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伝説の森と港町  作者: のりまき
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第五話

 自然光で目が覚めたチェルシャーは真っ先に自分が探し求めていた虹色の宝石を見つけて、手を伸ばしたがどうにも上手く動かない。それもそのはずで、身体は蔓で固定されていたのだ。それを確認してチェルシャーは思い出した。自分が愛した遥瀬の服をきた魔性の女に意識を奪われたことを。

 チェルシャーは冷静だった。感情的にならず、今自分に出来ることを全て試していった。そしてその結果分かったことは三つ。

 一つ、魔術は発動できない。

 二つ、微量ではあるがマナを吸い取られている。

 三つ、自分の隣に遥瀬がいる。

 ということだった。

 魔術が使えないのはチェルシャーにとって想定内のことだった。魔術が使えるならば拘束など何ら意味のないものだからだ。しかし、マナの吸収は厄介な代物だった。無限のマナの使い手と言われるチェルシャーにとってはほぼ影響のないものに違いなかったが、遥瀬にとってはどうだろう。一時的なマナ切れは大して影響はないが、長時間に及ぶマナ切れは体調不良に始まり、最終的には命にまでかかわるものに発展する。

 あまり時間がない。その事実がチェルシャーを焦らせた。しかし、それでもなお冷静だったチェルシャーはこの現状を打破する方法を見出したのだ。チェルシャーは持ちうる全てのマナを使い果たさんとばかりの勢いでマナを蔓伝いに放出した。すると、蔓はそのマナの質と量に耐えきれなくなって爆発するように千切れ、チェルシャーの身を自由にする。

 魔術発動不可効果ややマナ吸収効果は蔓によるものであることは一目瞭然だった、何を目的としているのか、はたまたそうすることしか出来ないのかは不明だが蔓が吸い取れるマナにも限度があり、それも微量であるということも見抜いたチェルシャーは蔓の吸収できる量以上のマナを送ることで破壊したのだ。

 次にチェルシャーは遥瀬の様態を確認しに行った。意識は今の所ないが、全裸であったため目立った外傷がないことは一目で分かった。命に別状はないだろう。ただ少しマナ不足が続いたのか、呼吸が荒く自分の額と遥瀬の額を触れてみれば遥瀬の方が明らかに温かい。しかしこれは全てマナ不足による症状なので、チェルシャーは蔓にマナを放出した時と同じ要領でかつ、抑え気味にマナを遥瀬へと送り込んだ。だが、やはり意識は戻らない。

 仕方がない、と現状を受け入れたチェルシャーは意識のない遥瀬を背負い、そして虹色の宝石を手にして何処かも分からない出口を目指して歩き出した。

 そんなチェルシャーの前に二つの影が現れる。

「どうしてこの子達が逃げ出してるのかしら?ビジネスパートナー」

 そう言ったのは遥瀬の服を着たままのシャーロットだった。

「どうしてもこうしてもないだろう、と言いたいところだけどついうっかり寝ていたボクが悪かったね」

 それに応えるのは少年の姿をしたロバートだった。

「とりあえずの話はもう一度この子達を無力化してからね」

 その瞬間、猛烈に嫌な予感のしたチェルシャーは距離を取りながら、すかさず炎の玉の魔術を繰り出した。

 しかし、炎の玉は軽々と避けられお返しとばかりに蔓と触手がチェルシャーの元へと伸びていった。チェルシャーは先程の要領で蔓と触手に対して過大なマナを放出することで木っ端微塵にしロバートとシャーロットの攻撃を防いだ。

 それを眺めていたロバートとシャーロットは「ほう」と感嘆の声をあげた。

「ボクが起きていようと寝ていようと変わらなかったんじゃないかな。シャーロット」

「そうね。ただ、いつまでマナが持つかしら?」

 次々と繰り出される蔓や触手をマナ放出で退けながら、勝ち筋を見出そうと考えている最中、遥瀬が目を覚ました。それに気が付いたロバートはすぐさま蔓を遥瀬に向かって伸ばしていた。しかし、チェルシャーも既に気付いており蔓の射線上に入るとマナを放出して遥瀬を守った。その間に色々と思い出した遥瀬はロバートによる快感をも思い出し、快感を求め出した。

「ひひ、もっと気持ちよくなりたい、あぁ、あれがほちぃよ」

 そう言って遥瀬はロバートに向かって手を伸ばした。

「やはり人間とは弱いなぁ。ほら、求めているものだぞ」

 そう言って繰り出された蔓はチェルシャーを大きく避ける形で伸びていく。


「そうは、させるもんですかっ!」

 瞬時に反応し、蔓を破壊したチェルシャーはそのまま遥瀬の身体に触れて、ある魔術を発動した。その魔術とは記憶操作だ。遥瀬の状態を見て対面するロバートが遥瀬に精神的な何かをしたということは分かった。あとは遥瀬の記憶を操作してその何かを無かったことにしてやればいいのだ。そうして元に戻った遥瀬だが現状を把握出来てないため混乱状態に陥った。こういった場合には、その人に目標を与えてやるとその場はなんとかなることを知っていたチェルシャーは「私と共に目の前の敵を倒しましょう!」と遥瀬に叫んだ。瞬間、遥瀬は剣を抜きロバートへと切りかかった。ロバートも負けじと蔓で向かい打つ。しかし、流石は王国騎士団ナンバー5の実力の持ち主であった。不意打ちでもない限りまともに蔓を食うわけもなく簡単に蔓をいなしていく。

「蔓や触手じゃこの子達はどうにもならないわ。ロバート」

 さっさと触手を引っ込めていたシャーロットはロバートと遥瀬の様子を見てそう言った。

「どうやらそのようだね。さて、どうしたものか」

 それに耳を傾けたロバートも大人しく蔓を引っ込めて腕を組みながらシャーロットに応える。


「どうして俺たちを襲うんだ!俺たちが何かしたとでもいうのか?」

  相手の攻撃が緩んだところで遥瀬は問い掛けた。その問いに反応したのはロバートだった。

「どうして?可笑しなことを聞くものだ。そんなものボク達が生きていく上で必要な物であることだからだ」

 それに疑問を思ったのはチェルシャーだった。

「生きていく上で必要?」

「あぁ、そうさ!ボク達はこの穴倉を守る番人で、ここから出ることは死んでも許されない。そして活動していくにはマナを吸い取る必要がある。だからだよ。守るために、生きていくために襲うし、奪う。ボク達だって必死なんだ」

「喋りすぎよ、ロバート。相手は相当な手練れよ。私たちも本気でやらなきゃ負けかねないわ」

 熱の入ったロバートにシャーロットは少しため息をついてロバートを戒めた。

「それもそうだね、少し痛いかもしれないけど仕方がないね」

 ロバートがそう言った瞬間、場の雰囲気はガラリと変わり、チェルシャーと遥瀬に死が間近にあることを自覚させた。

「さぁいくよ!」

 このロバートの言葉が第2ラウンドの幕開けを告げた。

 主に変わったのはロバートとシャーロットの攻撃方法だ。今までは蔓や触手中心だったものが魔術ばかりになったのだ。相手が二人というのもあったが、それを差し置いてもその密度は凄まじく、遥瀬とチェルシャーは防戦を強いられた。最初のうちはまだ均衡を保ててたが、相手はどちらも旧とはいえ宮廷魔導師。実力の差は少しずつ顕著になっていき、遥瀬とチェルシャーの身体にはあちこち魔術が被弾した跡が増えていった。

 その後数分と持たず、遥瀬とチェルシャーの二人は地面に崩れ倒れてしまった。

「まぁ、こんなところかしら?ロバート」

 少し上機嫌なシャーロットはロバートに問いかけた。

「いいんじゃないかな。再び弱き人間共は蔓の牢屋に囚われる、ってね。」

 ロバートの言葉にチェルシャーは腹が立ったが、実際に今は蔓に囚われてしまいそうな現状にさらに腹が立ったが、チェルシャー自身はともかく遥瀬を守るほどには身体が動かないというのもまた事実だった。

「ちくしょう!あれさえ口にすればこんなやつらにやられることなんてなかったのに!あぁ、ちくしょう!」

 すると何を思ったか、遥瀬がぼやくような口調で叫んだ。そんな遥瀬を目にして動いたのはシャーロットだった。

「もしかして、あれとはこれのことかしら?遥瀬。ならばもっと絶望を与えてあげる。これを私が口にするのよ。どう?魅力的な案じゃなくて?」

 遥瀬の服を着ていたシャーロットはそのポケットから白い小さな羽を取り出して、「やめろ!」と叫ぶ遥瀬の目の前でひらひらと揺らしたあとにパクりと食べてしまった。

 すると、シャーロットの身体は白い光に包まれて消えてしまった。

「な!?シャーロットは何処へ?」

 突然の現象に驚いたロバートは声を荒げて二人に問う。そして遥瀬は悪い笑みを浮かべながらこう答えた。

「フレリア王国、シートースシティ。君達にとっては行くことすら死んでも許されない禁忌の場所さ」

「クソが!よくも、シャーロットを!絶対に貴様らを許すわけにはいかない!」

 ロバートは怒り狂い、先程までとは比べ物にならない高威力の魔術を連発する。

 しかし、地に倒れながらも的確に相殺するようにチェルシャーも魔術を連発させ、見事全ての魔術を撃ち落とした。遥瀬はチェルシャーがそうしてくれると信じていたのか、既にロバートの元へ急接近していた。それにロバートは気が付いていたが、既に魔術を繰り出せるほどの距離ではなかった。慌てて距離を取ろうとするが、後衛職と前衛職では身体能力面で大きな差があり、距離を取るどころかますます距離は縮んでしまっていた。そして、とうとう距離は詰まりきり、遥瀬は剣を振るい、ロバートは地に伏した。出血量からも致命傷であることは明らかだった。自分の死を悟ったロバートはチェルシャーを支えながら近づいてきた遥瀬に向かってこう言った。

「どうせ、この森の出口の場所を聞こうとしてるんだろうが無駄だ。お前らは、ボクが死んでしまったらボクやシャーロットに代わってこの森を守る番人になるのさ」

「そんなことにはならないね、だって俺たちは帰るのだから」

 ロバートの負け惜しみだと思った遥瀬はそう言ったのだが、ロバートの虚ろな目には何処か力強さがあった。

「はは、お前らは何にも分かってない。まぁ、俺たちもそうだった。賢者の石を手に入れようとシャーロットと共にこの地に足を踏み入れ、お前らと同じように番人を倒してみればこの有様さ。賢者の石ってのは一種の呪いだ。番人を倒せば自動的に体内に取り込まれ、新たな番人として活動を始めなければならないのさ。マナが生命力である身体になる故にマナの摂取が必要になり、そのために侵入者は捕らえてマナを吸い取らねばならないのだ」

「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ!そんなわけあるはずがない!」

 チェルシャーはロバートの言葉を強く否定したかった。もしそうであるならば自分たちは二度と外へと出られないということになるのだから。

「本当さ。先輩の番人として一つ言わせてもらうとするならば、ここの生活も案外捨てたものじゃない、ということさ。じゃなきゃこうして死にたくないなんて思わないからね」


 この後すぐにロバートは息を引き取り、チェルシャーと遥瀬は穴倉の番人となった。ロバートが言っていたことは全て真実であり、マナを摂取することでしか生きることが出来ない生命体となった二人は時折現れる侵入者を捕獲してはマナを吸い取り、生き延びていた。

 また、フレリア王国のシートースシティの113年続いた大地主だったアイツェール家は後継がついに途絶え、その力を失ってしまった。しかし、未だセントリアの森の穴倉ではその血は途絶えることなく生き続けていたのだった。


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