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異世界で最初からやり直します!  作者: 吉邑 優孝
2/3

異世界に

 仕事を終え、帰宅した。昨日はあの変な夢は見ていない。体は軽く調子が良いが、この時間になるとまるで胸が抉られるように胸が痛くなる。


「んんっ!」


 耐えられなくはないのだが、なかなか堪える。心身共に健康ではなかったが、このような感覚に襲われるのは初めてだ。だが不思議と不安はなく、その後の解放感が心地いいとさえ思っている。シャワーを浴びて洗面所で首筋を確認すると模様があり、やはり毎日変化しているようだ。ソファーに座り、適当にテレビをザッピングしていると眠気が襲ってくる。今日もただ疲れただけだ。なんの充実感も達成感もない。1日をただ消費しただけだった。ベッドに入り静かに眠りに落ちていった。




 また、夢を見ている。何も見えない空間に気配がする。気まずそうなのがなぜかわかるので、声を掛けてみる。

 「何でしょうか?」


 「あっ...」


 溜息のような声が漏れたが、また黙り込んでしまった。何にも言えず困惑している様子が確かに感じられる。困惑している方とは別にもう一人気配がする。そのもう一人は落ち着かずソワソワしているようだが、困っているようには感じない。何も見えないのに手に取るように分かる。何か変な感じだ。俺はもう一度声を掛けてみた。


 「どうしました?」


 「すみませんでした!説明が不足していたようであなたにまた説明する機会を得るためにまた会いに来ました。一から説明の機会を与えてはいただけませんでしょうか?」


 俺はこれは夢だと思っているが、現実のことのように実感している自分がいることに驚きはしなかった。むしろ現実に感じている。現実の続きとして、いや、夢の続きとして現実があるように思っている。後悔ばかりの人生に刺した光明のように願っている。


「 謝る必要はありません。夢とは言え、私が承諾したことです。契約過程で行き違いがあったとしても契約は履行しなくてはなりません。責任の所在は私にも一部あります。ありのまま話していただければ結構です。説明をお願いします。」


 彼女たちに話をするように促した。彼女たちがどのような業務形態で動いているかは想像さえ及ばないが、規約説明を十分にできなかったため色々と問題を抱えてしまっていることは事実だろう。上司から叱責を受け、罰を受けるかもしれない。だから、この場だけでも緊張しないで話してほしかった。自分がそうであったように。


 「はい、では説明をさせていただきます。私たちは死生課のサンドラとエルミナです。私たちはアトランダムに選択された人間に夢で接触して転生を相談、実行させていただいています。」


少し緊張した声で話し始めた。勝手な想像で天使とか神様とかそういう類だと思っていたが、海外ドラマでも聞いたことありそうな名前だった。転生課と言ったということは他にも部署があるということだろう。


「あなたは私どもの転移転生者選択条件に合致した為候補になり、無作為選択されました。本来なら契約が自由なので放棄も出来るのですが、気付いていると思いますが印は契約の証なので中途破棄が出来ません。ほんとうに申し訳ありません。」


彼女たちの申し訳ないという顔が分かる。


「大丈夫ですよ。この人生にうんざりしているのは事実ですし、破棄するつもりも一切ないです。印というのは首すじにある模様のことですか?」


「はい、この世での残り日数を表しています。この期間でやり残したことを処理していただいていますが、逆に未練を残してしまう方もいます。」


確かにそう思う。ただどう生きたって未練が少しも残らない人なんてごく僅かだろう。俺にだってない訳ではない。だが、どうしてもやらないといけないと思うことなんて片手に収まる程度しかないと思っている。


「確認ですが、転生をお望みでよろしいですよね?」


「はい。」


「転生後は記憶を保持したままにします。基本能力や成長限界を人並み以上にしておきますので、新たな人生を有意義なものにして下さい。以上です。」


「ありがとうございます。」


「では、失礼します。ほら、エルミナも!」


「失礼します。」


俺の意志は夢であろうがなかろうが決まっていたが、聞いて良かった。より確信できた。意識が薄れていく中で頬を撫でる風を感じ、懐かしい匂いがする。そして、微かに聞こえた。


「またね。」


目覚めた。残りは五日だ。


 理解の範疇を超えているが、これは現実だと確信している。通常であれば奇妙な夢を見たと流してしまうところだが、あの声や雰囲気や匂いを覚えている。あと一週間もしないうちに死ぬことに何の疑いもない。ベッドの上で天井を見つめながら、夢を思い出していた。


今日は気持ちが良い。カーテンを開けてビルの谷間から抜けて差してくる日光を浴びた。まだ、自動車もあまりなく、幾分空気も済んでいるような気がする。全身の倦怠感がない。時間に余裕があるので近くのコンビニで缶コーヒーと朝飯を買って朝食を済ませ、出社した。仕事をしていると厳つい風貌の先輩がやってきていつも通り自分の仕事を押し付けてきた。今まで逆らう事が出来なかったが、今日は断った。胸ぐら掴まれ仕事舐めてんのかと言われたので、フロア中に届くような大声であんたの仕事を何でやらなきゃいけないんだと叫んだ。面食らった数秒沈黙していると腕を掴んでどこかに連れて行こうとしたので、抵抗していると、上司がやってきて何の騒ぎだと聞いてきた。先輩は脂汗をかきながら言い訳をしているので、少し興奮しながら上司に話をすると同じような被害を受けていた他の同僚も現れた。先輩は俺を睨みつけながら上司に連れてかれた。報復が怖いが残り数日だ。問題ない。


 定時とは行かなかったが、かなり早く退社することができた。コンビニ以外の店にも寄れる。自動ドアを出たときに同僚に声を掛けられ、感謝された。彼らも先輩の被害者だったらしい。だが、怖くて何もできなかったみたいだ。俺が叫んだおかげで彼らへの嫌がらせ等も明るみ出たようだ。感謝の印に食事でもどうだと誘われたので俺は快く承諾した。居酒屋で嫌がらせや先輩の悪口を肴にいい気分で飲んだ。人と他愛のない話をするなんているぶりだろうか。楽しい。女性にかっこよかったなんて初めて褒められた。彼女も相当ストレスが溜まっていたのだろう。かなり飲んだらしく足元がおぼつかなかったので最寄駅まで送ってあげたが、自力で帰れなさそうだったので自宅まで送り玄関でお休みと言って別れた。


 翌日も出勤して、退社後生命保険会社に行った。死亡保険の確認をした。帰宅してお宝の整理、最後に一度だけ楽しんで売った。自宅まで送った女性から電話があり迷惑かけたこととお礼ということでご飯をごちそうしてもらった。その後趣味やニュースや恋愛など他愛のない話をして笑って別れた。


次の日は休みだったので日帰りで家に帰った。買い物を手伝って、犬の散歩に行った。母親は嫁はまだかと言うし、父親はぶっきらぼうだった。母親の料理はうまかった。好物のレシピを思いつく限り教えてもらった。


出勤して、退社してレンタルビデオを借りていると自宅に送った女性と俺のオススメの映画を見ることになり、食事をした。


退社して、前から気になっていた書籍を買って全部買って、気に入っていた喫茶店で読んだ。土砂降りの雨で街が綺麗だった。


何故か懐いている近所の野良猫が甘えた声ですり寄って来たので腰を落として猫を撫でた。懐かしい匂いがする。胸が高鳴り意識が遠のき目を閉じた。再び目を開けるとそこには多くの笑顔と幸せそうな女性の顔があった。

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