第四話
セントリアの森の光の差さない穴倉。
「髄分お早いおかえりだね、シャーロット。君は贄をちょっと長持ちさせて遊び倒そうって発想はないわけ?」
「ビジネス上のパートナーの癖に私に口出ししないでよ、ロバート。私には私のやり方があるの。大体、長い間快楽とはいえ自分の与える刺激に悶える姿を楽しもうって考えはいくらウィザードとはいえ残酷過ぎるわよ。」
「ははは、優しいウィッチじゃないか。自分の贄はさっさと息の根を奪ってしまう、つまりは長くは苦しませないのだからな。」
「お忘れのようだから言うと、ロバートの贄の生還率も、私の贄の生還率も同じよ。0よ、0。」
「確かに。ボク達は同じ穴の狢ってことには変わりなかったね。」
「まさしく、私達が今いるのは穴倉な訳だけど。」
*
200年前。
「実技試験総合点数第一位、シャーロット・エマーソン。」
名門シートースシティ魔法学院の大教室に首席を発表する声が響くと同時に、居合わせた学生の間から大きな祝福ではなく溜息が漏れる。
この魔法学院で学年末の試験で首席に在学中一度でもなれれば、フレリア王国宮廷魔術師の採用試験の受験資格が得られる。今回発表されたのは卒業試験も兼ねた7年生の学年末試験の首席。今回までに首席になれなかった宮廷魔術師を夢見る学生は宮廷魔術師の夢を諦めるか、今後自己研鑽をして自分を売り込むしかない。溜息が漏れるのは当然と言えば、当然であった。
「やっぱり首席はシャーロットか。おいロバート、お前のカミさん優秀だな。」
「黙れ、トーマス。ドブネズミに変えてやろうか。シャーロットは確かに婚約者だが、ボク達が望んだのではない。生まれた時から決まっていたんだ。」
「だからからかうのはよせって?嫌だね。ロバートをからかえない人生なんて、肉の入っていないカリーのようだ。」
「普通に肉が入ってないカリーもあるのだが……。」
「はっはっはっ、見逃してくれよロバート。卒業前に無駄に騒ぎたくなる気持ちもわかるだろう。俺は隣の国の民間の魔術研究所の研究員、お前はこの国の宮廷魔術師になる訳だ。離れ離れだぞ。寂しいだろ。」
「まだ採用試験の枠が貰えただけで、決まった訳じゃない。それにシャーロットの方が首席の回数は多いんだ。シャーロットが採用試験受けるならボクは遠慮しようと思う。」
「またまた。7つの首席の座を3つお前が取って、4つシャーロットが取ったって話じゃないか。宮廷魔術師2人同時に採用していることなんてよくあるし、この国で1番の名門魔術学院と言えばここだぜ。カミさんとラブラブ新生活目指して頑張れよ。」
「全くお前は。」
(俺とシャーロットの実情も知らないで。)
と心の中で付け足しながらロバートはその場を去るのであった。
その日の夜。エマーソン家。
「ロバート。話があるのだけど。」
ロバートとシャーロットの少し早めの卒業祝いのホームパーティーという名の周辺の上流階級の人々が押し寄せる立食形式の食事会。シャンパングラスを手にしたシャーロットが壁際でぼんやりとクラッカーを頬張っていたロバートに話しかける。
「どうしたんだよ、シャーロット。君からボクに話しかけるなんて。」
「別に話しかけたっていいじゃない。そ、その……こ、婚約者なんだし。」
「用件は無いわけだ。ボクと仲良く壁の花がしたいと。」
「用件ならあるわよ。そこのバルコニーで話したいの。……今後のことで。」
ロバートは、今後の話は男のボクから話を進めるべきなのにシャーロットに気を遣わせてしまった、と反省しつつシャーロットに続いてバルコニーに出る。温暖な港町だから、潮風が混じった夜の風がパーティで火照った顔を撫でて心地が良い。口火を切ったのはシャーロットであった。
「ロバート、学院を卒業したらどうするの。私は宮廷魔術師を受けようと思う。そして、私はあなたにも宮廷魔術師になって貰えたらいいなって思ってる。」
「ボクは君が宮廷魔術師になるなら邪魔をしないつもりだった。宮廷魔術師の採用率も100じゃない。ボクの家のマクブレインは代々宮廷魔術師だ。宮廷魔術師の試験をするのはボクの大叔父だぞ。いくらシャーロットが優秀でも身内贔屓な採用方針ならば不採用だってあり得るからね。」
「随分おかしなことを言うのね、ロバート。身内贔屓な採用があった時に行動を起こせば良いじゃない。あなたがそんなに最初から後ろに回ることなんてないのよ。学院で7年間首席を取り合った時間は私にとって、首席を取れなかった時は悔しかったけど刺激的で良い時間だったの。2人で宮廷魔術師になればまた切磋琢磨していける。……それに、私はロバートのこと好きよ。」
「友達として、だろ?」
「ふふっ?内緒。」
「はぁぁ。普段ツンツンしてる癖にたまに可愛いからやり辛い。勘違いしてしまうからやめろよ。(魔性の女……)。宮廷魔術師採用試験受けるよ。」
「魔性の女って聞こえた気がするのだけど気のせいかしら、ロバート。ウィッチには褒め言葉よ、それ。代々宮廷魔術師の家柄とはいえマクブレインはウィザードだらけだものね。ともあれ、ロバートが決心してくれて良かった。」
悪戯っ子のようにシャーロットは微笑むと、
「そろそろ中に入りましょうか。体が冷えてしまったわ。」
と言って、ロバートに手を引かれてパーティに戻っていく。いつも姉弟のような雰囲気を纏っていた2人が、まるで恋人のような雰囲気に変化したことに気づいたことに気づいた参加者にからかわれながら夜は更けていくのであった。
あの日から1年、宮廷魔術研究所。
シャーロットがいつものように魔法鍋に向かっていると、ロバートが部屋にノックもせずに駆け込んで来た。
「シャーロット、このダンジョンを見て。」
「これって、シートースシティのすぐそばの森じゃない。探索が中々進まないと有名な。まさか、この森に行くなんて言い出さないわよね。」
「そのまさかだよ、シャーロット。ボクの探知の魔法で賢者の石の在り処を遂に突き止めたのだけど、それがここなんだ。」
「安全に行く手立てはあるわけ?」
「賢者の石まで安全に行けるわけがないだろう?何事も冒険さ。」
*
再び穴倉。
「ロバート……、ロバート……、ロバート・マクブレイン!」
ロバートはハッと目を覚ます。
「心配したわよ、ビジネスパートナー。話してたら急に突っ伏して寝てしまうのだから。」
「悪かったよ、シャーロット。何の話をしていたのだっけ。」
「他愛もない雑談よ。贄についてのやり方の話で言い争いになりかけてロバートが折れたってところで、寝ていたわ。」
「ああ、そうだった。」
「魘されていたけれど本当に大丈夫なの?夢の覗き見は悪いと思って、流石の私もしていないわ。」
「昔の夢を見ていたよ。シャーロットとボクの関係がまだ婚約者だった頃のね。」
「随分懐かしい話ね。私達、どうしてこうなっちゃったのかしらね。」




