JOKER
自分たちの曲に感動した瑠夏は、勢い余って作詞を自ら名をあげ・・・?
「当たり前の日常が変わる……んーこれじゃちょっといまいちか……突然バラ色にかわる、とかにしてみるか……」
一人でつぶやきながら、頭をぐしゃぐしゃする。
翌日の早朝。オレはあの曲の感動を忘れないうちに、足早に作詞にかかった。
ああは言ったものの、やはりやるとなったら難しい。
迅ちゃんや朔也がぎりぎりまで反対してた理由が、わかる気がする。
でもやると決めたからには、やり遂げないとな!
「あれ、電気ついてる。誰か起きて……って瑠夏!? こんな朝早くに起きるなんてどうした!?」
む、失礼な言い方だな。
朔也はオレがいることに信じられないのか、目をぱちぱちさせている。
彼の声に気付いたのか、迅ちゃんや要もやってきた。
「驚いた。いつもは起きるのいっちばん遅い君が、早起きなんて」
「不吉だ……今日雨が降るかも」
「二人とも、そのいい方ひどくない? オレだって早起きすることはあるよ~」
「ちちちちなみに、何時起き、ですか?」
「五時だったかな?」
「五時!!?!?」
三人の声が、一気に重なる。
その間、冷蔵庫に保管してあったパンにかじりつく。
「瑠夏お前……大丈夫か」
「ん、なにが?」
「作詞するって意気込んでたのはわかるけど、そこまでするとは思ってなかった。早起きなんて、高校の修学旅行以来だぞ」
へー、そんなに早起きしてねぇんだ。オレ。
基本寝たい時は寝る主義だからなあ、当然か。
「とりあえず作詞は任せてよ。三人は作曲で疲れたと思うし、休んでくれば?」
いいこと言ったなと、自画自賛してもいいくらいだった。
しかし迅ちゃんはそのセリフにまるで信憑性がないというような目を向け、オレに言った。
「そういっていつのまにか熟睡してるオチでしょ。もう騙されないよ」
「え、オレそんなに信用ないの?」
「瑠夏、わかってる? 提出まであと三日しかないんだよ」
そんなの、オレが一番理解してる。
音階講座をはじめとした迷惑をかけてる発端は、まぎれもなくオレにあるんだ。
グループの一員なんだから、ちゃんと協力したい。
やるからには、みんなで満足できるような曲にしたい。
「作詞するにあたっての提案なんだけどさ、詞の中にグループ名にまつわる詩を書いてみたいんだよ」
「グループ名?」
「そ。例えばオレ達の前のグループ名、ラピスムーン的な名前。まだつけてないでしょ?」
オレが言うと、三人が確かにと納得してくれた。
三人が椅子に座り、頭を抱えるようにして考えてくれる。
冷蔵庫から残りのパンを渡すと、迅ちゃんが言った。
「君達の名前は、どうやって決めたの?」
「えっと確か、英語」
「それくらいは誰でもわかるよ。なんでラピスムーンにしたのかってこと」
「ああ、俺が決めたんだよ。瑠夏の漢字って瑠璃の瑠だろ? 瑠璃って英語でラピスって意味なんだ。ムーンってのは、俺の名前の朔からきてる」
朔也の朔っていうのは、月という意味を持つ。
それを聞いて、オレ達の名前を英語にしようって提案したんだっけ。
英語にした方が響きもいいし、かっこいいからね~。
「名前を英語に、か。君達はともかく、僕達のは無理そうだね」
「確かにな~何かいいアイデアがあれば……」
「あ、あのっ」
考え込んでいたオレ達三人の視線が、一気に彼へ向く。
彼は「ひぃっ!」と小さく悲鳴を上げ、恐る恐る口を開いた。
「イニシャル……とかはどうでしょうか?」
「イニシャル?」
「はい……。僕の場合は、T・K、なんですが、五人のイニシャルを並べて、単語を作ってみる、とか……す、すみません。全然いい意見じゃなくて……」
「いや、それでいってみよう!」
あっさりとオレが言ったことに、要は素っ頓狂な声を上げて驚く。
その場に置いてあったルーズリーフを一枚とると、オレは全員の名前を思い出してみた。
えっと、オレは朝倉瑠夏だからA・Rってなるのか。
んで恵波朔也でE・S、佐久間迅でS・J。
そしてさっき要が言ってたのはT・Kで、最後桜瀬伊吹でO・I……
これを組み合わせて、単語ができるのだろうか。
いいアイデアだとは思ったけど、難しくないか?
「ジョーカー……」
ぼそっと聞こえた、声にオレは顔を上げる。
どこから声がしたのかときょろきょろ見渡すと、いつの間にか台所にいたのはブッキーだった。
今のは、ブッキーが言ったのか?
オレが不思議そうに見つめていると、彼は牛乳を手に取りながらめんどくさそうに言った。
「それぞれの名字と名前を一字とっていったら、JOKERってなる。そう思っただけだ」
そういわれて、ピンときた。
迅ちゃんのJ、ブッキーのO。要のK、朔也のE。そしてオレのR……
「すげー! 本当に単語になった!」
「ジョーカーってことは……切り札って意味?」
「偶然にしてはすごい単語ができたな。まるで仕組まれてたようにも思える……」
「すごく、かっこいいです」
「すごいよ、ぶっきー! よく思いついたね!」
オレが言うと、彼はふんと鼻で笑った。
「いっとくけど、社長命令で仕方なくやっただけだ。お前らとつるむつもりなんてさらさらねぇ。勝手に友達ごっこでもやっとけ」
ぶっきらぼうに言い放つと、彼はさっさと部屋に戻ってしまう。
まだ完全ではないけど、形になってきてるのかもしれない。
JOKER、切り札。
なんていいグループ名だ、これなら……!
「おっしゃああああ! がんばっていこ~~~~~~~~~!」
意気込むオレを、怪訝そうに見つめる三人の瞳があったことは言うまでもない。
(続く・・・)
とうとう! ついに! 彼らの名前を明かすことができました!
JOKERは最初びびっときたもので、そこから五人の名前を付けていったので
めちゃくちゃ大変でした(特にJとRに関してはすごく・・・)
というわけで、これからもJOKERをよろしくお願いします!