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魔王

「・・・まず、あのガザールと言う男の事から話そう」

「ガザール・・・今王の地位にいる男だよね」

「ああそうだ。あの男は最上級魔族として生まれてはいるが、我から見ればまだまだ生まれたての童だ」

「童って・・・」

「事実あれは、そなたの前世であるサラが生まれる少し前にこの世に誕生したのだ」

「・・・そんなにゼクスと年が違うんだ。見た目はガザールの方が少し若いくらいにしか見えないのに・・・」

「魔族は生まれて力が安定しだしてから、姿を好きな年齢で留める事が出来るからな」


 そう言ってゼクスは口角を上げてニヤリと笑うと、次第にその見た目がどんどん老人の姿に変わっていったのだ。


「なっ!?」

「驚くのはまだ早いぞ?」


 ゼクスはそう楽しそうに言うと、今度はどんどん背が小さくなりあっという間に深紅の瞳がクリクリとした可愛らしい美少年に姿を変えたのである。


「レティお姉ちゃん」

「っ!!」


 そのつぶらな瞳で小首を傾げて言ってきたものだから、思わず可愛い!!とキュンとしてしまったのだ。

 そんな私の様子に、少年の顔で大人びた笑みを浮かべてきたのである。

 そうして再びゼクスの姿が変わりだし、今度は私より少し年上ぐらいの青年の姿になったのだ。


「っ!!」


 そのあまりの美形っぷりに、私の心臓は大きく跳ね激しい動悸により苦しくなってしまった。


「ふむ、レティはこの姿が好みか?」

「い、いや好みと言うか・・・見慣れなさすぎて正直見れない・・・」

「・・・我を見て貰えないのは困るな。仕方がないいつもの姿に戻すか」


 ゼクスはそう言うと、あっという間にいつもの見慣れた30代前半ぐらいのゼクスの姿に戻ったのである。


「これで分かったであろう?魔族にとって姿など年齢と関係ないものと」

「う、うん。よ~く分かったよ。そ、それでそのガザールが何でゼクスに変わって王の座に就いてるの?」

「ふむ・・・まあさっきも言ったが、ガザールはまだ童であるが故、必要以上に血気盛んな男であった。だが最上級魔族であっても我の力にはまだまだ及ばず、我もなにかと絡んでくるあやつを軽くあしらっておった。だが・・・ある時我は、王の座を掛けて挑んできたあやつにそのまま王の座を譲ってやったのだ」

「・・・何で?」

「・・・・・サラがこの世からいなくなったからだ」

「っ!!」

「そう前世のそなたが天寿を全うしこの世を去った後、我はもう何もかも興味を無くした」

「ゼクス・・・」


 その時の事を思い出してか、ゼクスはなんだか寂しそうな表情になっていた。

 私はその様子に胸がズキリと痛む。


「そんな何に対しても気力が沸かなくなった時に、あやつが王の座を欲してきたのでな、そんなに欲しいのならくれてやると言って王の座を譲ってやったのだ」

「・・・・」

「だがしかしやつは、我が譲ると言う言葉だけでは信用出来なかったのか、我の命まで狙ってきてな。もう相手にするのも面倒になったので城から出てリカルドと共にこの屋敷で隠居生活を始めたのだ。だがそれでもやつは安心出来んのか、部下を使って我を探していたのでな、この屋敷全体に我の魔力で結界を張って見付からないようにしてあるのだ」

「・・・ちなみにそれはいつぐらいの事?」

「ふむ、確か・・・100年ぐらい前だったかな」

「・・・やっぱり一方的に和平条約破棄してきたのって、ガザールがやった事なんだね」

「ああ確かにあやつは、あの和平条約を良く思っていなかったな。あやつは昔から人間を毛嫌いしていた。まあ正確には自分より弱いもの全てだったな」


(・・・だからガザールは、同じ魔族に対してもあんな酷い事が出来たんだ)


 あの謁見の間での出来事や研究室での話を思い出し、とても嫌な気分になったのである。


「どうしたレティ?」

「・・・ねえゼクス、ゼクスは今の魔族の国の様子って知ってる?」

「・・・すまぬ。ここに隠居し始めてから全く外界の事に興味が無かったのだ」

「なら、ガザールのしてる事も知らないって事?」

「・・・あやつが何を?」

「・・・ガザールが下級魔族や中級魔族を材料にして魔物と言う生き物を作り出しているんだよ?それも、それを人間の側に送り込んで襲わせているらしい。上級魔族も殆どがガザールの恐怖政治に苦しめられてたよ」

「・・・・」

「・・・ねえゼクス、貴方は確か同族を脅威から守るためにグランディア王国を襲ってきたんだよね?その時の貴方はどこに行っちゃったの!?」


 黙り込んでしまったゼクスに、私は段々熱くなり椅子から立ち上がってゼクスに詰め寄った。

 しかしそんな私を、リカルドが後ろから肩を掴んで引き止める。


「リカルド・・・」

「申し訳ありません。ですがゼクス様の気持ちも考えて頂きたい。今はこのように元気な姿をしていますが、本当に前世の貴女が亡くなられた後のゼクス様は・・・」

「リカルド!それ以上言うな」

「・・・申し訳ありませんでした」


 ゼクスに厳しい口調で咎められ、リカルドは私の肩から手を離し一歩下がって頭を下げたのだ。

 そのリカルドの様子に、私はこれ以上何も言えなくなったのである。


「レティすまぬな。我が王の座をあやつに明け渡したばかりに、我が同族だけでなくそなたら人間側にも被害が及んでしまった。本当にすまぬ」

「ゼクス・・・」

「・・・今更遅いかもしれぬが、我があやつを止めよう」

「ゼクス様!!」

「良いのだリカルド」


 ゼクスの言葉に、何故かリカルドは慌てた表情で顔を上げゼクスの方を見たのだ。


(・・・こんな焦った表情のリカルド初めて見た)


 しかしゼクスはそんなリカルドに優しい笑みを向け、リカルドはそんなゼクスを見てきゅっと唇を噛んで言葉を飲んだようである。


(・・・一体なんだろう?)


 そんな二人の様子を見て、私は不思議に思ったのであった。


「ただあやつは仮にも最上級魔族だからな。それに我を警戒しておるだろうし・・・」

「あ、ゼクス!私も手伝うよ!」

「そなたが?しかしあやつは危険だぞ?」

「大丈夫!私何故だか分からないけど、転生しても前のように魔法使えるからさ!」

「ふむ・・・確かにサラの時とほぼ同等かそれ以上の魔力を感じるな」

「でしょ?だから手伝わせて!それに・・・私あのガザールにはムカついてるんだから!あんな同族である他の魔族を物みたいに扱って!絶対許せないんだ!!」

「・・・ふっ、やはりそなたはレティでありサラでもあるな。我が惚れた女だけの事はある。ますますそなたに惚れ直したぞ」

「ほ、惚れたって!?」

「ん?我はそなたを気に入った時からすでにそなたに惚れていたのだぞ?だからずっと我の妃にと望んでおるのだ」

「っ!!」


 ゼクスの言葉に、私は再び顔を熱くさせたのである。


「と、とりあえずその話は置いといて、ガザールをこれからどうするか話し合おうよ!!」

「ふむ、そうだな。それはこの件が終わってからもう一度話そう」

「う、うん・・・」


 私の動揺を見透かしているのか、ゼクスは私を見ながら楽しそうに笑ったのであった。


「・・・では、微力ながら私もお手伝い致します」

「あ、リカルドも手伝ってくれるなら心強いよ!」

「ふっ、レティ・・・リカルドに惚れるで無いぞ?」

「なっ!?惚れるわけ無いよ!」

「・・・私は丁重にお断りさせて頂きます」

「ちょっ!リカルド!なんか知らないけど、私の方が惚れてないのに振られた気分になったよ!!」

「くくく、やはりそなたは面白い」

「ゼクス!!」


 口を手で押さえながらゼクスが楽しそうに笑っているのを、私は目を吊り上げて睨み付けたのである。

 そうして漸く今後の事を話し合うようになり、三人で意見を言い合い計画を立てたのであった。


「さて、今日はもう遅い。レティこの計画は明日実行するとして今日はもう休むように」

「あ~そうだね。さすがに今日は色々あったから疲れたよ」

「ふっ、どうせなら我が添い寝をしてやろうか?」

「なっ!絶対要らない!!」

「くく、まあそれは今度の楽しみに取っておこう。ただ、その時は添い寝で済むか分からんがな」

「っ!!」


 その言葉の意味を悟り、私は顔を熱くさせながらぴきっと体を硬直させてしまったのである。


「くくく、ではレティゆっくり休めよ」


 そう言ってゼクスは楽しそうに笑いながら椅子から立ち上がったのだが、その時突然ゼクスはふらりとよろめいたのだ。


「ゼクス!」

「ゼクス様!!」


 私とリカルドが慌ててゼクスを両側から支えたのである。


「ゼクス!大丈夫!?」

「う、うむ・・・な~にずっと座っていたからな、少し立ち眩みが起こっただけだ。そんなに心配する事は無い」

「・・・本当に大丈夫なの?」

「ああ大丈夫だ」

「・・・ゼクス様、私が部屋までお連れします」

「いや、我一人で大丈夫だ。リカルドはレティを部屋まで案内するように」

「しかし・・・」

「大丈夫だ。ではレティ、先に失礼する。おやすみ」

「う、うん。ゼクスおやすみ」


 そうしてゼクスは私達二人の手から離れ、今度は危うい事無くそのまま部屋を出ていったのであった。


(う~ん、確かに普通に歩いてたし、本当に立ち眩みしただけみたいだね)


 そう思い私はホッと胸を撫で下ろしていたのだが、ふと隣に立っているリカルドが真剣な眼差しでゼクスの出ていった扉を見つめていた。

 私はそんなリカルドを不思議に思いじっとリカルドの顔を見ていると、リカルドはスッとその真剣な表情のまま私の方を見てきたのだ。


「・・・レティ、貴女に話しておきたい事があります」

「話しておきたい事?」

「はい。ゼクス様の事です」

「ゼクスの?」

「・・・ゼクス様はあのように元気な様子でいらしゃいますが、実はもう・・・・・寿命が近いのです」

「・・・・・え?」

「さすがに魔族と言えど寿命があります。ただゼクス様は最上級魔族のそれも長く王を務められていたお方ですので、他の魔族より寿命は長いのです。かく言う私も、ゼクス様の半分も生きてはいないのですよ・・・ただ本来であれば、まだまだゼクス様の寿命は先のはずでしたが・・・貴女の前世であるサラが亡くなってから一気にゼクス様は弱られてしまわれたのです」

「・・・・」

「まあ精神的な物が大きかったからですが、その影響でもうゼクス様は・・・」


 リカルドが神妙な顔つきで言い淀んでしまったので、私は嫌な予感を感じて不安になりながらリカルドに詰め寄ったのである。


「っ!!ゼ、ゼクスの余命はあとどれくらいなの!?」

「・・・おおよそ・・・・・100年程かと」

「・・・・・へっ?100年?」

「まあ、多少前後する事はあるでしょうけど」

「いや、あ~そっか、魔族にとっては100年なんてあっという間か・・・」

「・・・確かに、人間から見たらまだまだ長く感じるのでしょうね」

「う、うん。私、正直ここ数年までなのかと思って驚いちゃった」

「まあ、さすがにそんなすぐでは無いですよ。ただ、確実にゼクス様の体は寿命によって蝕まれていますが・・・」

「・・・・」

「ですのでレティ、貴女にお願いがあります。ゼクス様が無理をなさらないように気を付けてあげてください。私では・・・お止めする事が出来ませんので・・・」

「・・・うん分かった!約束するよ!」

「レティ・・・ありがとうございます」

「私もゼクスにはまだまだ元気でいてもらいたいから!」

「私もです」


 そうして私達は、密かにゼクスの身を守る事を約束しあったのであった。

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