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研究室

 廊下を走って行くと、丁度曲がり角を曲がっていったガザールとあの老人の姿が目に入った。

 私は急いでその角まで到着すると、壁を背にそっと角から先を覗き見る。

 すると二人は、さらにその廊下の奥から地下に続く階段を下りて行ったのだ。


(あれ?前世ではあんな所に地下に続く階段なんて無かったような・・・)


 そう思いながらも、私は慌てて二人の後を追いその地下に続く階段に向かった。

 そしてその階段に一歩足を踏み入れようとして、はっと動きを止める。


(・・・一応念のため気配を消す魔法も掛けておくか)


 そう思い自身に素早く魔法を掛けると、ゆっくりと薄暗い階段を下りて行ったのであった。

 そうして暫く階段を下り続け、漸く階段が終わった先にはこれまた薄暗い廊下が長く続いていた。

 しかしその先にある扉にあの二人が入っていったのが見え、私は足音を立てないように慎重にその扉に近付いたのだ。

 そして扉の前まで到着すると、音を出さないように僅かにその扉を開けその隙間から中を覗き見たのである。

 するとその部屋の中で、ガザールとあの老人がこちらを背にして何かを見ていたのだ。

 その部屋の中は、怪しい薬品や様々な色の液体が入ったガラスの筒やらが大量に置かれ、まるで何かの研究室のようであった。


(・・・この部屋一体何だろう?それに薬品の匂いなのか、凄く変な臭い・・・)


 部屋から漂ってくる異様な臭いに、私は目をしかめながらなんとか我慢し二人の様子を伺っていたのである。


「ダザリア、それで見せたい物とは何だ?」

「ええ、ガザール様こちらでございますじゃ」


 どうやらあの白髪の老人はダザリアと言う名前のようだ。

 そのダザリアが、ガザールの目の前にある布の被った大きな物体を手で示しそして一気にその布を外した。

 するとその布の下から大きな檻が現れたのだ。

 さらにその檻の中には、奇妙な生き物がいるのが見えた。その生き物は全身黒々とした毛で覆われ、頭には大きな角が二本と長く尖った牙が口から伸び、何か興奮しているのか荒い鼻息とだらだらと涎を垂らしている。

 だがそれよりも一番目が奪われたのが、その生き物の目が血のような深紅の瞳だったのだ。


(魔物!?だけど・・・あの目、前見た魔物達よりさらに真っ赤で・・・もっと魔族に近い色してる。でもどうしてここに?それも檻に入れられて・・・)


 何が何だが分からない私は、その魔物をじっと見つめていたのである。


「ふむ、確かに今までで一番質は良さそうだが・・・これが俺に見せたい物なのか?」

「くく、これは今までとは使った素材が違うのですぞ。今までは数の多かった下級魔族ばかり使っていたんじゃが・・・今回は試しに中級魔族を使ってみたんですじゃ」

「ほぉ」

「そしたら、この通り質が格段に上がりましたのじゃ!」

「なるほど。だが・・・中級魔族は下級魔族よりも数が少ないからな。大量には作れんだろう?」

「確かにそこが問題なのですじゃ」


 私はその話の内容に驚愕に目を見開いた。


(え?もしかして魔物って・・・魔族を元に作られたの!?それに素材って言ってたから・・・素材にされた魔族達は・・・)


 その考えに私はゾッとしたのである。


(あ!そうか・・・だからあの時、下級魔族が異様に怯えていたんだ・・・)


 下級魔族達の住居で出会った下級魔族が、私を見て逃げたのと上級魔族が下級魔族を見張っていた意味が漸く合点がいったのだ。


「しかし私はさらにある発見をしたのですぞ!」

「ほぉ~それは一体何だ?」

「くく、どうぞ見てて下さい」


 そうダザリアが言うと、ダザリアはその檻の中の魔物に向かって手をかざした。

 するとその手から闇の光が現れその魔物を包み込んだのだ。

 しかし次の瞬間、その魔物はその闇の光に小さく圧縮され断末魔も上げる暇もなく消えてしまった。

 そしてその闇の光が消えると、そこには深紅に輝くクリスタルだけが残っていたのである。


「・・・これは?」

「圧縮された力のクリスタルですぞ」

「力のクリスタル?」

「これを取り込むと、力が大幅に増大されるのですじゃ」

「力が増大?」

「はい。これを細かく砕いて下級魔族で作った魔物達に入れ込めば、さらに強力な魔物に生まれ変わるのですじゃ!」

「おお!それは良いな!そうなればあの忌々しい人間共が作った、あの守りの石とか呼ばれてる物にも対抗出来るんじゃないのか?」

「はい、ワシの計算通りであればそれも可能かと」

「良いじゃねえか!なら早速・・・もう作ってある魔物で力のクリスタル生成開始だ」

「いえ・・・すでに作ってある魔物は下級魔族を元に作ってあるので、力のクリスタルの力もたかが知れてるのですじゃ。やはり中級魔族からでないと・・・」

「ふむ・・・さすがに上級魔族は数が限られているからな。それにいざという時にも使えるし・・・仕方がない、とりあえず中級魔族で力のクリスタルを作り下級魔族を大量に使って魔物を量産させろ」

「御意」

「くく、これでなかなか進まなかった人間共を駆逐する事が出来そうだ」

「そうすれば、この世界はガザール様の物となりますな」

「ははは、その時が楽しみだ!」


 そう声高らかにガザールは言い楽しそうに笑いだした。そして隣にいるダザリアもニヤニヤと笑っていたのである。


(・・・あの魔物達を作ったのって、そんな理由だったの!?そのために何の罪もない魔族達を素材にして・・・さらに他の魔族達もまるで物のようにしか思ってない・・・最低)


 そんな二人のやり取りにさらに嫌悪感が増し、眉間に皺を寄せてじっと二人を睨み付けていたのだが、その時自然と手にも力が込もってしまい思わず触れていた扉が音を上げて動いてしまったのだ。


「誰だ!!」


 ガザールは鋭い声を上げ、私の方を睨み付けてきたのである。


(マズイ!!!)


 私はすぐさま踵を返し急いで来た道を引き返した。

 しかしすぐ後で、扉が大きな音を立てて開く音が聞こえ私は走りながらもちらりと後ろを振り返ったのだ。

 すると案の定ガザールが険しい表情で翼をはためかせながら、こっちに向かって飛んできたのである。


(ヤ、ヤバイ!!)


 私はすぐに前を向くと、階段に向かってさらに速度を上げて走り出したのだ。


「そこのお前待ちやがれ!!」


(いやいや、この状況で待てと言われて待つ馬鹿はいないよ!!)


 そう心の中で反論しながらも、ひたすら無視して走り続ける。


「くそ!何であんなに足が早いんだ!たかが上級魔族のくせ・・・に?・・・ん?何かおかしい・・・あれは!」


 そんな声が聞こえたかと思ったら、次の瞬間体に軽く衝撃が走った。

 どうやらガザールが何か魔法を放ってきたようなのである。しかし、自分の体を見るが特にどこも怪我をしていない。


「ん?何ともない?」

「お、お前は!?何で人間の女がこんな所にいやがるんだ!!」

「へっ?」


 ガザールの驚きの声に、私は思わず立ち止まりガザールの方を振り向くと、そのガザールは目を見開き驚愕の表情で宙に浮いていたのだ。

 私はそこではっと気が付き、自分に掛けていた幻覚の魔法が切れている事に気が付いたのである。


(そうか!さっきの衝撃はこの魔法を消してきたからか!!)


 その事実に気が付き、そしてすっかり素の自分が見られている事に私は内心焦りだした。


(ヤバイ!思いっきり顔見せちゃってる!!)


 私はすぐにガザールから顔を背けると、脱兎の如くもう一度走り出したのだ。


「あ!逃がすか!!何でこんな所にいるか吐かせてやる!!」


 そうガザールは叫ぶと、今度は攻撃系の魔法を私に向かって撃ってきたのである。


「ちょ!ここ狭いんだからこんな所でそんなの撃たないでよ!!」

「知るか!お前が逃げるから悪い!」


 そう言ってガザールは、イライラした口調で私の足元や横の壁に向かって魔法を撃ち私を足止めしようとしてきたのだ。

 しかし私はその衝撃を障壁を張って防ぎ、今はなんとかこの場から逃げ出す事に専念したのである。

 そうしてなんとか階段を駆け上がり、城の廊下に出ると複雑に入り組んでいる道をひたすら走りまくったのだ。

 しかしガザールもしつこく、なかなか撒くことが出来ない。

 そうしていくつかの曲がり角を曲がったその時、私はその場で立ち止まったのである。


「ヤバ!ここ行き止まりだった!!」


 目の前にはもう先に進む道が無く、さらに逃げ込める部屋も無い場所に来てしまった私は慌てて踵を返したのだが・・・


「もう逃げられんぞ!!」


 そんなガザールの声が来た道の方から聞こえ、完全に追い詰められてしまった事を悟ったのだ。


(ど、どうしよう!?試しに戦ってみる?でも、あれ一応最上級魔族で魔王やってる相手だし・・・こんな条件の悪い場所で戦うには正直厳しい!それに・・・なんか沢山の足音も近付いて来てるし、あれは絶対兵士連れてきてるよ!!最悪だ・・・)


 私はこの最悪な状況に、背中に冷や汗をかきながら一体どうしたら良いかと焦りだした。しかしその時───


「こちらです」

「え?」


 突然誰もいないはずの私の後ろから声が聞こえ、私は驚きながら後ろを振り向いた。


「あ、あなたは!!」

「時間がありません。説明は後でしますのでどうぞこちらに」


 そう言ってまさかの相手に手を差し出されたので、私は困惑しながらもその手を取ったのだ。

 するとその相手は私の手を掴むと、ぐっと私を引き寄せ抱きしめてきたのである。


「なっ!?ちょ!?」

「良いから黙ってて下さい。では行きますよ」

「え?行くってどこに・・・・・!!!」


 その相手に問い返そうとした瞬間、急に体に奇妙な浮遊感を感じそして周りの景色が歪んだのであった。













      ◆◆◆◆◆



「追い詰めたぞ!!」


 そう叫んでガザールは角を曲がり、行き止まりになっている廊下に出たのだ。

 しかしそこには誰も居なかった。


「なっ!?あの女どこ行った!!」


 そう言ってガザールは苛立たしげに突き当たりまでやって来るが、やはりどう探してもそこには誰も居なかったのである。


「一体どうなっている!?ここに逃げ込んだのはしっかり見てたんだぞ!それに、ここは他に逃げ場所なんてないはずだ!・・・・・ん?僅かだが魔力の気配が・・・それも魔族特有の・・・どういう事だ?」


 ガザールはそう怪訝な顔で、僅かに感じる魔力を探るが結局誰の物かは分からなかったのだ。

 そうしているうちに、遅れて武装した魔族の兵士達がガザールの下に辿り着く。


「ガ、ガザール様!侵入者は?」

「ちっ、どうしてだか逃げられた。おいお前ら、城中くまなく探して怪しい奴がいないか調べろ!!」

「は、はい!」


 ガザールの怒号に怯えながらも、兵士達はすぐさま城の中を調べに走り去っていったのだ。

 だがしかし城中調べても、結局侵入してきた人間の女はおろか怪しい者など見付ける事は出来なかったのであった。

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