本番はこれから
樹と律、そして死んだと思っていた兄の帰還。
なんだかんだあったもののあっというまにトップアーティスト賞へ!
「はーい、JOKERさんのリハーサル終了で~す」
「せ~のっ、ありがとうございました~!」
五人一斉に一礼し、楽屋へ歩き出した。
オレ朝倉瑠夏を含めたJOKERは、ついにトップアーティスト賞に臨む日がやってきた。
誘拐されるという厄介ごとに巻き込まれた恨みなのか、いつも以上に歩美のレッスンがきつかったのは言うまでもない。
体調管理を万全にとばかりに迅ちゃんが考えるメニューはすごいものばっかりだったし、おまけに生活リズムまでも朔也に指示される始末……。
はあ、なんでオレがこんなことまでしなくちゃなんないわけ?
唯一要だけだよ、一緒に頑張ろうって慰めてくれたの。
それに一番の問題は……
「お、お帰り! JOKERの諸君! 僕と樹ちゃんからの差し入れ、たんまり召し上がれ♪」
兄さんこと朝倉巽が加わったことだ。
マネージャーであるいっちゃんがこそこそやっていたのは、兄さんに情報を渡すためだったらしい。
そのせいかこれまでの生活の情報はすべて兄さんに伝わっていて、親父の次に口うるさい説教までくらわされた。
おまけに、みんなのコーチも担当するとか言い出すんだぞ!
さらにさらに楽屋まで嗅ぎつけてきて! 兄さんって本当わけわかんないわ!
「さっすがオレ達の情報知り尽くしてるだけはあるな……。五つ全部違うケーキなんだけど」
「それはこっちのセリフだよ~よくこんなに好み違うのに、今まで同居出来たね」
「あはは……」
苦笑いをしながらも、朔也がはいっとケーキの入った箱をオレ達に渡す。
それぞれ好きなケーキを手に取り、椅子に座って一口食べた。
「ん、あんまあい♪」
「瑠夏って昔からイチゴのショート好きだよね。僕はあんまり好きじゃないや」
「迅ちゃんこそよくモンブランとか高いもの食べれるね。贅沢でしょ」
「しょうがないでしょ、好きなんだから」
そういってケーキにのっている栗をぱくっと食べてしまう。
ちらりと隣をみると、要はミルフィーユとかいうものらしく朔也はチョコケーキだ。
ちなみに歩美は小さい頃から甘いもの自体が苦手ならしく、無難なプリンを食べている。
……確かに、見事にばらばらだわあ。
「そういやオレ、ミルフィーユ見るの初めてだわ。どんなの?」
「え、食べたことないの? 瑠夏君」
「オレ基本ショートケーキだからさっ」
「よかったら、食べてみる?」
要にスプーンを差し出され、一口ぱくりと味見してみる。
うおおお! 何このサクサクしてる、この味!
もはやケーキじゃないじゃん!
「しゅごくしゃくしゃくにゃんだけど(すごくサクサクなんだけど)」
「パイでできてるからね。おいしい?」
「ん♪ ありがと、要」
「要と瑠夏ってホント仲いいよな」
そうかな? と首をかしげる要に、イエイとオレは笑いかけて見せる。
お礼にと要にショートケーキを一口上げようと、スプーンにすくった時だった。
「そういえば、順番表出てたの見たか?」
歩美が唐突に言うものだから、危うく落としそうになる。
彼は食べ終わったプリンのカップを箱の中に入れると、オレ達に一枚の紙をほれと渡した。
「基本順番は運営側のランダムで決まる。中には大物歌手の次に今年デビューしたての奴が出るケースもあるらしい」
「つまり……こ、これって……」
「俺達もそのケースにはまったっつうわけだよ」
JOKERの文字の後に、煌の文字。
しかも、順番はまさかまさかの最後から二番目!
な、なんじゃこりゃあああああ!
「ちょ、どういうこと! なんで僕達が!」
「俗にいう、煌の引き立て役ってとこだろ。前と同じな」
「引き立て……役……?」
「しかも特別審査員の枠には、要の母である社長もいる」
「しゃ、社長がああああああああああああ!?」
歩美以外の声が、重なった瞬間だった。
全員が立ち上がり、食べていたスプーンやらを落としてしまったほど。
彼はその表情が予想通りだったのか、ため息しかつかなかった。
「すごいじゃん、瑠夏。あの社長が審査員なんて、今まで一回もなかったみたいだし」
「気楽に言わないでよ、兄さん! なんでオレ達がこんな目に!!」
「いいじゃん、ラストバトルはこうでなくっちゃさ」
やんわりと笑う兄さんを見て、オレは何だか怒ってる気が失せてくる。
兄さんは驚いてばかりいたオレ達に、にっとウインクして見せた。
「勝負は面白くなくっちゃ、始まんないでしょ?」
昔から、こういう兄さんの考えが好きだ。
予想外のことばっかりで、すっかり忘れてたけど。
何事も楽しまなきゃ、始まんないよね! よっしゃあ!
「…………巽さん」
「ん? 何?」
「昔はそうは思ってませんでしたけど、今の聞いてはっきりしました。あなた、瑠夏とそっくりですね。瓜二つなほどに」
え!? それってほめられてるの!? ひどい!
呆れているような声とは対照的に、彼の顔には笑顔が浮かんでいた。
ふと周りを見ると、みんなくすりと笑っている。
ああ、やっぱりすごいな。兄さんは。
あんなに緊迫した雰囲気を、たった一言で和らげちゃうなんて。
オレも負けてられないぞ!
「引き立て役なんて、一回で充分! ここは優劣を決める、オレ達にとって大切な場所なんだ! 優勝して、主役はオレ達だってこと見せつけてやろうじゃん☆」
「じゃあ一発、あの三人にあいさつしにいかないとな」
朔也の言葉に、オレはおうとうなずいた。
同じ会社の先輩と共演。
そんな時、どんな番組だろうと挨拶に行くのが芸能界のおきてのようなもの。
なんてめんどくさいもんだろうとか思うけど、あの三人にとなると話は別だ。
仕事以外にもプライベートでお世話になっちゃったわけだしね。
「こんにちは~JOKERで~す。今日はよろしくお願いしま~す」
「うふふふ、待ってたわ。JOKER」
まるでゲームのラスボスみたく仁王立ちしていたのは、言わずと知れた舞楽さんだ。
いつものツインテールは少しカールがかかっていて、とてもきれいに化粧が施されていた。
「仕事で会うのは、今回が二回目ね。あの時は、できそこないの新人としか思ってなかったけど」
ひ、ひどい! オレ達ってそんなに実力なかったの!?
「わざわざ挨拶に来てくれるなんて感心だね~JOKERちゃん達は。今日はお互い、悔いのないステージにしようね~」
舞楽さんの隣で、優奏さんがくすくす笑っている。
彼女はいつもの三つ編みをのばして、思いっきりカールをかけていた。
「お二人とも、いつもと違いますね……」
「そりゃあ今年最後の大舞台だもん。優勝、狙いたいじゃない?」
「あなた達はまだ着替えてさえいないのね。かなり余裕に見えるけど」
いやあ、着替えたいのはやまやまなんですけどねえ。
今日の衣装を作ったのはもちろん歩美だ。
だが今回たった一つ違うのは、要がデザインしたってこと。
朔也から聞いてびっくりしたが、彼は昔からそういうのが好きだったらしい。
出来上がった服を見てすごく着たかったのに、みんなから「瑠夏は壊しそうだから」という理由で却下された。
ったく、壊しそうだからってどんな理由だよ……。
「……朝倉さん……それに皆さんも……お久しぶりです」
「あ、その声はなるちゃん! ……だよね?」
「……何か変、ですか……?」
「な……なるちゃんの片目がある! すごい!」
はあ? と驚いたような顔を浮かべて、こちらを見ているのはなるちゃんだ。
彼の特徴といえば、前髪が少し長くて片目が見えなかったのだが……。
この数か月で何があったのか、なんとはっきりと見える!
「……人間に二つ目があるのは……当たり前な気がするのですが……」
「いやあ、なんか隠れてたからてっきりなんか能力が使えたりして隠してるのかと!」
「瑠夏、それ漫画の読みすぎ」
迅ちゃんの言うことはスルーっと♪
「たくちゃんってば、瑠夏君になるちゃんって呼ばれてるんだ? かわいい☆」
「仮にも先輩なんだから、もうちょっとしっかりしなさいよ」
「別に……俺はそういうの気にしないタイプだから……」
三人が話しているのを聞きながら、オレは何だか不思議な気持ちになる。
初めてライブであったときにも思ったが、この三人って仲がいいようには見えないんだよなあ。
オレ達の方が勝ってる気がする! うん!
「そういえば、あんた達って私達の前よね? 引き立て役として、ちゃんと役目を果たしてもらおうじゃない」
「お、オレ達は引き立て役なんかじゃ……」
「そういっていられるのも、今のうちだと思うよ」
しどろもどろになって答えようとするオレに変わり、迅ちゃんがさらりと毒舌を吐く。
彼はいつものように人をばかにしたような態度で、フンと鼻で笑った。
「あれから僕達は練習して、新曲も完璧にできるようになったんだ。悪いけど、引き立て役なんかじゃないよ」
「ずいぶんと偉い態度ね……誰にものを言ってるのかしら」
「はんっ、それはこっちのセリフだ。お前らみたいな先輩グループに優勝を譲るほど、俺達JOKERは甘くない」
迅ちゃんに引き続き、歩美までもが大きな口をたたく。
いつもならここで、朔也や要がとめてくれるのだが……今回は違う。
みんな本気だ。煌の人達と、全力で戦おうとしてる。
そうだ、オレ達だってこの番組に出演するんだ!
ここでびびってちゃ、優勝なんてできるかい!
「この番組の主役はオレ達です! 絶対、負けません!」
オレがそういうと、煌の三人は少し笑って見せた。
(つづく!)
今回は、メインキャストオールキャストでおおくりしておりま~す。
なんて言ってみたかっただけです、はい。
しっかしまあこの五人は仲がいいですね。
最初の頃とは比べ物にならないくらいですよ、まったく。
次回、最終決戦!




