プロローグ 少年は少女と出会う
全面改訂しました。
話の流れはあまり買えない予定です。
今を思うと、それは必然だったのだろう。
石造りの回廊を二人の少女が何かに追われるかのように走ってゆく。
二人とも上質な服を着ているが逃げている間に何処かに引っ掛けたのだろうか、所々破れている。
美しい銀髪や黒髪も薄汚れてその輝きを失っている。
そんな逃亡劇の最中、黒髪の少女は時々耳に手を当てて誰かと話している様だ。
「こちらミルヴィナです。
ええ、そうです。回廊を進んでいます。
・・・はい、わかりました。そちらへ向かいます。」
話し終えると
「こちらへ!」
ミルヴィナは銀髪の少女の手を引き誘導する。
そして二人は回廊の先、空の見える半円状のホールらしい所に出た。
ホールの両側には三段ほどのバルコニーが張り出している。
どうやら屋外劇場跡の様だ。
劇場の座席は木製だったらしく朽ちて原形をとどめていない。
所々に蔦が絡まっており長い年月を感じさせる。
舞台らしい所へ進んで行くと彼女たちが来た入口から十数匹の武装した何かが飛び込んできた。
ゴブリンだ。
彼女たちはゴブリンに追われて来たのだ。
所々錆の浮いている槍や棍棒を持ちゴブリンがゆっくりと近づいて来る。
十数匹のゴブリンが少女達に迫る中、二階のバルコニーから両者の間に飛び込んだ者がいた。
年の頃は16,17であろう黒髪の少年が盾を構え先頭のゴブリンに突撃する。
グシャリ
構えた盾が戦闘のゴブリンを圧殺し両者の間に割って入った。
盾を構えるその体は少し細い。
だが、髪の間から覗く黒い瞳には“少女達を必ず助ける”と言う強い意志を宿していた。
「ミルヴィナ。無事か?」
ミルヴィナと通信していたのはこの少年だったようだ。
「はい、フガク様、大丈夫です。
この方に怪我はありません。」
「OK。ブリッツ!両側から挟み撃ちにするぞ!」
フガクと呼ばれた少年は腰に携えた剣を抜刀し、先ほどまでいた二階のバルコニーに声をかける。
「了解。ゴブリンを殲滅します。」
ガヲォン!!
ひときわ大きな音を立て金属の塊が二階から落ちてきた。
機械人形と言うべき人の姿をしており、フガクよりも二回り以上大きかった。
これが“ブリッツ”と呼ばれた者なのだろう。
着地と同時に何匹かのゴブリンを巻き込む。
ブリッツの手には“ツバイ・ハインダー”と呼ばれる両手持ちの大剣があった。
その大剣を構えゴブリンと対峙する。
フガクとブリッツはゴブリンの両側におり挟撃する位置にあった。
ブリッツが大剣を振るう。
ズパバパバパバパ!!!!
大剣が縦横無尽に動き数匹のゴブリンが膾切りにされる。
対してフガクは多数に無勢だが、押し込まれながらもゴブリンの攻撃を防いでいる。
守ることを最重要とし、攻撃は防御の為に行う徹底した防御の構え。
難攻不落の壁と言ったところだろうか。
それがゴブリンたちを押しとどめている。
突破できない壁と膾切りの装置。
二つに挟まれ十数匹のゴブリンは徐々にその数を減らす。
そして、程なくその全てが地に沈んだ。
「敵の殲滅を確認。」
「ふぅ。何とか倒せたな。」
フガクはゴブリンを倒して一息つく。
「私は回廊を調べてみます。フガクは彼女を頼みます。」
ブリッツはフガクにそう声をかけ回廊の方へ向かった。
その声を受け
「助けに来ました。僕の名前はフガク、フガク・シノノメと言います。」
にっこり笑い少女に話しかけた。
「ありがとうございます。おかげで助かりました。」
少女はフガクに深々とお辞儀をする。
「私はレンボルト辺境伯の娘でティオと申します。」
年の頃は16,7と言ったところだろうか。
腰まである見事な銀髪と青い目、スッキリと通った鼻筋に桜色の唇。
着衣も村人とは違って上質なものを着ている。
かわいらしさの中に美しさのある少女ティオにフガクは目を離さず見つめていた。
ティオの方も自らを助け守ってくれたフガクを見つめている。
それはごくわずかな時間だった。
だが、わずかな時間でも大きな隙となる。
フガクたちが飛び降りた二階のバルコニーよりも高く反対にある三階のバルコニーに悪意が潜伏していた。
それにいち早く気付いたのは“ミルヴィナ”であった。
「フガク!反対側、三階のバルコニーに高エネルギー反応があります!!」
潜伏していたのはゴブリンシャーマン。
低レベルの魔族であるゴブリンの中でも魔法を使える存在である。
呪文を詠唱するゴブリンシャーマンの杖に光が集まって矢の形になってゆく。
それが最高点に達した時、ティオに向かって三本の光の矢が打ち出された。
ギャン!ギャン!ギャン!
マジックボルトだ。
マジックボルト。
必中属性があり、阻害されない限り必ず命中する魔法の矢である。
低レベル呪文にしては威力も高く、当たり所が悪ければ死の危険もある。
高レベルの術者が唱えた場合、矢の本数が増える。
そのマジックボルトが三発も発射されたという事はゴブリンシャーマンの術者としてのレベルは比較的高いモノ(ゴブリンにしては)の様である。
その光の矢がティオに襲い掛かる。
「危ない!!」
フガクは咄嗟に盾を構え、光の矢を受け止める。
光の矢の1本は盾で受け止められ、もう一本は剣で弾き飛ばされた。
だが残りの一本がフガクの体、それもみぞおちに深々と突き刺さっていた。
「グフッ!!」
吐血し片膝をついた。
おびただしい血が劇場の石畳に滴り落ちる。
「!!な、何故!!」
その姿を見たティオが真っ青な顔をしてガタガタと震えている。
出血の量から察したのだろう、致命傷だ。
「ブリッツ!緊急事態です。すぐに来てください!」
そんな中、ミルヴィナはブリッツを呼び寄せた。
ギュィィィーン
ブリッツが両足に着いた駆動機構を使い急いで戻ってきた。
それを見たミルヴィナは
「ブリッツ。このままだとフガクは助かりません。レストアモードを起動してください。」
「了解!緊急事態につき本機をレストアモードに移行します。」
ガコン、ギュゥイン。
ブリッツの頭が後ろにスライドし、胸部が開かれる。
胸の中には人が一人入れるほどの空間があった。
その中にフガクを収納すると開いていた胸を閉じ頭を元の位置にスライドさせた。
「これよりフガクのレストアを開始します。」
「ナノマシン濃度25%、バイタル低下中・・・・・」
フガクはブリッツの中でナノマシンによる治療を受けていた。
光の矢はフガクの心臓に突き刺さり、致命傷をわせた。
だが、ブリッツのナノマシンによる回復は完全に死亡してない限り助けることが出来る。
(このままだと、ここから脱出できそうにないな・・・。)
フガクはナノマシンの治療を受けながら考えていた。
ここはゴブリンの住み着いた都市跡でも中の方、中心地に近い。
安全な場所に移動するには戦力が足りない。
ブリッツも100%の力を出せる状態では無い。
「ブリッツ。やはり各兵装を使用するにはマスター登録の必要があるのか?」
「はい。当機、機動強化兵装 TYPE:SK-007 ブリッツの各兵装の使用権はマスター登録者にあります。」
ブリッツは地球連邦所属の軍事兵器である。
マスター登録を行った場合、付加されている兵役の義務つまり兵士になる必要がある。
少し前まで学生だったフガクにとって兵士になるのは避けたいのだろう。
だがここは地球ではない。兵士となっても問題になる可能性は低い。
(この星に来た時、いずれそうなるだろう予感はあった。それが今なのだろう。)
フガクは決意を固めた。
「ブリッツ。マスター登録を行う。」
「了解。マスター登録の意志を確認しました。」
「これより全武装の使用制限を解除します。」
「判った。リストア終了と同時にここを脱出する。」
数時間後、ティオとミルヴィナを抱え廃墟を駆け抜けるブリッツの姿があった。