表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/41

011,依頼



 翌日の午前中にモーリッドに魚醤のことを伝え、理想のうどんについていくつかヒントを出しておいた。

 とはいっても、試行錯誤はまだまだ必要だし、答えは知っていても現状の材料で作り上げられるのかはわからない。

 結局はモーリッド頼みなのだ。


 それでも彼ならきっとやってくれるだろう。

 いくつか手に入った、昆布などの海藻類なんかで出汁を取る方法も教えておいたし。

 海藻類は迷宮の海産資源が取れる場所で採取可能だ。

 だが、今まではどうやらあまり食べる人がおらず、ゴミ扱いされてきたらしい。

 モーリッドに以前から入手できるか頼んでいたのが、今日やっと手に入ったのもあって、教えることができたのだ。

 繊細な和の出汁の前では、昨日まで煮詰まって暗い顔をしていたモーリッドなぞ、どこへ行ったのやら。

 ただ、やはり醤油がないので片手落ちだ。


 昆布やワカメが見つかったのだから、どこかで醤油もありそうな気がする。

 同じ様にゴミもしくは、腐敗した失敗作として捨てられている可能性が高い。

 醤油は大豆を発酵させて作るはずだからね。


 今度はそういった条件も付け加えて捜索してもらう。

 今までは市場に出回るものや、珍しい調味料など、基本的に売られているものから探していたのだから。


 冒険者ギルドなんかに依頼を出してみるのもいいかもしれないね。

 いずれ行く予定だし、そのときに頼もう。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 午後はモリスに魔法を何度も使ってもらい、その様子をひたすら見学した。

 初歩の初歩の魔法だが、この屋敷で魔法を使えるのは彼だけだ。

 だが、今は魔法が発動できるということが大事なので、とにかく魔法を使ってもらい、魔力の流れや魔法発動までのプロセスを研究することにした。

 教科書は使えないとわかったからだ。

 あれで魔法が使えるようになる人は一握りだ。

 オレはその一握りの中には入っていない。


 ゴーレムを生成、操作ができるようになり、魔力操作が一段階向上したのもあって、自分の魔力の動きだけではなく、他者の魔力の動きも敏感に感じ取れるようになっている。

 昨日、魔法使いの実技を覗き……見学したときにも遠目からではあるが、ある程度魔力の動きを把握できた。


 だが、やはり遠くから見るより近くから見たほうが、わかることは多い。

 特に魔力がどのような形を成して動いているのか。

 どうやら、モリスの魔法は決まった魔力の動きの下に発動している。

 小さな火を灯す魔法――種火の場合、どれほど使っても同じ魔力の形と動きを取る。

 もちろん、種火だけではなく、すべての魔法でそれぞれに同じ形と動きになるようだ。


 もちろんそれが判明した時点で試してみた。

 オレの魔力操作はすでにモリスと同等かそれ以上になっているので、自分の魔力の形や流れを操作するくらいは楽にできる。

 だが、どんなにモリスの形と流れに近づけても、魔法が発動することはなかった。

 理由は不明だが、魔力の形と流れを他者のそれに近づけるだけではだめなようだ。


 ……モリス以外にも魔法を使える人を探して、違いを確認してみたい。


 職業ギルドで聞いて知っているが、魔法使いは多くはないが、別に少ないわけでもない。

 一般人まで魔道具の恩恵に預かれる程度には、魔道具が普及しているこの世界。

 魔法使いはお小遣い稼ぎに簡単な魔道具を作って販売している。

 すべての魔道具がお小遣い稼ぎ目的で作られているわけではないが、実に全体販売数の一割はこういった魔法使いの製作したものなのだ。

 一流にはなれずとも、二流、三流の魔法使いがこれらの魔道具を作っているようだ。


 幸いここは迷宮都市。

 迷宮の探索や、資源採取には魔法使いは欠かせない存在だ。

 三流どころの魔法使いを探す程度なら苦労はしないだろう。

 初歩の初歩の魔法が使えればいいだけだからね。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 翌日。

 試行錯誤に熱をあげているモーリッドはそっとしておいて、辻馬車を拾って探索者ギルドへやってきた。

 探索者ギルドとは、迷宮の探索を目的とした管理組織だ。

 迷宮は、一定の周期で内部構造を変化させる。

 迷宮の内部は、世界のどこかを模して構築されるのだが、そのどこかが一定周期で変化するのだ。

 昨日までは洞窟だった場所が、今日は草原になっていたりもする。

 すると、当然ながら資源となるものも変化するし、場所も異なる。

 そういった資源の分布や、魔物の調査を行うのが探索者の主な役割だ。

 珍しい資源を早期に発見できれば、まさに一攫千金となることもある。


 そうでなくとも、迷宮は広く、いくつもの階層に分かれている。

 深い階層ほど、強い魔物が出現するが、資源が必ずしも貴重かどうかはわからない。

 ただ、深い階層の魔物の強さのせいで、資源が手付かずで残っていることが多いため、ベテランの探索者は深い階層から大量の資源を確保して大金を稼いだりしている。


 つまり、探索者ギルドには、調査や魔物討伐をするために戦力が集まってくる。

 その中には当然、魔法使いも含まれる。

 だが、格差は存在する。

 腕が未熟で深い階層にまで行けないものや、装備や準備が足りないもの。

 様々な理由でくすぶっているものは絶対にいる。


 そういったものの中から初歩の初歩程度の魔法が使えるものを、少しの間雇うつもりだ。

 安く上がりそうだから。


 ちなみに、冒険者ギルドは迷宮内で指定される対象を入手する仕事を主に行なっている。

 迷宮内の調査などは探索者ギルド。

 捜し物は冒険者ギルドといった感じだ。


 こう聞くと、冒険者ギルドの方が規模が小さいように感じるが、指定されるものは大量の資源だったり、貴重な植物や魔物の素材だったりと、かなり幅は広い。

 中には迷宮以外のこともあるが、それは下っ端も下っ端の話だ。


 探索者ギルドも、冒険者ギルドも、どちらも迷宮都市においては最大勢力なのだ。

 それぞれのギルドの仲も悪くなく、どちらのギルドにも所属しているものは多い。

 状況に応じて使い分けている形だ。


「では、こちらの内容で依頼を受理させていただきます。よろしければサインをお願い致します。代筆も可能ですが、如何がなさいますか?」

「問題ありません。……ではこれでよろしくおねがいします」

「はい、受理致しました。好条件ですので、おそらくすぐに希望者が現れると思いますが、お待ちになりますか?」

「では、あちらで少しの間待たせて頂きます」

「畏まりました」


 探索者ギルドは、総合ギルドで感じた日本の役所といった風情ではなく、木造の大きな建物に酒場が併設されたものだった。

 武装した集団や個人が八割以上を占め、一般人は職員くらいだ。

 オレのように依頼をする人間は、専用の入り口から入り、二階で手続きを行う。

 吹き抜けとなっているので、一階にいる探索者たちの様子を安全に観察できる。

 彼らは二階に上がってくることは稀だ。

 完全に二階以降は、依頼者や職員たちのスペースとなっているからだ。

 依頼者はほとんどが武力を持たない一般人や商人なので、要らぬトラブルを防止するための処置なのだろう。

 権力者や富裕層はここまで足を運んで依頼などしない。

 それに実際、武装した集団の中で手続きをするのは御免被る。

 職員が目を光らせているとはいえ、美味しい依頼は奪い合いになるからだ。

 荒くれ者も多いので、依頼者の安全を守るためにいくつもの規則と物理的な隔たりが用意されているのだ。


 ちなみに、探索者ギルドと冒険者ギルドの隣には警察機構を兼ねた衛兵ギルドが置かれている。

 もし、探索者や冒険者が無法を働こうものなら、即座に彼らにお縄になるというわけだ。

 衛兵ギルドには、ベテランの探索者や冒険者も所属しており、抑止力としてかなりの力を持っている。

 実際に、迷宮都市での犯罪率はほかの街などに比べても少ないほどなのだそうだ。


 無論、路地裏の怪しいところへ行けば、チンピラなんかがすぐに寄ってくるので、日本の治安と一緒にしてはいけない。

 あくまでも、大通りなどの衛兵たちの目の届く場所での話なのだ。


「ミドー様。やはり、希望者が殺到しています。すでに十二名ほどになりましたので、掲示を終了致しました」

「わかりました。では、それぞれの実績とギルドでの評価の一覧をお願いします」

「はい。こちらになります」

「ありがとうございます」


 オレの依頼が掲示されてから数分しか経っていないのに、もう十名以上の応募があったみたいだ。

 初歩の初歩の魔法をオレの指示に従って、魔力が尽きるまで打ち続けるだけの簡単なお仕事なのだから仕方ない。

 安全で、それでいて一日の報酬としてはそれなりに多い金額を提示している。

 これで集まらなかったらさすがに困る。

 受付嬢もわざわざ好条件って言ってくれてたほどだし。


 本当はもっと安くても集まるだろうが、今回は初めての依頼だし、少し奮発しているのもある。

 それに、応募人数が多ければ、それだけ選別できるということでもある。

 どうせなら魔力量が多い人を雇いたい。

 問題がなければ今後は直接お願いすればいいのだから。


 今回のこの値段設定はそういった狙いもあるのだ。


「……。この方なのですが、性格や仕事に対しての態度などは問題ありませんか?」

「彼女は、依頼達成率もそこそこですし、評判も悪くありません。比較的真面目な方なので、問題はないと思います」

「ふむ。では彼女でお願いします」

「畏まりました。少々お待ち下さい」


 受付嬢が予め用意しておいてくれたリストを読んでいくが、さすがに履歴書のようなものはないので、ざっくりとしたものだった。

 その中でも、一番魔力量が多いと思われる人物にあたりをつける。

 そもそも問題のある人物は、始めから対象外にするように言っておいたので、ただの確認だ。


 少しの待ち時間のあと、選んだ女性探索者が依頼を無事受けることができたと報告された。

 仕事は明日からで、屋敷に直接出向いてもらうことになっているので、これでやるべきことは終わりだ。



気に入ったら、評価、ブクマ、よろしくおねがいします。

モチベーションがあがります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ