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初めの一歩

曲作りのために、要を部屋の外に出すことに成功? した瑠夏は要を加えた四人でレッスンを再開することに・・・

「ただいま。あれ? 珍しいね、天王寺君が部屋の外にいるなんて」


袋を両手に下げた迅ちゃんが、物珍しそうにやってきたのはオレが要をつれて外に出たころだった。

迅ちゃんは重そうに袋を玄関にあげるのを見た朔也が、運ぼうと彼に駆け寄った。


「偉く買い込んだな。実家に帰ったんじゃなかったっけ?」


「ルーレットを見る限り、明日僕が当番でしょ? 近くに大型スーパーがあるから、買っておいたんだ。ちゃんと余分なものは買ってないから安心して」


「なるほど。そうだ、迅も一緒にどうだ? 曲作り」


朔也が言うと、彼の目はオレ達に向く。

迅ちゃんの視線が怖いのか、要はその場に合ったクッションで自分の顔を隠した。


「……別にいいけど、そこの二人ただの素人だよね?」


「ちょっと迅ちゃ~ん、ひどくない? これから頑張っていけばいいんだよ~ね~要?」


「へ!? いや、あの、その……」


要はおびえるように声を発し、オレ達と少し距離を取る。

それをみていた迅ちゃんが、はあっとため息をついた。


「朔也一人じゃ大変そうだし、仕方ないから僕が付き合ってあげるよ。感謝してよね」


「さっすが迅ちゃん、頼りになるなあ!」


「助かるよ、迅。買ったもの直しとくから、二人のこと任せていいかな?」


「わかった」


そういって、迅ちゃんはオレ達の方に近づく。

彼はオレの手元にあるレポートを見ると、顔をしかめた。


「何? まさかそれだけしか進んでないの?」


「こっ、これから頑張るんだってば!」


「まるで子供のいいわけだね。朔也はどこまで教えてくれたの?」


「えっと~音階全部と記号をちょろっと」


「じゃあ昨日の復習をしよっか。今から弾くからどこの音かあてて」


そういうと、迅ちゃんは「朔也のピアノ、借りるよ」とだけいってオレ達を朔也の部屋に入れた。

彼はピアノの椅子の高さを自分に合わせると、一つの音を鳴らした。


「はい。この音は?」


えっと……んっと、この音は……

あり? なんだっけ?


「……ミ……」


小さく発せられた声に、え? とオレは聞き返す。

勢いよく振り返ったためか、要はびくっと体をこわばらせた。


「すすすすすみません……ああああの……」


「……正解だよ、わざわざ謝る必要ないんじゃない?」


す、すごい! 昨日朔也の授業受けてたオレはわかんなかったのに、要わかるんだ!

まだ何にも教えてもいないのに!


「天王寺君、だっけ。ちょっとためしていい?」


「たたた試すって……?」


「僕が次々に音を出すから、バンバン言ってって」


そういうと、迅ちゃんは色々な音をポンポン鳴らしていく。

いうまでもなく、オレは一つもわからなかった。

あ、一つだけわかったことといえば中に半音あげたやつとか難しいのも交じっていたこと。

だというのに要は、小さい声ながらもその音を当てていく。

荷物を直し終わった朔也も合流して、そのすごさに口をぽかんと開けている。


「……全問正解、だね。君、音楽の才能あるよ」


「いいいえ、そんなこと!」


迅ちゃんの言う通り、要はすごかった。

芸能界に縁がない、ただの一般人なのに……。


「もしかして天王寺には、絶対音感があるんじゃないか?」


「ゼッタイオンカン?」


「そ。どの音も正確にあてられる能力みたいなもんだよ。本当にあるんだな」


ひええ! すげぇ!

オレ達が感嘆の声を上げると、要は恥ずかしいのかクッションで顔を覆ってしまった。


「要、音楽やったことあるの?」


「おお音楽なんて、僕には無理、です……」


「でも絶対音感ってすごいよ~尊敬しちゃう~」


微笑みながらオレが言うと、彼は首を小さくふった。

その一瞬だけだったが、かすかに彼の瞳が見えたような気がした。

それがきれいで、一瞬だったけどつい見とれてしまった。


「僕の家は……みんなそうだから……お母さんも、姉さんも……それが当たり前だから……」


「社長の息子だけど、君は芸能人でもないよね。ここにいるのも、もしかして社長の強制?」


「……すみません……足手まといになるだけです……よね」


要はそういって、クッションに顔をうずめた。


「僕……かなりの人見知りで……こんなふうに誰かと一緒にやるのとか、初めて、なんです。小学校の時から、ひきこもりで……」


そういう要の声から、あるに文字の言葉が思い浮かぶ。

それは、恐怖。

自分の人見知りな性格で、まともに人と話すこともできなかったんだろうな。


オレにもわかる。

迅ちゃんも歩美も、さらに兄さんまでいなくなったときのあの喪失感。

そうだ、あの時誓ったじゃないか。

悲しい顔にさせない、そんなアイドルになりたいって!


「ねぇ要、オレと友達にならない?」


「ひえぇっ!?」


「人見知りなんて、そんなの気にしないって! 色々話していけば、きっと慣れてくるよ!」


「ひぇぇぇ!!」


要は逃げるように、どんどんオレに遠ざかっていく。

それに構わずずんずん近づくオレを止めたのは、朔也と迅ちゃんだった。


「やめなよ、瑠夏。人見知りがそんな簡単に治るわけないでしょ?」


「え~でもさ~」


「こういうのは焦らすほどダメなんだ。少しずつ仲良くなっていけばいいんじゃないか?」


「なななななかよくなんて、ととんでもないです! 僕のことは気にしないで、三人でやってください!」


「逃げちゃだめ!」


ぴしゃっとその場が鎮まる。

今、何とかしなきゃ! 要は一生このままになってしまう!


「無理とか、とんでもないとか要そればっかじゃん! せっかくお母さんが用意してくれた転機だよ? それを乗り越えないでどうすんの!」


「で、でも……」


「お母さんに変わった自分を見せて、驚かせてやろうよ☆」


優しく、オレは要に笑いかけて見せる。

朔也も迅ちゃんも呆れているようにも見えたが、要には優しく微笑んでいる。

かすかだったが、彼の震えていた手が止まっていた。


「よし、ってことでまずは名前呼びから始めよう!」


「ひぇ!?」


「これからチームとしてやっていくんだし、気軽に瑠夏でいいよ。二人もそれでいいよね?」


オレが半強制的に押し切ったのを、二人は怪訝そうな顔で見つめ返す。

中でも迅ちゃんのその顔と言ったら、表現できないくらい怖かった。


「勝手にポンポン決めないでくれる?」


「俺は別にかまわないけど、ゆっくり天王寺……要のペースでいいからな」


「さっすが朔也! ほらほら迅ちゃんも~」


迅ちゃんはため息をついただけで、そっぽを向いた。

どうしたのかと覗き込んでみると、彼の顔が少し赤いことに気付いた。


「もしかして迅ちゃん、照れくさいの?」


「はあ!? そんなわけないでしょ! ばかじゃないの!?」


「あ、顔赤~い! やっぱり照れてるんだ~」


「瑠夏!」


二人でワイワイやっている中、くすくす笑っている声がする。

それは、ちらりと見えた要の笑顔だった。

慣れるまでには時間はかかるかもしれない。それでも、大きな進歩だった。


「ブッキ~いないの~? 夜ご飯出来たよ~早くしないと冷めるよ~」


外から聞こえるのんきな声に、重たげに目を開く。

時計を見るとすでに夜を回っていた。

彼の机にはたくさん書き込まれた書類と、シャーペンなどのものが転がっていた。

その横には、ギターのケースのようなものが置いてある。


「今日ね、朔也と音階講座したんだよ~。あいつ怒るときはほんっと容赦なくてさ~。音階だけで一時間かかっちったよ~」


一人でしゃべっているのは、言うまでもなく瑠夏だ。

おそらく自分が出てくるまで続けるのだろう。うるさくてしょうがない。

伊吹は小さく舌打ちしながら、寝返りを打った。


「あ、そうそう! 要がね、部屋から出てきてくれたんだ! 今日試しに四人で食べようって話になったんだけど、せっかくだからブッキーも来なよ~」


返事をしない。

彼は何と言われようと、動こうとしなかった。

淡々としゃべっていた瑠夏を呼ぶ声が聞こえ、ようやく収まる。

静かになった部屋で伊吹は一人、部屋の天井を見上げた。


さっき、要がどうとか言っていたのを思い出しながら顔をしかめる。

極度の人見知りで部屋から出ようとしなかった彼と、一緒にご飯を食べるというのだ。

たった二日しかたっていないというのに、一体何をしたのか……。


「………目の前、ちらついてんじゃねぇよ……くそ……」


彼は歯を食いしばりながら、怒りをぶつけるように枕を壁に投げつけたー


(続く・・・)

先日、あるアニメを見るために遠くまで行ってきました。

迷子の連続で余計疲れましたが、内容自体すごくよくて楽しかったです。

いかにも公式が推してるなってことが、これでもかというほどわかってしまった私であります。


それとこれとは関係していない今回のお話ですが、

次回、ようやく作曲します

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