩は江戸の華とはよくいったもので、周囲を囲んでいる人たちはこれ幸いと野次馬となり、衛兵たちをうまく近づけなくさせている。

 まったく……なんと迷惑な話だろう。



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モチベーションがあがります。

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