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異世界で最初からやり直します!  作者: 吉邑 優孝
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やり直す前に

「もう嫌だ!」


 何度も幼いころからやり直したいと友人や同僚、親、様々な人にもらしていた。返ってくる答えはいつも同じだ。


「俺も(私も)やり直したいよ。」


 笑いながら返ってくる答えにいつも俺はうんざりしていた。それは仕方のないことだ。一度きりの人生やり直せるはずもないし、多少満足できなくてもそれなりに楽しければいい人生かもしれない。俺も返ってくる答えの意味理解しているから「ですよね。」と返事して後悔やとりとめもない「タラれば」話に花を咲かせていた。


 でも、俺は本気だ。本気でもうこんな人生にうんざりしている。変わりたくても変われない状況や生活、性格、容姿、能力、技能、学力。変われないなら終わってしまっても良いとさえ思っている。今日もそんなことをただ悶悶と考えて癒されない眠りに落ちていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「そんなに嫌なら、どうしたいのですか?」


 深い闇の中で声がする。中性的で優しさを含まない無機質な声だが嫌な感じはしない。


 「どうしたいって、どういうことですか?私がですか?何をですか?」


 俺は上司に何度も間抜けと言われた質問を素直にしてみる。


 「あなたが人生を()()()()()()()()()ならどうしたいですか?」


 「やり直したいです!」


 即答した。自分で思った言葉を素直に正直に言った。優柔不断で無能で何もできない、認められない自分が嫌だった。承認欲求が強いと言われ、自分が不幸だと思いすぎと言われ、無能と言われ、一人で何もできない甘ちゃんと言われ、仕事もできないくせに何で生きてるのと言われた。それでも自分を変えたくて努力もした。幸せに生きるために自分を変えようと思った。眠れない夜が続いても歯を食いしばって耐えた。心無い暴言を聞いても仕方ないと諦め、気付かないふりをした。


 認められなくていい、迷惑にならないように他人の気分を害さないように、ただ小さく小さく影のように気付かれないように生きている自分をこれ以上見たくなかった。幸せじゃなくていい、幸せと思えるような夢を見たかった。生きることを実感できる希望を持ちたかった。


 「分かりました。今日から十日後で次の人生が始まります。その間に今の人生を畳んで置いてくださいね。また、お会いしましょう。楽しみにしてます。」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 目が覚めた。


 こんなに夢を覚えてるなんて初めてだ。妙な現実感もあった。ため込んだ悲観的言葉を夢であっても吐くことができて良かった。胸がすっとして、楽になっているような気分になり少し爽やかだ。足取りは重いが、今日は少し穏やかに会社に行けそうだ。




 疲れた。これが定年するまで続くかと思うとぞっとするが、今日はなぜか気分がいつもよりも落ち込まなかった。自分の落ち度かどうかも分からないままいつも通り暴言の数々を受けたが、ただ受け止めることができた。逆に何か申し訳ないような気になりながら、帰路についた。


 スーパーで買った特価と値札が付いた弁当を見つけて少し幸せを感じ、帰宅したときに重い疲労感は感じず、幸せを感じた。幸せと思えたことに少し驚いている。こんな風に日常を穏やかに遅れればどんなにいいのだろうか。いつもと同じはずなのに不自然なほどに気分が重くない。釈然としないまま、シャワーを浴びまた気分が高揚し、変なものでも飲んだのかなと疑問を感じながら洗面台の前に立った。ドライヤーで髪を乾かしていると首筋のあたりに何か傷のようなものがある。複数の筋が見えて、模様のように見える。「なんだこれ?」と思ったとき、部屋のテレビから24時を知らせるアナウスが流れてきた。


「0時をお知らせします。」ピッ、ピッ、ポーン


「早く寝ないと」と思い、傷が気になってまた見てみると妙なことに気づいた。模様が変化しているように見える。筋の配列が変わった?筋が減っている。残った筋を数えると9本だ。


 すぐに昨夜の声を思い出した。


 10日後まで。


 「いやいや、今日は気分が良すぎて少しおかしいし、そんなことあるわけないでしょ。」


 笑いながら言ってみたものの、事実なような気がしてたまらない。心臓が脈打つ音が聞こえる。強く聞こえる。胸が苦しい。痛い。痛い!


 しばらく、その場で耐えていると楽になった。急な出来事に少し驚いたが、嫌な感じではない。あんなに心臓が痛かったのに恐怖とかは特になかった。ただ、見た夢が本当のことのような気がした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 「昨日伝え忘れたことがあります!」


 夢の中でまた声がした。昨日と違う声だ。


「あなたの死因は心臓発作です!以上です!では9日後に!」


 元気で人懐っこいような声が伝え終わったと同時に帰ろうとしたように思えたので、呼び止めた。


 「ちょっと待って下さい。昨日の方もそうですが、唐突過ぎます。挨拶とか前置きとか何かないんですか?あと、死因てなんですか?」


 「あれ?昨日了承しませんでした?あなた生まれ変わりたいんですよね?」


 「やり直したいとは言いましたが、妙に今も現実感があって、夢なのに夢じゃなかった見たいな感じなんですが・・・」


 見えてはいないが、?マークが出ているのが分かった。


 「えっと、生まれ変わり計画で了承済みと聞いているんですが、説明は受けました?」


 俺は訝しげな顔するように思ってみると、声が少し冷や汗を流しているのを感じる。


 「説明は・・・?」


 「多分受けてないと思います。」


「・・・・。」




 目が覚めた。


 




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