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想い重なる

 暗闇から覚醒した私は重い瞼をゆっくりと開けた。

 するとまだ意識がハッキリしていない私の目に、ぼんやりとながら私を覗き込んでいるリカルドの顔が見えたのだ。


「・・・リカルド?」

「ああ良かった、目覚められましたね」

「いったい・・・うっ、ゴホゴホ!!」


 私は喉が詰り激しく咳き込むと、その口を押さえていた掌に血がベッタリと付いた。


「っ!く、苦しい・・・」

「・・・レティ、自分で治癒魔法掛けれますか?」

「あ、そうか!」


 リカルドのその言葉に、私は慌てて布で押さえられてはいるがそれでも血が滲んでいる自分のお腹に手をかざし治癒魔法を掛け始める。

 するとみるみるうちに激しい痛みが引いていき、苦しさも和らいでいったのだ。


「・・・どうやら傷口は塞がったようですね」


 そう言ってリカルドは私のお腹に乗せていた布を退かし、すっかり綺麗になった私のお腹を確認したのである。


「・・・え~とリカルド、さすがに素肌のお腹じっと見られるの恥ずかしいな~」

「ん?ああすみません。間近で治癒魔法を見たのは初めてでしたので」

「あれ?見せた事無かった?」

「魔族には光魔法である治癒魔法は使えませんし、貴女が直接使われている所を間近では見た事がありませんでしたので」

「ああなるほど」


 私はそう言いながら、身を起こして水の魔法で口の中の血を洗い流しついでに汚れていた顔も綺麗にした。

 するとそこでリカルドがじっと私の顔を見つめている事に気が付く。


「ん?リカルド、私の顔に何か付いてる?」

「いえ・・・レティ、特に体に何か不調はありませんか?」

「へ?別になんとも・・・あれ?でもあんなに血が出たのに意外と元気だ。私の治癒魔法は怪我は治せるけど病気や失った部分は治せないから絶対貧血でフラフラだと思うのに・・・」

「ふむ、どうやら効いているようですね」

「え?何が?」

「レティ、貴女の傷は貴女の膨大な魔力による自己回復でも追い付けないほどの致命傷だったのです」

「・・・じゃあなんで私生きて・・・」

「貴女に一か八かの賭けで私の血を飲ませました」

「・・・・・はぁ!?」


 リカルドのその言葉に私は目を見開いて驚きの声を上げたのだ。


「え?え?リカルドの血を!?なんで!?」

「私達魔族は、元来人間以上の強い体力と自然治癒力が備わっています。さらに私は一応最上級魔族ですので他の魔族よりもその力が強いのです。ですのでその血を貴女に飲ませれば何かしら効果があると期待しました」

「た、確かに傷が治った今すっかり元気になってるけどさ・・・でもそんな事されて私大丈夫なのかな?」

「さあ?」

「さあ?って!!」

「なにぶん私も初めての試みでしたので。しかし・・・貴女なら大丈夫だろうと思っていました」

「なんで!?」

「ハッキリとした理由は無いのですが・・・強いて言えば貴女だからですかね」

「それ意味分からないんだけど!!」


 そう私が目をつり上げリカルドを睨み付けたその時、突風で煽られた私の髪が私の顔に掛かってきたのである。


「うわっぷ!な、何?なんかさっきから風が強いんだけど・・・って、なんで城の中でこんな風が吹いてるの!?」


 私は顔に掛かった髪の毛を手で払いのけながら回りを見回すと、壁には特に外に繋がる穴は空いていないのに激しい突風が吹き荒れ至る所の瓦礫や装飾の布が飛んでいた。

 そして壁際で魔族達が身を寄せ合ってその飛んでいる瓦礫から身を守っている。

 私はそこでハッと気が付き、慌てた表情でさらに回りを見回した。


「そう言えばゼクスとガザールは!?」

「ガザールは・・・死にました。ゼクス様の手で。そしてゼクス様は・・・」

「ゼクスがどうしたの!?」


 リカルドのその只ならぬ様子に、私は嫌な予感を感じながらすぐにリカルドの方を見る。

 するとリカルドは険しい表情でスッと上に視線を向けた。

 私はそのリカルドの様子を怪訝に思いながらも、同じようにリカルドの見ている頭上に視線を向けたのだ。

 しかしそこには闇色の稲光と激しい突風が吹き荒れている塊があるだけだった。


「あれは?」

「・・・ゼクス様です」

「え!?」


 リカルドの言葉に私は驚きながらリカルドの方を見ると、リカルドは真剣な表情で私に頷いてきたのだ。

 私はそのリカルドの様子にもう一度上を向き、その塊をじっと見つめた。

 すると僅かだがその塊の中心に人影が見えたのである。


「・・・一体なにが?」

「ゼクス様は貴女がガザールに体を貫かれた事で怒りに我を忘れ、力の暴走を起こされてしまいました。そしてもう今のゼクス様に私の声は届かないのです」

「え?力の暴走?でもゼクスの体って・・・」

「はい。寿命が迫ってきている身であの力を使い続ければ・・・確実に命を削ります。そして限界と同時に・・・ゼクス様の命が尽きます」

「なっ!?」

「お願いですレティ!ゼクス様をお救いください!!」

「・・・・」


 リカルドの必死な言葉を聞きながら、私はじっと天井付近で浮かぶゼクスのいる塊を見つめそしてゆっくりと立ち上がった。


「リカルド・・・任せて。絶対ゼクスを助けてみせるから」

「・・・お願い致します」


 私は目をそっと閉じ意識を集中すると風の魔法を足に纏わせる。

 そしてスッと目を開けゆっくりと床から体を浮き上がらせると、今度は一気に天井付近まで飛んでいったのだ。

 そうして私はゼクスのいる突風の塊と対峙する位置で止まった。

 私はそこで漸くその塊の中心にいるゼクスの姿を見たのである。


(あ、あれがゼクス!?なんか色々凄い姿になってる・・・)


 予想外に姿の変わってしまったゼクスに驚いてしまったが、しかしその姿になった原因が私にもあると思い心が傷んだ。

 だがそれでもゼクスのその変わってしまった姿を見ても私は全く怖いとは思わなかったのである。

 むしろその意思の無いその顔とゼクスの過去の記憶で見たゼクスの悲しそうな顔が重なり、私は今すぐ抱きしめたい衝動が起きた程だった。


(やっぱり私・・・ゼクスの事が好きだ。だから絶対ゼクスを死なせたく無い!!)


 そう強く決意すると私は一気にゼクスに向かって飛んでいったのである。


「ゼクス!!」


 しかし私の叫びにゼクスは反応せずさらにその塊に近付いたと同時に、その塊から闇の稲妻と突風が私に襲い掛かってきたので私は慌てて障壁を張ってそれらを防ぐ。

 だがそれでも衝撃は防ぎきれずその場から吹き飛ばされてしまった。


「くっ!さすがゼクス、やっぱり強化版ガザールとは比べ物にならない程強いや。でも今はそんな事言ってる場合じゃ無いよね」


 私はそう自分に言い聞かすと再び一気にゼクスに向かって飛び立つ。

 そして今度は先程よりも強固な障壁を体全体に纏わせ、闇の稲妻や突風に襲われる前に素早くその塊に飛び込んで行ったのだ。

 だがやはりその中は外よりも激しい稲妻と突風が渦巻き私に襲い掛かってくる。

 さらにそのせいでなかなかゼクスに近付く事が出来ない。

 それでも私はなんとか襲い掛かってくる稲妻や突風に耐えながら少しずつゼクスに近付く。

 しかしその間障壁では防ぎきれなかった一部の稲妻が顔や体にかすり、私の体に小さな傷が所々に出来てしまったが私はそれを無視してゼクスだけを見て突き進んだ。

 そうして漸くゼクスの目の前まで到着する事が出来たのである。


「ゼクス!ゼクス!私は無事だよ!!気が付いて!!」


 そうゼクスに向かって叫ぶがやはり全く私の方を見てくれず、ひたすら雄叫び声を上げながら魔力の放出を止めてくれなかった。


(ここまで来ても私の声を聞いてくれないなんて・・・一体どうすれば・・・そうだ!これなら気が付くかも!)


 そう私は思い付くと両手を大きく広げさらにゼクスに近付き、そしてそのままゼクスの体にぎゅっと抱きついたのである。

 私は心臓が早鐘を打ち鳴らしているのを感じながらゼクスの胸に顔を埋め気が付いてくれるのを待った。

 しかし暫く待っても反応がなく私は恐る恐るゼクスの顔を見上げるがそのゼクスの様子にガックリと肩を落とす。


(・・・そっか、これぐらいじゃ気が付かないのか)


 これでも頑張った方なのだがゼクスは依然変わらない様子で魔力を放出し続けている。


(・・・だったらアレなら・・・だけど私からって・・・でもゼクスを気が付かせる為なら・・・・・ええい!なるようになれ!!これで駄目ならその時はその時だ!!)


 私はそう自分に言い聞かせると、少し体を上に浮かせゼクスの顔と対面する位置まで移動した。

 そしてそのゼクスの両頬にそっと両手を添えてその真っ赤に全部染まった目をじっと見つめる。

 しかし私はそこでこれからする事に今さらながら恥ずかしくなり思わず躊躇してしまう。

 だがそれでもちょっとでも可能性があるのなら賭けたいと思った私は、目を瞑り一気にゼクスの顔に自分の顔を近付けたのである。

 次の瞬間私の唇にほんのり温かく柔らかい感触が当たったのであった。


(っ!やっぱり恥ずかしい!!それに・・・レティシアとして生まれ変わってからの初の口づけ!!・・・だけど、大概意識の無い相手に口づけすると意識が戻るって言う定番を実践中なんだから、頑張れ私!!!)


 そう自分を奮い立たせ暫く目を瞑ったまま口づけを続けたのだ。

 するとずっと心臓の音が煩くて気が付かなかったが、いつの間にか稲妻や突風の音が止んでいる事に気が付いた。


(あれ?頬に当たっていた風の感じも無くなってる・・・もしかして意識が戻った!?)


 私はすぐに確認しようと顔を離そうとしたのだが、いつの間にか頭の後ろに手が添えられているようで動かす事が出来ないでいたのだ。

 その事に驚いた私は思わず目を開けたのだが、その目の前に血のように真っ赤な見慣れた瞳が私を見ていたのである。

 それもその瞳にははっきりと意識があるように見え、さらに楽しそうに笑っているようにも見えたのだ。


「ゼ・・・んんん!!」


 私はゼクスの名前を叫ぼうとしてその口をゼクスの口づけで塞がれた。それも口の中に舌を入れられるという深い口づけである。

 その突然の行為に私は顔を熱くさせながらなんとか離れようとするが、こちらもいつの間にか腰に手が回されており離れる事が出来ないでいた。

 私はそれでもこの口づけから逃れようとゼクスの体を叩いたり押したりしたが全くびくともせず、むしろどんどん口づけが深くなるのである。

 そうして私の抵抗虚しくその口づけに翻弄され続け、漸く解放された時には息も絶え絶えにぐったりとゼクスの体に寄り掛かる格好で抱き止められていたのだった。

 ゼクスはそんな私の頭を愛しそうに撫でている。

 私はなんとか気力を振り絞りゼクスの顔をしっかりと見ると、そのゼクスの顔はいつもの見慣れたゼクスの顔に戻り背中に生えていた羽も二枚に戻っていたのだ。

 そのすっかり元の姿に戻っている様子に、私はホッと胸を撫で下ろした。


「良かった・・・」

「レティ・・・我を正気に戻してくれたのだな、ありがとう」

「ううん、でも本当に良かった。だってあのままだったらゼクス危なかったんだよ」

「そうだろうな・・・さすがに正気に戻った今、体の状態があまり良くないのが分かる」

「え!大丈夫!?」

「ああそこまで酷いものでは無いから心配しなくてよいぞ」

「そうなの?でも・・・」

「それよりもレティ、そなたの方こそ体は大丈夫なのか?」

「ああうん!私は全然大丈夫だよ!リカルドにも助けて貰ったからさ」

「そうなのか。だが・・・もう危ない事はしないでくれ。そなたが居ない世などもう生きていたく無いのだ」


 そうゼクスは辛そうな表情でぎゅっと私を抱きしめてきたのだ。


「ゼクス・・・大丈夫だよ。私は絶対ゼクスの側からいなくならないから」


 私はそう優しく呟きゼクスの背中に手を回して私からもぎゅっと抱きしめたのである。


「レティ・・・」

「ゼクス・・・・・あのね、聞いて欲しい事があるの」

「・・・なんだ?」


 顔を上げゼクスの顔を見ながら私は自分の気持ちをゼクスに話す事にした。


「私、私ね・・・その・・・・・」


 だがいざ告白をしようと思うとなかなか言葉に出来ず、どんどん恥ずかしさと共に顔が熱くなっていく。


「うう・・・やっぱり言うの・・・・・」

「レティ・・・聞かせてくれないか?」


 私が言うのを躊躇っていると、ゼクスは私の頬に手を添えて優しく微笑んできたのだ。

 そのゼクスの表情にさらに顔が熱くなったのを実感するが、私は一度深く深呼吸をしてから意を決して言葉を紡いだのである。


「私、ゼクスの事が好きだよ!」

「レティ・・・我も好きだ。愛しているぞ」

「ゼクス嬉し・・・んん!!」


 私が嬉しくゼクスに微笑むと突然ゼクスが私の唇を奪ってきた。

 その事に一瞬驚くがすぐに私は目を瞑りゼクスの首に腕を回してその口づけを受け入れたのである。

 そうして私は幸せな気分に浸りながらゼクスと口づけを交わしていたのだ。

 しかしその時、下の方から私達を呼ぶ声が聞こえてきたのである。


「あ~お二方共、もうそろそろ良いでしょうか?皆がどうしたものかと困っていますので」


 私はその声にハッとし慌ててゼクスの顔から自分の顔を離し下を見た。

 するとそこには私達を呆れた表情で見上げているリカルドが立っていたのである。

 そして恐る恐る回りを見回すと、私達を驚いた表情やニヤニヤした表情で見上げてきている魔族達がいたのだ。


(し、しまったーーーー!!!回りに沢山いたの忘れてた!!!)


 私はその事に気が付き、大勢の目の前で堂々と口づけを交わしていた事に穴があったら入りたい程に羞恥で縮こまる。


「ゼ、ゼクス・・・凄く恥ずかしいよ~」

「ふっ、やはりレティは可愛らしいな」

「っ!・・・もしかして、ゼクスは見られているの気が付いてたの?」

「まあな」

「っ!!なんで教えてくれなかったの!!と言うか見られているの分かっていたならしないで欲しかったよ!!!」

「すまぬな。だがあまりにもレティが可愛らしかったからな。抑えられなかったのだ。それに皆にレティが我のモノである事を示したかったのでな」

「っ!ゼ、ゼクス!!」


 ゼクスは楽しそうに微笑み触れるだけの軽い口づけを私に落としてきた。

 そしてもう一度強く私を抱きしめると、ゼクスはこちらを見上げてきている魔族達をゆっくりと見回す。


「皆の者、長い間我のせいで苦しめてすまぬ。だが再び我は王座に戻り皆を守る事を約束しよう。この我が妃となるレティシアと共にな」


 そう声高々にゼクスは宣言すると、謁見の間にいた魔族達から歓喜の声が盛大に響き渡ったのである。


「ゼクス様バンザイ!!」

「レティシア王妃様バンザイ!!」


 そんな声が至る所から聞こえてきて、私は嬉し恥ずかしい気持ちになりながらもゼクスに寄り掛かりその光景を見つめていたのであった。

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