表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

旅立ちの時

───前世の記憶を思い出してから三年が過ぎた。



 私は17歳となり、背も伸び髪も腰ぐらいまで伸びたのでポニーテールにして結んでいる。

 そして私は今、泥に汚れながらも鍬を持って家の裏にある畑で土を耕していた。


「あらレティシアちゃんおはよう、今日も精が出るわね~」

「あ、サリアおばさんおはようございます!」

「そうそう、この前貰った人参美味しかったわ~!人参嫌いのうちの子も、レティシアちゃんの人参なら食べれると喜んでたのよ」

「それは良かった。また新しいの出来たら届けますね」

「ありがとう!楽しみにしてるわ」


 そう言ってサリアおばさんは、笑顔で手を振って去って行ったのだ。

 私も笑顔でサリアおばさんを見送った後、再び畑に視線を戻し作業を再開した。

 一応バレないように体力補助の魔法を事前に体に掛けてある。

 私は前世の記憶を思い出してから、錬金の魔法で野菜の種を作り出し土の魔法で畑の土を改良して品質の良い野菜を大量に作ったのだ。

 そしてその野菜を、村によく来る行商人にお願いして街で売ってもらいお金を稼いでいた。

 そうして余った野菜は、近所の人に配ったり自分で食べたりして生活している。

 さらに畑仕事が一段落した時間を使って、人に見られない場所で前世の記憶を頼りに自作の木刀で剣術の修行もしていたのだ。


「ふぅ~今日はこれぐらいで良いかな~」


 そう言って私は、綺麗に耕された畑を満足そうに見回した。


「さて新しい種は明日撒くとして、今日はゆっくり休もう」


 私は額に浮かんだ汗をタオルで拭い家の中に入っていくと、汚れた服を脱ぎお風呂で軽く汗を流すと乾きたての新しいワンピースに着替えたのだ。

 そうして私は二階の自室のソファに座り、本を手に取って読み始めた。

 この本は私の野菜を売ってくれてる行商人から貰った物で、この世界の地理や歴史が書かれている物である。

 そしてこの本で分かった事は、前世であるサラスティアの世界と今の世界は同じであると言う事と、今はサラスティアが生きていた時代から200年後の世界であると言う事がこの本で分かったのだ。


「ここからアルカディア王国やグランディア王国までは海を渡らないといけないのか・・・いつか今の二国がどうなってるか見てみたいな~」


 そう言いながら窓の外を眺め、ここからは見る事が出来ない二国に思いを馳せたのである。

 するとその時、玄関扉を叩く音が聞こえてきたのだ。

 私は本を閉じソファに置くと、窓に近付き玄関の外に視線を向けた。そして緋色の髪がチラリと視界に映ると、私は大きくため息を吐いたのだ。


「・・・最近来なくなってたのにな~」


 私はそうため息混じりに呟き、段々扉を叩く音が大きくなってきている事にうんざりしながら重い足取りで玄関に向かったのである。


「・・・ラウル」

「レティ!遅いぞ!!」

「・・・このやり取り何度目よ」

「お前がすぐに出て来ないのが悪いんだろう!」

「あ~はいはい、ゴメンナサイネ」

「・・・棒読みで言うな」

「それよりも今日はなんの用?最近来なくなったから、漸く飽きてくれたんだと思ってたんだけど?」

「飽きるわけないだろう・・・ゴホン!あ~今日はお前に良い知らせを持ってきたんだ」

「・・・良い知らせ?」


 ラウルのニヤリ顔に私はとても嫌な予感がして、胡散臭げにラウルを見た。


「最近来れなかったのはこの為に色々していたからな。だがやっと父上から許しを貰えたんだ」

「ん?全く話が見えないんだけど?」

「まだ分からないのか?レティ、お前を俺の花嫁にしても良いと言う許可を漸く貰えたんだ!」

「・・・・・はあ!?誰が誰の花嫁になるって!?」

「だから、レティが俺の花嫁になるんだよ」

「な、何で!?」

「何でって・・・やっぱり、お前は俺の気持ちに気が付いてなかったんだな」

「え?」

「幼い頃、お前と初めて会った時からお前の事が好きだったんだぞ」

「え・・・えええ!?」


 思いがけないラウルの告白に私は目を見開いて驚きの声を上げ、ラウルはそんな私を呆れた顔で見てきたのだ。


「少しは気が付いているかと期待してたんだがな・・・まあ良い。それで式の日取りなんだが、明日執り行うからそのつもりでいろよ」

「は?・・・明日!?って言うか、私ラウルと結婚する事認めてないよ!?」

「・・・レティ、誰か好きな奴いるのか?」

「え?べつに居ないけど・・・」

「なら結婚相手が俺でも問題無いよな。大丈夫だ、絶対俺が幸せにしてやるから」

「いや、そう言う問題では・・・」

「それに・・・早くお前を俺のモノにしておかないと他の奴に取られそうだしな。だから父上に無理を言って式を明日にしてもらったんだ。大丈夫、花嫁に必要な物は全てこちらで用意してある。だから、お前は明日身一つで式場に来れば良い」

「え?いや、私は・・・」

「じゃあ明日朝迎えを寄越すから、それまでに身の回りの準備だけしとけよ。じゃあな!」

「あ!ちょっ!ラウル待って!!」


 私は急いで去ってくラウルを追い掛けたが、ラウルは近くに停めてあった馬車に乗り込んであっという間に行ってしまった。

 そうして私は、小さくなっていく馬車を呆然と見送ったのである。






 私は馬車が見えなくなるまでしばらく呆然とその場で立ち尽くしていたが、はっと意識が戻ると急いで家の中に駆け込んだ。

 そしてすぐに自室から大きめの鞄を引っ張り出すと、急いでその中に必要な物を入れ始めた。


「・・・お父さん、お母さん、この家を出ていく事を許してね」


 そう棚に飾ってあった家族三人の写真に言い、その写真を鞄の中に大事そうに仕舞う。

 そうして一通り鞄の中に仕舞い終えた私は次に身支度を整え終えると、机に向かい一枚の手紙を書きその手紙を一階の目立つ机の上に置いた。


「・・・決行は、皆が寝静まった夜中だね」


 私はそう呟き、椅子に座ってじっとまだ明るい外を窓から見つめたのだ。

 そうして時間が過ぎ、人々が寝静まった深夜に私はこっそり家から抜け出し人気の無い森の奥に入っていった。

 ある程度奥まで進み辺りを見回して人がいない事を確認した私は、持ってきた鞄をしっかりと背負い直し大きく深呼吸をする。

 そして体全体に意識を集中させると、そこに風の魔法を纏わせた。

 するとゆっくりと私の体は地面から離れ、上空に浮上したのである。そうして眼下に小さくなって見える村をじっと見つめ、スッと視線を正面に向けた。


「さて、行きますか!」


 そう私は自分に言うと、目的の方向に向かって飛んだのである。





     ◆◆◆◆◆



 翌日、ラウルは教会の控え室で侍女達に手伝われながら真っ白なタキシードに身を包んでいた。

 するとそこに、慌てた表情の侍従が駆け込んできたのだ。


「ラ、ラウル様大変です!!」

「そんな慌てて一体どうした?」

「そ、それがレティシア様が・・・」

「レティがどうしたんだ!?」

「・・・ご自宅にいらっしゃられませんでした」

「なんだと!?周辺は探したのか!?」

「はい。すぐに他の者にも手伝わせて探したのですが・・・何処にもお姿が・・・ただ、レティシア様のご自宅の机にこれが」

「手紙だと?寄越せ!」


 ラウルは侍従が差し出した手紙を奪うように取ると、急いでその中を確認した。


『ラウルへ


 私を花嫁にしたいと言う気持ちは有り難いけど、はっきり言って迷惑だから。あ、一応言っておくけど、べつにラウルの事が嫌いってわけじゃ無いからね。じゃあ、好きかって聞かれても困るけど・・・。でも友達としてはうざかったけど楽しかったよ。今までなんだかんだ気に掛けてくれてありがとうね。だけど、花嫁は絶対無理!だから私、村を出る事にしたんだ。多分この手紙を見てる頃には、ラウルが見付ける事が出来ない程遠くに行ってるから時間の無駄だし探さないでね。じゃあラウルにもっと良い花嫁が見付かる事を祈ってるよ。元気でね!


レティシアより』


 ラウルはその手紙を最後まで読むと、手紙を強く握り潰したのだ。

 そして顔を真っ赤に染めながら、怒りの形相で侍従に声を荒げる。


「すぐにレティシアを探し出せ!!女の足だ絶対追い付けるはずだ!!」

「は、はい!!」


 侍従はラウルの怒声に肩をビクッと震わせながらも、慌てて控え室から出ていった。

 そして準備をしていた侍女達も、ラウルの怒りに触れる前に急いで控え室から出ていってしまったのだ。

 そうして控え室に一人残ったラウルは、ギリギリと歯軋りしながら控え室の窓から見える外を睨み付けていたのであった。

今回はここまでです。次回更新は、書けましたらまた活動報告でお知らせ致します。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ