築かれる信頼
トップアーティスト賞に出演することが決まった五人。
そんな彼らは、また新曲を作ることになる。
作詞・作曲組で分かれた一方、瑠夏はかつての幼馴染の二人と組むことに・・・
「だああああもおおおおわからん!」
「さっきからそればっかりだな。気が散るから黙ってろ」
「だって~全然進まないんだもん!」
オレが言っても、彼は手を止めることなくただため息をついた。
作詞を始めて数時間……オレは全く進まずにいた。
以前とは比べ物にならないくらい、書けない。
なんて言ったって一年の勝負所の歌だから、気合入れようとは思っていたが……
うまくいかないんだなあ、これが。
こういうのなんて言うんだっけ、ああスランプだ。
「君みたいな素人がスランプって言葉を使うのは早すぎると思うけど?」
くそ~、なんで迅ちゃん心の声が読めるんだよぅ~
ふと隣を見ると、作業している迅ちゃんの手元に分厚い辞書が置いてあった。
よく高校などで使う国語辞書で、ルーズリーフに何やら書き込んでいる。
「迅ちゃん、何してるの?」
「見ればわかるでしょ。調べもの」
「作詞のために、わざわざ辞書使うの?」
「ちょうど高校で言葉の意味を調べる課題が出てたから。作詞の参考にもなるし、一石二鳥でしょ?」
かあ~真面目な考えだわあ~尊敬する限り。
迅ちゃんは高校に通いながらアイドルしてるんだもんなあ~大変そう。
「人のばっかみてねぇで、お前もしろ」
「わ、わかってるよ~……なんかこの三人でやるのがすごくやりづらいというかなんというか……」
彼―迅ちゃんには昔の記憶がない。
オレと歩美は彼の昔の記憶にかかわる、幼馴染。
何か言っちゃいけないこととか言ってしまいそうで、気が気でないんだよなあ。
「いちいち気を使う必要ないと思うけどな。俺は」
「そういや歩美は、迅ちゃんのこと気づいてたの?」
「昔事故に遭ったとは聞いてたが、音沙汰なかったし死んだと思ってた。まさかこれが、本人だとは思いもしないだろ」
確かに……現にオレも間違ったわけだし……
「ちょっと。なに二人でこそこそ話してるの? 僕を仲間外れにしないでくれる?」
「いや、ちょっとな」
「時間ないんだから、ほどほどにしなよ。特に瑠夏、わかってる?」
そりゃあ痛いほどわかってはいるんですけどねぇ~
ああ、ずっと暖かい所にいるせいかだんだん眠く……
zzzzzzzzzzzzz……
「予想通り、寝たな。瑠夏の野郎」
「どんだけのんきなの、まったく……」
「しょうがねぇ、二人でやるか」
すやすやと眠るオレに、歩美は優しく毛布を掛けてくれた。
*
カリカリと書くペンの音だけが響く。
迅は隣を気にしながらも、作業を続けた。
歩美が以前より心を開いてくれたのはうれしい。
だがどのタイミングで話しかけ、何を話せばいいのか分からずにいた。
ただでさえ年が離れていて、頼りになる瑠夏もいないのに……
「その漢字、間違ってる」
急に話しかけられ、すっとんきょうな声が漏れる。
辞書と自分の字を見比べてみると確かに違っていて、迅は慌てて書き直した。
「よく気づいたね。ありがと」
「課題してて、いいフレーズ思いつくか?」
「難しい言葉ばっかりで、あんまり……歩美は?」
「一応サビらしき部分は出来た」
迅は驚いた。まだだった数時間しかたっていないというのに。
やはり昔からやっていただけはあって、経験の差なのだろうか。
「どういうのにするのか、きまったの?」
「一言でいえばラブソング、だな」
「ラブソング? 君が?」
おかしくて笑いをこらえきれず、ぷっと吹き出す。
歩美は笑われたことに怒りもせず、シャーペンをくるくる回しながら話した。
「似合わないだろ。よく言われる」
「確かにアイドルといえばラブソングだけど、よくかけたね」
「美雪とかに、色々聞かされてるからな」
「それでもすごいと思う。僕には無理」
迅の中で、歩美に尊敬の念が芽生え始めていた。
同じ事務所に所属していたのに、彼の存在にさえ気づかなかった。
彼の素晴らしい才能に少し嫉妬してしまう自分もいる。
「無理って決めつけると、何もできないぞ」
「でも君にはかなわないよ。もちろん、瑠夏達にも」
「迅には迅にしかないものがある。それだけで十分だろ」
ぽんと頭をなでられ、妙な既視感を覚える。
初めて、なはずなのに自分がこの暖かい手を知っている気がする。
いつも優しく、励ましてくれたあの……
「どうした?」
歩美の声に、はっと我に返る。
彼はぶんぶん首を振ると、少し笑って見せた。
「ううん。僕にもお兄さんがいたら……こんな感じなのかなって」
「お兄さん、か」
歩美は撫でるのをやめたかと思うと、彼のおでこにピンと指でつついて見せた。
「そんなの当たり前だろ」
意地悪そうに笑う歩美を見て、迅は既視感ばかりを感じていた。
「うーん、なんか違うような……要、今のフレーズどう思う?」
「え? えっと、ちょっとくらいの……かな? シャープにあげてみたらどうかな」
「なるほど、そういう手もありか。サンキュー」
朔也は礼を言いながら、楽譜に音符を記してゆく。
彼がピアノで作業している横で、要は何かを書いていた。
絶対音感を持つ要ともともとピアノが得意な朔也のコンビは、とても相性が良く順調にも思えた。
「じゃあさ、この響きはどう思う?」
「バランスはいいかもしれないけど……ミとソじゃなくて、ファとラにしたら?」
「三つも音鳴らしたのによくわかるな。さすが要」
「そっ、そんな、たいしたことじゃないよ~」
恥ずかしそうに赤らめた顔を、髪で隠すように覆う。
いつもの要のかわいい様子に、朔也はほほえましく感じた。
「それで? さっきから要は何してるんだ?」
「え、これ? 実は編集社の人に、衣装をコーディネートしてみないかって言われて」
要が見せてくれた紙には、彼が書いたのであろうデザインが書いてあった。
とてもおしゃれに、カッコよくデザインされてある。
まさか要にこんな一面があったとはと感心しながら、何枚もある紙をめくっていく。
「これ、全部今書いたのか?」
「ううん。昔からこういうの好きで、よく遊びで書いてたんだ」
「へぇ。だったらライブ衣装のデザインとかも、やってみればいいのに」
「やりたいことが多くて、一つに絞れなくて……」
要はえへへと困ったように笑う。
そんな彼を朔也は、ある人物と重ねてみていた。
「似てるな、瑠夏に」
「え、僕が?」
「何となく、昔を思い出してさ」
懐かしむような表情を浮かべた朔也は、楽譜に書いていた手を止め話し出した。
「進路を決める時、言ってたんだ。アイドルもやりたいけど、他にやりたいことがたくさんありすぎる、どうしよ~って」
「瑠夏君らしいね」
「その時はまだ俺もアイドルする気なかったんだけど、事情知ってのってもいいかなって」
「朔也君の夢は、アイドルじゃなかったの?」
「違った、というよりやる勇気が出てこなかった……からだな」
朔也自身、アイドルに興味がなかったわけではない。
それは要と同じようなものだった。
自分では無理だと思っていた、高い高い壁。
それを乗り越える小さな勇気をくれたのが、瑠夏だったのだ。
「かわらないね、瑠夏君は」
「今頃いびきかいて寝てるんだろうなあ。まあ、あの二人がいるから作詞は心配ないけど」
「そうだね。僕達も負けてられないね」
二人はそういって、静かに笑みを浮かべた。
何か物音がするー。
歩美はそのことに気付き、目を開けた。
深夜二時頃。この時間に誰か起きてるのはおかしい。
不信感を募らせながら、リビングをのぞき込む。
そこには見慣れないパソコンに向かって携帯電話を片手に持っている、樹の姿があった。
誰かと通話しているのか、聞こえてきたのはたった一言だけだった。
「以下の通りが、JOKERのすべてのデータです。また何かあったら連絡します。あなたがここに来るのを、楽しみに待ってますから」
彼女が向かうパソコンには、「JOKER」と大きな文字で記されていた……
(つづく・・・)
作詞を始めたせいか歌ばかりをみていた私ですが、
最近は歌詞にも注目してます
中でもラブソングは表現の仕方とかが
すごい好きです
あああ、これ◯◯と××のこと歌ってるぅ
となったりして、よく周りから大丈夫? と心配されるので
気を付けないとですね笑
次回、怪しい雲が‥‥




