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伝説の人

 お店で至福の時を過ごした私は、満足した気持ちのまま店を出てさらなる目的地に向かった。

 そこには徒歩でも充分行ける距離だったので、今度は周りの景色を楽しみながらのんびり街道を歩いたのだ。

 そうして目的地の場所が見えた時、なんだか沢山の人がどんどん城門の中に入っていくのが見えたのである。


(なんか人が多いな・・・)


 思っていたよりも多くの人が入っていく様子を不思議に思いながら、私はその城門をくぐり街の中に入って行ったのだ。

 ちなみに、ここにも相変わらず例の石があったがもう気にしない事にしたのである。


「・・・なんだなんだ?この賑やかさは?」


 私はそう呆然と呟き、道の真ん中に突っ立って呆然と周りを見渡す。

 何故なら、長く続く道の両側に沢山の出店がずらりと並びそしてその店に其々沢山のお客さんが集まっていた。

 さらに至る所で大道芸の集団が華やかな踊りや芸を見せており、そこにも沢山の人が集まっている。

 そして建ち並ぶ建物には、色鮮やかな飾りが付いていたのだ。

 そのまるで何かのお祭りのような雰囲気に、私は一体何があったんだろうと挙動不審に視線をさ迷わせていたのだった。

 するとその時、そんな私に近くにいた出店のおばちゃんが声を掛けてきたのだ。


「あら?どうしたんだい?見たところ旅人のようだけど、なんだか驚いた顔をしているね?」

「え?あ~はい。この凄い人と街の雰囲気に圧倒されちゃって・・・ちなみに、今日は何かお祭りの日なんですか?」

「あら~あんた知らないでここに来たのかい?なら丁度良かったね~!今日はこのアルカディア王国の王太子様がお産まれになったお祝いのお祭りなんだよ!」

「そうなんですか!?それはおめでたいですね!」

「そうだろう?だけど、もっと喜ばしい事があるんだよ」

「喜ばしい事?」

「なんとその王太子様・・・あの伝説の御方と同じ髪と瞳の色をしているそうなんだよ!」

「・・・伝説の御方?」

「あら、それも知らないのかい?伝説の御方・・・『サラスティア様』の事を」

「うぐぅ!!」


 まさかの自分の前世の名前が出たことで、私は思わず変な声が出てしまった。


「どうしたんだい?」

「あ、いえ、何でも無いです・・・それよりも、その王太子様の髪と瞳の色がその・・・伝説の御方と一緒だと何故そこまで喜ばれるんですか?」

「ああそれはね、代々王家でその伝説の御方・・・サラスティア様と同じ髪と瞳の色をした方がお産まれになる時があるんだけど、その方は必ず大きな魔力を秘めてお産まれになるんだよ」

「へ~」

「だけどなにより凄いのが、その大きな魔力で跳躍の魔法が使える事だね」

「・・・跳躍の魔法」

「ああ、まあそんな魔法使えるの代々この王家の人間のさらに一部の方だけだから、あんたが知らないのも無理はないか。ちなみに跳躍の魔法って言うのはね・・・普通の人では使えない魔法で、大量の魔力を消費して高い場所まで一気に飛び上がる魔法なんだよ」

「へ、へ~」


 おばちゃんが自慢げに説明してくれてるのを、私は曖昧な表情で相づちしたのである。


(・・・ええ、よ~く知ってます。と言うか、今の私も使えるんですけどね。でも・・・前世の私の息子達や娘は普通に跳躍の魔法使えてたけど、やっぱり年数が経つと段々使える人が限られてくるんだな~)


 そう思いながら、遠くにそびえ建つ城に視線を向けたのだ。


「だけどそんな大きな魔力を秘められた方でも、やっぱりサラスティア様には及ばないらしいのよ」

「・・・どうして?」

「だってサラスティア様、跳躍の魔法よりもさらに凄い飛行魔法がお使い出来てたらしいのよ」

「・・・・」

「代々魔力の多い方が産まれても、どうしても飛行魔法がお使い出来る方はいらしゃらなかったそうなんだよ」

「そ、そうなんだ・・・」


(うん!絶対人前で跳躍の魔法も飛行魔法も使わないでおこう!見付かったらすっごく面倒な事になりそう・・・)


 そう驚いた表情を作りながら、心の中でそう固く誓ったのである。

 この前世の第二の古里ともなったアルカディア王国で、私はサラスティアとして生涯を終えた。

 その私はジークと結婚し二人の息子と一人の娘に恵まれ、とても幸せな人生を過ごす事が出来たのだ。

 ちなみに、長男であるリューイは隣国の姫と結婚し幸せな家庭を築き立派な王になった。

 そして次男のライザは・・・なんとあのサラスティアの侍女をしてくれていたアンナと結婚したのである。

 どうも産まれた時からずっと側にいたアンナにライザはいつの間にか恋心を抱き、それは大人になっても変わらずずっと断り続けていたアンナを、最後には口説き落として結婚にこぎつけたライザの行動力には正直驚いたものである。

 まあそれでもアンナの幸せそうな笑顔を見れて、私はとても嬉しかった記憶がちゃんと残っているのだ。

 その時の事を思い出し、私は自然と笑顔になっていた。


「どうかしたのかい?」

「え?いや・・・この祭りの雰囲気が楽しくて!」

「なるほどね。あ、そうだ!それならもっと凄い物がこの祭りの期間だけ一般公開されてるから、良かったらあそこに見えるお城に行ってみなよ」

「・・・お城に?」

「そうだよ!まあ行ってみてからのお楽しみだから、一度行ってみてよ」

「まあ、そんなにお勧めでしたら行ってみますね」

「ああ行ってらっしゃい!」


 そうして私は、そのおばちゃんの勧めるままよく分からないなながらも懐かしい城に向かって歩いて行ったのである。










 私は王城に着くと、隣接する魔法省の敷地に足を踏み入れた。

 最初王城に着くまではどこに向かえば良いのかよく分からず不安に思っていたのだが、そんな不安はすぐに解消されたのである。

 何故なら、ほとんどの人が魔法省に向かって歩いていたからだ。


(・・・ここに何があるんだろう?)


 そう疑問に思いながら、人の波に付いていく事にした。

 そうして魔法省の敷地内にある大きな門をくぐって中庭に入った途端、私はある物を見てピシッと固まったのだ。

 そして次第に体がプルプルと震え出す。

 ただこの震えは寒さからでも恐怖からでも無く、怒りにうち震えているのだ。

 何故なら私の目の前に、10メートルぐらいはあるであろう石像が建っていたからである。

 それもその石像・・・女性の姿をしているのだが、長くたなびいているような髪に、足の部分に風を連想させる彫刻が施されておりまるで女性が宙を飛んでいるかのような表現がされていた。

 そしてその女性の顔は、前世で何度も鏡で見たまだ若い頃のサラスティアその人であったのだ。


(あ、あの魔法馬鹿共!!こんな物後世まで残すんじゃないよ!!!)


 私はそう目を据わらせながら心の中で今は居ない魔法省の面々に向かって罵倒し、思わず掌に雷の魔法を発動させそうになったのである。

 しかしすぐに思い止まった。

 何故ならその石像を、人々が目をキラキラさせて嬉しそうに見ていたからである。


「やっぱりこのサラスティア様の像、本当に素晴らしいよな~!」

「ああ、俺もこの祭りで一般公開されるって聞いて、何日も前から楽しみで眠れなかったんだぜ!」

「俺も俺も!」


 そんな声が聞こえて来てしまったので、出来れば今すぐ抹消したい気持ちをぐっと堪えたのであった。


(こんな事なら、あの時なんとしても壊すんだった・・・)


 実はこの石像私がサラスティアとして生きていた時に、魔法省の人間が勝手に作った物なのである。

 ある日とてもご機嫌な表情でやって来た魔法省の所長であるカルロスが、私に見せたいものがあると言って連れてこられたのがこの場所であった。

 そして自慢げにこの石像を見せられ、私はその瞬間すぐさまその石像を壊そうとしたのだ。

 しかし一緒に来ていたジークと涙目で必死に止めてくるカルロスによって、その場で壊す事は止めてあげた。

 だがすぐにカルロスに石像を壊すよう訴えたが、結局それは受け入れて貰えなかったのだ。

 何故ならこの石像は、魔法省全員でお金を出し合い作った物らしく壊す事なんて到底出来ないと懇願されてしまったのである。

 そんな必死の願いと事情に、私は今回だけだからと渋々認めたのであった。


(・・・まさか、200年経っても壊されていないとは思わなかったよ)


 そう呆れながらも、私は全く綻びの無い石像をただただ見つめた。


「おい、今度は騎士団の訓練場行こうぜ!」

「お、そうだな!そっちも絶対行かないとな!」


 そう先程も話していた男二人が、石像から離れ別の場所に向かって歩き出す。

 そしてよく見ると、他にもその男達と同じ方向に歩いて行く人々がいる事に気が付いた。


(ん?騎士団の訓練場?・・・なんだか凄く嫌な予感が・・・)


 私はそう感じながらも、人々が向かって行く方に歩いて行ったのだ。

 そして数分後、再び私は怒りにうち震えていたのである。

 今度はその騎士団の訓練場の開けた場所に、騎士服を着たサラスティアが凛々しい表情で剣を掲げている大きな石像があったからだ。


(脳筋馬鹿共!!お前達もか!!!!)


 実は魔法省の石像を渋々ながら認めた事で、何故か騎士団の軍総督であるビクトルが中心となって、これまた騎士団全員でお金を出し合ってこの石像を作ってしまったのである。

 正直これを見せられた時は、もう一気に両方とも壊してしまおうかと本気で思ったのだが、結局ジークに窘められて渋々この石像も認めたのだ。


(・・・・・マジで遺言に、この二体の石像破壊を書いておけば良かった)


 そう今更どうにもならない後悔を胸に抱きながら、楽しそうに石像を眺めている人々を諦め混じりの表情で見つめていたのであった。

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