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力のクリスタル

※今回流血やちょっと残虐っぽい表現がありますので、苦手な方はお気を付け下さい。

 ガザールは血で濡れた肩を押さえながら荒い息を上げ片膝を床につけながら、目の前で余裕の笑みを浮かべながら立つゼクスは睨み付けている。


「ふっ、どうした?もうそれでおしまいか?」

「くっ、そんなわけねえだろう!俺はまだまだ貴様なんかに敗けはしねえんだ!」

「だが・・・だいぶ限界のようだが?」


 そう言ってゼクスはガザールの全身を見回したのだ。

 するとガザールは怒りの形相のまま気力を振り絞り立ち上がった。

 そして肩から手を離しその自分の血で濡れた手をゼクスにかざすと至近距離から闇の玉を撃ち出したのである。

 しかしゼクスはその闇の玉を身に受ける直前で姿を消し、再びガザールの背後に姿を現したのだ。


「なっ!?」


 闇の玉によって壁を激しく破壊した音が響きながら、ガザールは突然後ろに現れたゼクスを驚きの表情で振り返る。


「何を驚いている?この転移魔法ぐらいお前でも出来るだろう?」

「ぐっ!」

「ほ~そうかお前は使えんのか。我の側近であるリカルドでも使える魔法なのにな」

「う、うるさい!!そんな魔法使えたからと言ってなにが偉い!!」

「まあ偉くは無いな。だがいざと言うときには・・・このように相手の意表を突ける」


 そうゼクスが言うなりガザールの背中に向けて闇の玉を撃ち出した。

 するとさすがにガザールはそれを避けきる事が出来ず、その闇の玉の衝撃で壁際まで吹き飛んだのである。


「ぐぁ!」

「・・・さらにこのように間合いを一気に詰めれるぞ」


 ガザールが痛みに呻いているすぐ近くにゼクスが一瞬で移動し、床に転がっているガザールの体に重力の魔法を掛けたのだ。


「ぐぁぁぁぁぁ!」


 その強い重力の魔法によりガザールの体は床にめり込んでいく。

 しかしそこでガザールは体を震えさせながらその魔法に抵抗して立ち上がったのである。

 そしてなんとか腕を払うように振ると、その重力の魔法を打ち消したのだ。


「ほ~まだそんな力が残っていたか」

「はぁはぁ、俺は絶対敗けねえ!」


 そうガザールは憎々しげに言い放ち、目を据わらせながらゼクスに対峙する。

 するとその時そのガザールの下に、焼けただれた左腕を押さえながらダザリアが弱々しい足取りで近付いて来たのだ。


「ガザール様!」

「・・・ダザリア」

「お願いです!助けて下さい!」

「・・・・」


 そうダザリアは必死な形相でガザールに助けを求めてくる。

 しかしそんなダザリアをガザールはじっと見つめ、すぐにはっとなにかを思い出した顔をしたのだ。


「そうだダザリア!あの力のクリスタルを出せ!」

「え?いや、あれは研究室が破壊された時に全て無くなりました・・・」

「なんだと!!」

「ひっ!し、仕方がないではないですか!あの状況ではワシにはどうする事も出来なかったんですぞ!」

「ちっ!役に立たんやつだ・・・いや、役には立つか」


 そう何かに気が付いたガザールは、ニヤリと口角を上げダザリアに向かって手をかざす。


「え?ガザール様・・・一体何を?」

「俺の為に最上級魔族であるお前から力のクリスタルを貰うぞ!」

「なっ!?そ、そんな!お許しを!!」

「俺の役に立てるんだ!光栄に思え!」

「い、嫌じゃぁぁぁぁ!!」


 ダザリアはそう叫びくるりと踵を返して走り出そうとした。

 しかしそれよりも早くガザールの魔法が発動しダザリアの体が闇の光に包まれたのだ。


「ぎ、ぎゃぁぁぁぁ!」


 そしてそんなダザリアの断末魔がその闇の光の中から響き渡ると、次の瞬間その闇の光は収縮し後にはまるで血のように真っ赤に輝くクリスタルだけが残ったのだった。

 するとガザールはそのクリスタルをがっしりと掴むと、怪訝な表情で見ていたゼクスにニヤリと笑ったのである。


「それは・・・」

「ふっ、見てろよ!これからが俺の番だ!」


 そうガザールは言い放つと、口を大きく開けその力のクリスタルをごくりと丸ごと飲み込んだのだ。

 すると次の瞬間、ガザールの体が激しく震えだしガザールは苦痛の表情で胸を押さえ始めた。


「う、ぐぁ!ぐっ!」


 ガザールはそう呻き声を上げ体を前屈みに折り曲げだしたのだが、すぐに叫び声を上げながら大きく腕を上げて仰け反ったのである。


「ぐぁぁぁぁぁ!!」


 するとそのガザールの体の至る所がボコボコと隆起し始めると、あっという間に一回り大きく筋肉隆々の体に変貌したのであった。

 そのガザールはそんな自分の体を見回し、恍惚の表情を浮かべる。


「おお!おお!!凄いぞ!!力がみなぎってくるぞ!!」


 そうガザールは歓喜でうち震え、そして険しい表情でガザールの事を見ていたゼクスに余裕の笑みを向けたのだ。

 そして徐に手をゼクスにかざし闇の玉を撃ち出す。

 しかしそれをゼクスは転移魔法で避け、再びガザールの後ろに回り込んだのだ。

 だがゼクスが姿を現した時、目の前にいるはずのガザールの姿がそこには無かったのである。


「む?」

「くくく、遅えぞゼクス!」


 そうゼクスの後ろからガザールの声が聞こえたと思ったと同時に、ゼクスの体に激しい衝撃が走りそしてゼクスは物凄い勢いで壁まで吹き飛ばされたのだ。


「ぐぁぁ!」


 ゼクスは壁に激突すると、苦痛の表情で口から血を吐き床に倒れ伏したのである。

 しかしすぐにゼクスはその血を手の甲で拭い取り、よろけながらもその場で立ち上がりガザールを見ようとした。

 だがその時にはすでに先程までいた場所にガザールがおらず、ふと横に気配を感じた瞬間ゼクスは喉を掴まれ床から足が浮き上がったのだ。


「ぐぅぅ」

「くくく、さっきと逆になったな」


 そんなガザールの楽しそうな声を聞きながら、ゼクスは掴んできた手を外そうとガザールの手を引っ張るが全くびくともしない。

 そしてゼクスは苦痛に歪んだ顔でガザールを見ると、嫌な笑みを浮かべていた。


「確か・・・こうしてから俺を投げ捨てたよな」


 ガザールはそう言うなり、ゼクスを力一杯床に投げ捨てる。

 するとゼクスは床の上を何度もバウンドしてから漸く失速し床に仰向けで倒れたのだ。

 そしてすぐにガザールはそのゼクスの体に馬乗りになり、ゼクスの胸ぐらを掴んで床から頭を少し浮かせた。


「散々俺をいたぶってくれたよな~だがそれもこれで終わりだ!死ね!ゼクス!!」


 そうガザールが叫ぶと同時に、ガザールの掴んでない方の手に闇の火花が飛んでいる漆黒の玉を出現させそしてそれをゼクスの顔に向かって振り下ろそうとしたのである。


「だ、駄目!!!!」


 突然ガザールのすぐ後ろからそんな叫び声が響き渡ったのだ。








      ◆◆◆◆◆



 私はダザリアの末路を見て、そしてそのダザリアから作られた力のクリスタルによって変貌したガザールを唖然とした表情で見ていたのである。


(力のクリスタルであそこまで変わるもんなの?ハッキリ言って・・・キモイ)


 その筋肉隆々の体を恍惚の表情で眺めているガザールに、私は若干引いてしまったのだ。

 しかし突然大きな激突音に私はハッとなり、すぐにその場所に視線を向ける。

 するとそこには壁に激突して横たわるゼクスがいたのだ。


「なっ!?」


 私が驚きの声を上げてるうちにすぐゼクスはよろけながらも立ち上がったが、口許から血が出ているのが私の方からでも見えたのである。


「血が出てる!?絶対内臓どこかやられてるよ!」


 そう私は焦りながら急いでゼクスの下に向かおうとしたが、それよりも早くガザールがゼクス隣に移動してたのだ。


「え!?は、早い!!」


 その予想以上の早さに驚愕に固まっていると、あろうことかガザールはゼクスの首を掴み床から浮き上がらせたのである。

 さらにガザールはそのゼクスを腕の一振りで床に投げ飛ばす。

 私は床を何度もバウンドして転がっていくゼクスの姿に、声無き悲鳴を上げてしまった。

 するとガザールは再び物凄い早さでゼクスの下に移動すると、今度はゼクスに馬乗りになり左手でゼクスの胸ぐらを掴んで頭を少し浮き上がらせると、右手を振り上げてそこに明らかに危険だと分かる闇の玉を作り出したのである。


「なっ・・・駄目・・・ゼクスが・・・死んでしまう!そんなの絶対嫌!!!」


 ゼクスが死んでしまうと考えた瞬間、私の胸は掴まれたように激しく痛みもう無我夢中でゼクスの下に猛スピードで駆けていく。

 そして目の前でガザールがその闇の玉をゼクスに向かって振り下ろそうとしている所を目の当たりにし、私は絶叫しながらガザールに向かってまだ炎が刀身に纏っている剣を振り下ろしたのだ。


「だ、駄目!!!!」


 そうして私はガザールの背中を斬り付けたのだが、先程の魔物とは比べ物にならない程皮膚が硬く軽く傷を付ける程度だった。

 さらに燃え移った炎も一瞬で消えてしまったのである。

 しかしそのお陰かガザールのゼクスへの攻撃が止まり、胸ぐらを掴んでいた手を離した。

 するとガザールはゆらりと立ち上りこちらに振り返ってきたのだ。

 だがその表情は怒りに溢れていたのである。


「・・・またお前か!毎回毎回俺の邪魔をしやがって!!」


 そう憎々しげにガザールが私を見下ろしながら怒鳴ってきた。


「レ、レティ・・・逃げろ!」


 そんな弱々しい声が聞こえ、私はハッとしながら床に倒れているゼクスを見る。

 するとゼクスは私の方に顔を向けながら力無く私の方に手を伸ばしていたのだ。


「ゼクス!!」

「・・・ほ~ゼクスが言っていたお前が『愛しい人』と言うのは本当の事だったのか。ならばゼクスを苦しめる為にも・・・お前を先に殺してやる!!」


 そうガザールが叫ぶと同時に、まだ出現させたままの禍々しい闇の玉を私に向かって撃ってきたのである。

 私は咄嗟に手をクロスさせ、さらに目の前に障壁を張った。

 だがしかしその闇の玉がその障壁にぶつかった瞬間、激しい衝撃波が起こり私後ろに吹き飛ばされてしまったのだ。

 そしてそのままの勢いで壁にぶつかりそうになる寸前、私はなんとか風の魔法を起こし衝突を防いだのである。

 私は予想以上のガザールの強さに、動揺しながらもキッとガザールを睨み付けた。


「けっ、やはりお前は簡単には死なないようだな。くく、面白え。殺しがいがありそうだ」


 そうガザールがニヤリと笑うと、羽を羽ばたかせ一気に私の方に向かってきたのである。

 私はそのガザールの動きを見つつ、ガザールから逃げるように走りだしどうすれば良いか思案していた。


(・・・あの力のクリスタルのせいで、ガザールの力が格段に強くなってるしスピードも相当早い!さらに問題なのがあの皮膚の硬さ・・・これはさらに剣を強固な物に変えないと無理そうだよね)


 そうして私はガザールの撃ち出してくる闇の玉を避けながら手に持っていた剣の炎を消し、柄の部分から新たな魔法を送り込んで刀身の物質変換を試みる。

 すると刀身が一瞬キラキラと輝きだしそしてすぐにその輝きは消えた。

 そうして私はガザールから逃げる振りをしながらそこら辺に転がっている瓦礫や壊れた柱などで試し斬りをし、どれもまるで紙でも斬ってるかのように軽々と斬れる事を確認したのである。


(・・・よし!これなら!)


 そう私は自分に言い聞かせると、まだ追ってくるガザールをチラリと見てタイミングを見計らったのだ。


「くそ~!ちょこまかちょこまかと逃げやがって!!この下等生物が!!!」


 ガザールはそう叫びながら壁際にいる私に向かって飛び掛かって来たのである。


(今だ!)


 私は一気に後ろにある壁を駆け走りそのガザールの突進を避けると、さらに強く壁を蹴って跳躍の魔法で高く飛び上がり、くるりと空中で回転してガザールの背後に回り込む。

 そして間髪入れずにガザールの背中に生えている羽を素早く両方切り落としたのだ。


「ぎゃぁぁぁぁ!」


 ガザールは痛みによって大きな叫び声を上げるが、私はそれを無視して素早い動きで次々にガザールの体を斬っていったのである。


「ぐうぅぅぅ!」

「これで最後だよ!はぁぁぁぁぁぁ!!」


 唸り声を上げて膝を床についたガザール目掛けて、大きく剣を振り落としたのだ。


「ぐぁぁぁぁぁ!!!」


 ガザールは私の剣を受け絶叫と共に地面に倒れ伏したのであった。

 そうしてうつ伏せで倒れ動かなくなったガザールをじっと見つめ、それから持っていた剣を振って刀身の血を落とすと腰の鞘に剣を仕舞ったのである。

 そして私はすぐにゼクスの下に駆け出し、まだ床で倒れているゼクスの横にしゃがみ込むとその体に治癒魔法を掛けたのだ。


「ゼクス!しっかりして!!」

「レティ・・・そなたが無事で良かった」

「っ!!」


 ゼクスは弱々しい笑みを浮かべながらそっと私の頬に手を沿え優しく撫でてきた。

 私はその姿に思わず目から涙が溢れてしまったのである。


「レティ・・・泣くな。そなたには笑顔の方がよく似合う」

「ゼクス・・・」


 ゼクスは私の頬を流れ落ちた涙を指で拭い取り、優しく微笑んできた。すると私はその様子につられ笑顔を浮かべたのである。


「やはりそなたの笑顔が一番だ」

「・・・私もゼクスが笑ってるのが一番だよ。さあ、早くゼクスの傷治しちゃうね!」


 そうして私はゼクスの体に掛けている治癒魔法に集中しだしたのだ。

 だがその時────。


「レティ!!!」

「・・・え?」


 突然背中からお腹に掛けて強い衝撃を受け、私はゆっくり自分のお腹を見てみるとそこには血に濡れた手が突き出していたのである。

 すると次の瞬間激しい痛みを感じ私は口から吐血した。

 そして吐血した事で咳き込む口を私は手で押えていると、その突き出していた手が一気に引き抜かれたのである。

 私はその激しい痛みと吐血による息苦しさに段々意識を薄れさせそのまま前のめりに倒れていった。


「レティ!レティ!しっかりしないか!!」


 その私の体をゼクスが慌てて抱き止め必死な声で呼び掛けてきているのが分かるが、もう私は言葉を発する事が出来ないでいる。

 すると薄れゆく意識の中で、ゼクスの悲痛な表情と私の後で血に濡れた手を見せつけるように立っているガザールが見えたのだ。


(まだ・・・生きていたのか・・・お願い・・・ゼクス・・・逃げて・・・・・・)


 そうして私の意識はそこでプツリと途絶えたのだった。

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