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婚約者

 暫くして再び扉が開き、そこから先程声を掛けてきた侍女と共に一人の少年が入ってきた。

 その少年は見た所私より年下のように見えたのだが、さらさらの金髪に綺麗な碧眼をしており整った顔立ちの美少年であったのだ。

 さらに身なりも良く、高貴な身分であるのが一目で分かった。

 しかし私は、初めて会ったはずのその少年の顔にどこか見覚えを感じたのである。


(あれ?初めてなはずなのに・・・何でどこかで見た事があるような気がするんだろう?)


 私はそう疑問に思いながら、じっとその少年の顔を凝視してしまったのだ。

 するとその少年は、私の視線に気が付き疑わしげな眼差しで私の方を見た来たのである。


「・・・君は?」

「あ!すみません!初対面の方に不躾な視線を向けてしまって・・・」


 私はまたやってしまったと気が付き、慌てて椅子から立ち上がってその少年に向かって頭を下げたのだ。

 するとその少年の下に、ミスティアも焦った表情で近付いて行った。


「アルフレッド様、お出迎えもせずに申し訳ありません」

「いやミスティ、来客中だったのだろう気にするな。それよりも・・・この方は?」


 そう言って少年は、ミスティアから再び視線を私に戻した。


「先程まで色々お話を聞かせて頂いていた方ですわ。名前をレティシアさんと言いますの」

「あ、レティシアです。先程は失礼な態度申し訳ありませんでした」

「いや気にしなくて良い。僕はアルフレッド・・・アルフレッド・ラ・グランディアと申す。今年14歳で一応この国の王太子だ。よろしくレティシア嬢」


 そう言ってアルフレッドは腰を折り丁寧な挨拶をしてくれたので、私も慌ててスカートの裾を摘まみお辞儀を返したのである。

 しかし私の頭の中では、今聞いた名前がぐるぐると回り激しく動揺していた。


(ラ・グランディア、ラ・グランディアって言ったよね!?って事は・・・ユリウス様の子孫って事!?あ!だからどこか見覚えのある顔だと思ったんだ!よく見たら、ユリウス様の子供の頃とそっくりだ!!)


 前世での元婚約者であったユリウスの少年時代の顔を思い出し、漸く合点がいったのである。

 そうしてすっきりした気持ちでアルフレッドの方を見ると、何故か驚いた表情を私に向けていた。

 よく見ると、隣にいるミスティアも驚いたように私を見ていたのだ。


「え~と・・・私何か変ですか?」


 その二人の様子に戸惑い、一応自分の姿を確認して変な所が無いか見たが特に変わった所が無く、困った表情でもう一度二人の顔を見た。


「あ、ああすまない。ただ確認したいのだが・・・レティシア嬢、貴女は何処かのご令嬢なのか?正直見た限りではとてもそうは見えんのだが・・・」

「私の事はレティと呼んで下さい。それに、私そんな大層な身分なんてありません。ただの元村娘だった者で、今は旅人をしています」

「そうなのか?それにしてはそのお辞儀・・・」

「へっ?お辞儀?」

「いやすまない、旅人をされている程だ多分聞かない方が良いのだろうな」


 よく分からないがアルフレッドは一人納得し、私に向かってニッコリと微笑んできたのである。

 私はそんなアルフレッドの様子に、頭を傾げて不思議そうに見返したのであった。


「ま、まあまあ、アルフレッド様もレティも立ち話はなんですから、お茶を新しく用意させますので座ってお話しましょう」


 そう言ってミスティアは手を叩き、侍女達にお茶の用意をさせ私とアルフレッドを椅子に促したのである。

 ただ私は先程と同じように一人椅子に座ったのだが、ミスティアとアルフレッドは並んで長椅子に座った。

 それもアルフレッドはしっかりとミスティアの腰に手を回し、密着している状態である。

 そしてミスティアも、それを恥ずかしそうにしながらもどこか嬉しそうな表情をしていた。


(・・・あ~ミスティの好きな人ってアルフレッド様なのね。まあこの様子だと相思相愛っぽいから大丈夫かな)


 目の前の二人の様子に、なんだかほっこりとした気持ちになったのである。


「え~とレティ、改めて紹介致しますわね。この方はアルフレッド殿下。そして私の・・・婚約者様ですの」

「あ~なるほど。王太子様と宰相様のご令嬢ですものね。婚約者としてはピッタリですね。それに・・・お二人凄くお似合いです!」


 そう言って私はミスティにウインクすると、ミスティアは私が誰が好きかなのか分かった事に気が付き顔を赤らめたのであった。

 そんなミスティアを、アルフレッドは愛しそうに見つめていたのである。


(ミスティ良かったね。私の時はこうならなかったから、ミスティ達には幸せになって欲しいな~)


 そう心から願ったのであった。


「レティありがとう。本当は僕より先にミスティに来客があったと聞いて、どこかの男がミスティに言い寄って来たのかと気が気じゃ無かったんだ」

「ふふ、アルフレッド様はミスティの事愛してらっしゃるんですね」

「ああ、ミスティと初めて顔合わせした時に一目惚れをしてな、それからずっとミスティ一筋だ」

「ア、アルフレッド様・・・」

「ミスティ良かったね」


 アルフレッドの言葉にミスティアはさらに顔を赤らめ、火照った両頬に手を添えて恥ずかしそうにしたのである。


(・・・うん!可愛い!!こんなミスティ見たらどんな男もイチコロだ)


 その証拠にアルフレッドはそんなミスティアを見て、さらに愛しそうに見つめ多分誰も居なかったらキスぐらいしそうな雰囲気であったのだ。


「お二人共お幸せそうで良かったです」

「ありがとう、僕はとても幸せだよ。それに・・・ここまで婚約者を愛する事が出来るのは、多分代々伝わっている我が家の家訓もあるからだろうな」

「家訓?」

「ああ、何でも200年ぐらい前の王が決めた事なんだが・・・『婚約者は必ず愛し幸せにするように』と言う家訓が代々伝わっているだ。正直初めてそれを聞いた時は、変な家訓だと思っていたのだが・・・ミスティと出会って、その家訓を必ず守ると心に誓ったよ」


 そうアルフレッドは清々しい表情で語ってくれたのだ。しかし私は、その話を聞きある人物を思い浮かべた。


(・・・あ~絶対その家訓、ユリウス様が決めたな。それにしても、家訓にする程そこまで婚約破棄を気にしてたとは・・・)


 今はもういない元婚約者の顔を思い出し、心の中で呆れたのである。

 ちなみにユリウスは私がジークと結婚した後、何度目かの見合いを経て漸く同盟国の王女と結婚したのだ。

 そしてお見合い結婚であったが、ユリウスはその王女をとても大切にし、沢山の子に恵まれて幸せな家庭を作り上げていたのだった。

 勿論同盟国であり友人でもあるジークとも交流は続き、お互い家族ぐるみでよく遊んだ事が懐かしい思い出として思い出されたのである。


(・・・ただ、ユリウス様の王子の一人がマリベルに恋した時は色々大変だったけど、まあ最終的には丸く収まったんだよね)


 その事を思い出し、私は苦笑いを浮かべたのであった。


「レティ?どうかなされたの?」

「あ、ううんミスティなんでもないよ」

「・・・そう言えばミスティ、気になっていたんだがレティとはどこで出会ったんだい?普通に考えて公爵令嬢の君と旅人のレティでは接点は無いと思うんだが?」

「レティとは、今日この家の前で出会いましたの」

「・・・・・家の前で?それも今日!?」


 ミスティの言葉に、アルフレッドは驚きの表情になる。


(・・・そりゃそんな反応になるよね。私もそう思うもの)


「ミ、ミスティ・・・レティには悪いが、普通は出会ったばかりの初対面の人を家に入れないぞ?まさか、僕の知らない所でよくそう言う事をやっているのか?」

「え?いいえ。家に招き入れましたのはレティが初めてですわ。それに、その時お父様もご一緒でしたもの」

「そうなのか?だがそれなら何故レティを?」

「それは・・・何故か初めて会ったはずなのに、どうしてかレティを見て懐かしさを感じたのですわ」

「懐かしさ?だがレティとは初対面なのだろう?」

「はい・・・でもそう感じたのです。それに実は・・・お父様も同じように感じてたみたいなのです」

「ロランドも!?一体どう言うことだ?」

「それが分からないのですわ・・・」


 そう言って二人は私の顔をじっと見つめてくるのだが、さすがに前世がミスティア達の先祖だったとは言えるわけもなく戸惑った表情を作って黙る事にしたのだった。

 その時扉をノックする音が聞こえ、そこからロランドが部屋に入ってきたのだ。


「アルフレッド様、ようこそおいでくださいました。ご挨拶が遅れた事お詫び申し上げます」

「いや気にするな。お前も色々忙しいのだろう?」

「お気遣い感謝致します。ただ少し仕事とは別で気になる事がありまして、それを調べておりました」

「・・・気になる事?」

「はい・・・レティシアさん、確かあなたは私とミスティアを見て其々『ヒューイ』と『マリベル』と呼ばれましたよね?」

「え?あ、はい」

「どうもその名前に覚えがありまして、我が家の家系図を調べていたら・・・」


 そう言ってロランドは、私達の前の机に持ってきていた本を開いて置き、ある一ヶ所を指差したのである。

 そこには『ヒューイ』と『マリベル』の名が記され、夫婦である印が付いていたのであった。


(・・・ヤバ!)


「まあ!全く同じお名前の方が、私のご先祖様にもおみえになられたのですね!」

「ああそうだ。それもこのご夫婦は、親子ほど離れた年の差で結婚されたと言う話が今も残っていたのでな、記憶に残っていたのだ」

「まあまあ!もしかして・・・ヒューイ様の方が歳上ですの?」

「ああそうだが?」

「レティ!凄いですわね!レティのお友達と全く同じだなんてこんな偶然あるんですのね!!」

「そ、そうね。す、凄い偶然だよね」


 ミスティアが興奮した様子で私に話し掛けて来るが、私は曖昧な笑顔を浮かべつつどっと背中に冷や汗をかいていたのだ。


「ミスティア、それは本当なのかい?」

「ええお父様、先程レティに聞かせて貰ったばかりですから!」


(ミスティ!!お願いだからもうそれ以上言わないで!ロランドさんは信じられないような目で私を見てくるし!!アルフレッド様は・・・ああ、全く話に付いていけてない表情だ)


「・・・ミスティ、僕には全く話が分からないんだが?」

「あ!アルフレッド様ごめんなさい!実は・・・」

「わ、わぁ~!!この家系図凄い沢山名前がありますよね?他にももっと凄い人いたんじゃないんですか?」


 私は急いで話を遮り、ロランドに話しかけた。


「あ、ああ確か・・・」


 急な話の振り方にロランドは戸惑ったが、それでも私の質問に答えてくれようと思い出しながら本に視線を戻し、指で家系図の名前を辿ったのだ。


「そうだ、この方だ!多分この方が我が家系で一番の有名人だよ」

「へ~どの方・・・・・!!!」

「サラスティア様と言う方だ」


 ロランドの指差した先にあった名前を見て、私はピシッと固まったのである。


「ああ確かにサラスティア様ですね。小さい時からお父様によくお話聞かされていましたもの」

「私も父上から聞かされていたからね。確か代々語り継がれているらしいよ」

「ああ僕もサラスティア様は知ってるよ。王家でも語り継がれている伝説の人だからね」

「で、伝説の人!?」

「そうか、レティシアは旅の方だから知らないのも無理はないか。だけど、サラスティア様の事は多分この王都中の人が知っているよ」

「なっ!?」


 ロランドの言葉に、私は唖然とした顔になった。だが、何故そんな顔で驚いているのか分からない三人は不思議そうに私を見ていたのだ。


「ち、ちなみに、そのサラスティア・・・様はどんな事で有名になってるんですか?」

「確か・・・一人でこのグランディア王国を守られたとか、魔族や魔王を次々になぎ倒す強大な力を持っていたとか様々な伝説が残っている凄い方なんだよ」

「そ、そうなんですか・・・」


(いやいや、一人で守ってないし魔族も魔王も次々となぎ倒す程戦ってないよ!!)


 200年の歳月で、勝手に私の前世が伝説の人扱いされている事に正直頭を抱えて唸りたい気分である。

 しかし事情を知らない三人の前でそんな事が出来るはずもなく、なんとかぐっと堪える事に集中したのだ。

 だがそんな私の状況など知るよしもない三人は、さらにサラスティアの事を話そうとしていたので、さすがに私は居たたまれなくなり急いで椅子から立ち上がった。


「す、すみません!そう言えば私、この後行くところがあったんです!なのでこれでお暇させて頂きますね!」

「え?レティもう行ってしまわれるの?」

「ごめんねミスティ・・・」

「まあミスティア、用事があるのでは仕方がないよ。レティシアさん、また遊びにきてくれて良いからね」

「ありがとうございます!また来れたら来ますね!」

「その時は、僕も呼んでくれれば来るからな」

「・・・レティ、必ずまた来て下さいね」

「うんミスティ!またね!では、失礼致します」


 そう言って私は、もう一度スカートの裾を摘まみ丁寧にお辞儀をして笑顔でその場を辞したのである。






     ◆◆◆◆◆



「・・・ミスティ、レティは本当にただの村娘だと思うか?」

「・・・いいえアルフレッド様、私も見習いたい程の完璧な淑女の礼でしたわ」

「まるで・・・長年貴族として暮らしていたかのような立ち振舞いだったね。でも話し方は庶民的だったし・・・不思議なお嬢さんだ」


 そう三人は、レティシアが去っていった扉を見つめながら呆然と呟いたのであった。

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