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012,ミリー



 帰り道は市場に寄り、色々と買い物をしたり情報収集をしたりした。

 やはり市販品の調味料で醤油や味噌は見当たらない。

 調味料を専門に扱っている店で、大豆を発酵させた調味料で一般には出回っていないものがないか聞いてみたが、店主も店員も知らなかった。

 もし、そういったものが見つかったらベテルニクスの支店か、うちの屋敷まで知らせてくれれば謝礼を払うと言っておいた。

 ほかの店でも似たようなことを言っておいたので、何か情報があれば謝礼目当てに報告してくれるだろう。

 ただ、ベテルニクス商会の名を出したので、詐欺や偽情報などは減るはずだ。

 もちろん、商会の名を使う許可は以前からもらっている。


 ついでに、ベテルニクス商会の関係者だとわかると、おまけや値引きをしてもらえて得だった。

 権力に笠を着てるみたいでちょっと罪悪感はあったが。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「依頼を受けました。ミリーと申します。本日はよろしくお願いします! あ、こちらが依頼書です!」


 翌日、朝も早くからメイドのひとりに案内されてやってきたのは、狐耳と大きな狐尻尾が特徴的なビーストの少女だった。

 魔法使いらしいローブに自分の身長ほどもある大きな杖を所持している。

 それなりに可愛らしい容姿をしているが、ローブも斜めがけにしている鞄も年季が入っており、ところどころ補修のあとがみられる。

 なかなか苦労していそうな感じだ。


 依頼書の写しを確認し、彼女がオレの依頼を正式に受けた探索者かどうかを確認する。

 まあ、事前に彼女のことは確認しているので、形式上のものだけど。


「はい、確かに。今日はよろしくおねがいします。私のことは御堂とお呼びください」

「は、はい! ミドー様! 一生懸命がんばります!」


 近場の屋敷に比べると小さいのだが、それでも十分に豪邸と呼べるレベルの家に住んでいるからか、ミリー嬢の緊張が凄まじい。

 狐尻尾の毛が逆だってピンと立っているので、彼女の内面が如実に表されている。

 ビーストって尻尾を観察したら、感情モロバレなんじゃないだろうか。


 ちょうどテラスで魔法の教科書の続きを読んでいたところだったのもあり、そのまま庭に出て魔法をいくつか使ってもらうことにした。

 もちろん、その前に依頼内容の確認だけはしておいた。


「――これで初歩の魔法は一通りになります。えっと、依頼では魔力が尽きるまで……あうぅぅ」


 モリスも使える、初歩の初歩の魔法を一通りミリー嬢にも実演してもらったのだが、話の途中で盛大に鳴り響いた「ぐうぅぅ」という音で彼女の顔は一瞬でゆでダコになってしまった。

 どう聞いても、お腹の虫です。本当にありがとうございました。


「……す、すみません。お見苦しい音をお聞かせしてしまいました……」

「あー。いえ、それは別に構わないのですが」


 狐耳をしゅんと垂らして恥ずかしそうにしているミリー嬢が、消え入りそうなほどの声音で謝罪してくる。

 ただ、よく聞くと、まだお腹の虫は鳴っているようだ。

 ずっと身につけている鞄をお腹にギュッと押し付けて聞こえないようにしているようだが、この辺りは閑静な屋敷街なので、朝方は特に静かなのだ。

 鳴り止まないお腹の音に、小さな体を縮めて狐尻尾もついにはローブの中に潜りこもうとしている。

 そのままだと、ローブの端がめくれてしまって中身が見えてしまいますよ?

 正面のオレからは見えなくても、庭師たちからはみえちゃうから。


「よければ朝食を用意させますが」

「い、いえ! そんな悪いです! それに、お金……払えませんし」

「このままでは依頼の方にも差し障りそうですし、お金なんて要求しませんので、食べてください」

「で、ですが……」

「んー。じゃあこうしましょう。朝食、いや、昼食と夕食も出しますので、依頼内容にはない魔法の指導をしていただけませんか? あー、でもそれじゃさすがに足りないでしょうか」


 一食や二食、むしろ三食ですら大した問題じゃない。

 特に今は出向料理人のモーリッドが、試行錯誤をしまくっていて、使用人たちもその処理に駆り出されているほどだ。

 捨ててしまうのはさすがにもったいないので、まかないとして彼らに提供しているのだが、モーリッドの作る料理は現段階でもどれも美味しいので好評だ。

 今朝も早くから調理場で頑張っているので、簡単なものならすぐに出せるだろう。

 さすがに、ミリー嬢が昆布からとった出汁を飲んだだけで、作り方を当てるほどの食通だったらまずいけど、とてもそうはみえない。

 むしろ欠食児童といったほうがいいと思う。


 オレの提案に、よだれを垂らさんばかりに目を輝かせているくらいだから。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「……はふぅ。とても美味しかったですぅ……。こんなに美味しい料理は何年振りかもうわかりませんぅ……」

「その言葉を聞けば、うちの料理人も大層喜ぶと思いますよ」


 提案通り、ミリー嬢はモーリッドの作ってきた朝食を平らげ、魔法の指導役を受け入れてくれた。

 モーリッドの作ってきた料理は、和食モドキではなく、肉体労働者向けのボリュームのある朝食だった。

 パンなどは、一般家庭では贅沢品とされる白パンだったりしたが、ほかは厚いベーコンやスクランブルエッグの山盛りなど、ミリー嬢の小さな体にはちょっと多いんじゃないかと思えるほどだった。

 その心配は杞憂だったのだけど。

 よくあれほどの量が入るものだ。


 むしろモーリッドは、ミリー嬢の健啖具合を見抜いてこの量にしたのか?


「それでは少し食休みをしてから、続きをしましょうか」

「い、いえ! 大丈夫です! 今すぐでも大丈夫ですよ!」

「いえ、無理しなくても……。本当に大丈夫そうですね」

「はい!」


 先程までローブの上からもわかるくらいぽっこりしていたはずのお腹だが、今はもうぽっこりしていない。

 ……なんだ? ビーストってそういうものなの? それとも彼女が特別なの? ……ま、まあいいか。


 若干混乱してしまったが、本人が問題ないというのならいいだろう。

 さっそく初歩の魔法を何度も発動してもらう。

 ミリー嬢の魔力総量は、応募してきた中でも一番多いので、魔力消費の少ない初歩の魔法程度なら、適度な休憩を挟めば一日中続けられるはずだ。

 彼女よりも魔力総量の少ない執事長のモリスでさえ、半日ほどは問題ないくらいなのだから。


 ミリー嬢の魔力の動きをつぶさに観察する。

 モリスのときと同様に、いや、それ以上に彼女の魔力の動きには特徴がある。

 何度も何度も発動してもらっている魔法と、魔力の流れを確認することで、彼女の魔力の形がみえてくる。

 それは、いくつもの細かい文字。

 モリスのときも毎回同じ形になっていたが、ミリー嬢のそれははっきりとみえるレベルで形が完成している。

 モリスは初歩の初歩の魔法までしか使うことができないが、彼女はその上の魔法も使うことができる。

 一流どころか三流ともいえないレベルだそうだが、それでも魔法を武器として扱うことができる腕だ。


「……ミリーさん。自分の魔力の流れや形は把握できていますか?」

「えっと、魔力操作は魔法使いにとっては基礎の基礎ですので、それなりには」

「私には、ミリーさんが魔法を発動するときの魔力の形が文字にみえるのですが」

「ええっ!? ミドー様は他人の魔力がみえるのですか!?」

「え?」


 一先ず、自分のみえている魔力の形が正しいのかどうかミリー嬢に訪ねようと思ったら、狐耳と狐尻尾をピンと立たせた彼女から遮られてしまった。

 モリスに魔力の形を聞いたときは別段驚いてはいなかったと思うのだが、魔法使いとしての知識の差だろうか?


「ええ、みえます。というか普通はみえないのですか?」

「えっと、魔力操作に熟達した……。一流レベルの方ならみることができるとは聞いたことがあります」


 そういえばゴーレムの操作は自由自在だ。

 複数のゴーレムをそれぞれ個別に複雑な動きをさせることだってできる。

 今でもモリスに教わった不思議な踊りは継続してやっているので、日々魔力操作の腕前は上達していっているのだろう。


 まさか、一流レベルの魔法使いクラスだとは思わなかったが。


「なるほど。とりあえず、一流かどうかは置いておいて。ミリーさんは魔法を発動する際に自分の魔力を文字のように操作しているのですか?」

「置いておいちゃうんですか……。えっとですね。確かにそうかもしれません。私は魔道具を作る機会が多いので、魔石に刻む魔法式、あ、えっと……。特殊な文字や図形なのですが、それに接する時間が長いのもあって、無意識にそうなっているのかもしれません」

「魔道具を?」

「あ、はい。その……。危険の多い探索者よりも、収入は少ないですけどそちらのほうが安全なので……」


 大体の魔法使いは、一般人でも購入できる日常生活で便利な魔道具をお小遣い稼ぎ感覚で作っている。

 一般人でも気軽に購入できる程度のものなので、たくさん作らなければ稼ぎにはならない。

 あくまでもお小遣い稼ぎ程度の収入なのだ。

 それに、探索者として依頼を受けるほうが大きく稼げる。

 もちろん、迷宮に潜る必要があるので、命を賭ける仕事なわけだけど。


 だが、中には当然危険な高収入よりも、安全な低収入をとる人だっている。

 ミリー嬢は後者なのだろう。


「でも、やっぱり収入が少ないので……。昨日みたいにたまに探索者ギルドに行くんです。怖いですけど、実入りがいいので……。それでたまたまミドー様の依頼があって飛びついて……」

「そうだったんですか。ですが、満足に食べられないほどなのですか?」

「いえ、その……。魔法式の専門書が珍しく入荷していたんです……。ごめんなさい」

「そ、そうですか……」


 どの仕事を選ぶかは人それぞれだし、安全な仕事を選んだからといって責められる謂れはない。

 だが、ミリー嬢のこれはなんというか……。

 まさか専門書のために、お腹を空かせるハメになっているとは思わなかった。

 もしかしなくても、この子はいわゆるポンコツ娘なのだろうか。


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