苦しみを乗り越えて
要のために、社長にぎゃふんといわせるために
稼いだお金でライブをすることに!
「お……おはよう。瑠夏君、朔也君、迅君」
あれから数日たって、公演当日。要はオレ達の前に現れた。
急に電話が来たときはびっくりしたけど、迎えをお願いされた時はほっとした。
オレ達のこと、ちゃんと頼ってくれるんだなって。
その電話の時に今日がライブだという話をしたら、意外にも早く承諾してくれた。
久しぶりにあった要は、何だかすっきりしたような顔になっていた。
「要~~~~~! おっかえり~~~~~! 元気だった? ちゃんと食事食べてた?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「お前は要の母親か」
「だって心配するじゃ~ん。何はともあれ、戻ってきてくれてよかったよ~!」
感激のあまり、オレは要に抱き付く。
彼は優しく微笑みながら、オレの頭をなでてくれた。
「桜瀬君、ありがとう」
抱きしめられた時、要から聞こえた言葉に違和感を覚える。
パッとはなれ後ろを振り向くと、そこにはブッキーがいる。
彼は何も言わず、ただそっぽを向いて先に外へ行ってしまった。
「何? ブッキーと何かあったの?」
「まあ、色々かな」
「ふ~ん。あ、そうだ要。今からライブだけど、大丈夫?」
「う、うん。バイトの休憩のときに、おさらいしてたから」
さすが真面目な要は違うなあ。オレなんてここ二日しかやってないのに。
「でもそんな簡単にはいかないと思うよ」
するとオレ達の様子を遠くから見ていた迅ちゃんが、厳しい言葉を向ける。
彼は真剣な顔で、要に歩み寄った。
「今日のライブには君のお母さん達だけじゃなく、あの女の子も呼んでるんだ。ちゃんと歌える?」
「………わからない」
ふっと要の顔が暗くなったのが分かる。
数日あったとはいえ、トラウマがきれいさっぱりになくなるわけはない。
要が感じている、不安や恐れ。
今オレができることは―!
「要はさ、恐れ癖があるんじゃないかな?」
「恐れ癖?」
「前調べたんだ。人見知りって失敗したらどうしようとか、うまくしゃべれなかったらとかいう思考が引き起こすんだって。要もそうじゃない?」
図星だったのか、要が顔を俯かせる。
人見知りも女性恐怖症も、要自身の心が変われば少しずつ変われる。
だって要は、こんなにも変わってきているのだから。
「何もかも怖がってちゃ、前に進めないよ! 要は一人じゃない。隣にはオレだって、朔也や迅ちゃん……ブッキーもいる。オレ達を……友達を信じて」
今ならわかる、要のお母さんがわざわざグループにした理由。
要のことを思ってのことなんじゃないだろうか。
その思いに、オレ達が応えないでどうする!
要を支えられるのは、オレ達だけなんだから!
「どうでもいいが、時間だ。乗れ」
せっかくのいい雰囲気だったのを、ブッキーの一言がぴしゃりと締めくくる。
オレ達は大きくうなずいて、車とともに駆け出した。
なるちゃんに特別に許してもらった、バイト制服でのライブ。
公園の簡易ステージに立つと、たちまちオレ達は注目を浴びた。
遠くに車が止まっていて、そこから煌の女子二人が下りる。
客を一望すると、その中にはちゃんと社長もいたしあの美少女もいた。
うお~、かなりかわいいじゃん。あの子。
そりゃふったら女子に恨まれても当然だよな、うん。
「初めまして、JOKERです! オレ達のライブ、よかったら見てってください! そんじゃ、ミュージックスタート!」
軽快に鳴り響く、オレ達の曲。
それに乗せて歌う、それぞれの歌声。
比較的女性が多かったというのに、要は普通に歌えていた。
キラキラと輝く笑顔が、いつにもましてかわいかった。
点々とした人が、どんどん集まっていくのが分かる。
遅れてやってきたなるちゃんが、女子二人と何か話しているのが見えた。
やっぱり、歌うっていいな。
こんなに人を笑顔にできる、アイドルという職業。
最初のライブの時は、あんなに緊張してたっていうのに。
今は楽しくてしょうがない。このままずっと、走り続けていけたらいいのに。
公演が終わると、たちまち拍手の渦に襲われた。
そして煌の三人が入り、公園裏の広場へと離れていく。
私服に着替えている最中、いっちゃんから電話がかかってきた。
「もしもし、いっちゃん? 見てくれた? 公演」
『公演の感想を言いたいという方がいるので、変わります』
あれ? オレはいっちゃんに聞いたんだけどな……
そういわれてしばらく待っていると、
『すごいね、朝倉君』
美鈴さんの声が聞こえた。
『お母さんもあんな要、初めて見たって言ってた。伝えといてくれる?』
「はい。ありがとうございます」
『あとあなた達に仕事の依頼が来てるみたいだから、バイトとはここでおさらばだってさ』
仕事の依頼、だと?
何とも言えない嬉しさに包まれながら、通話を切る。
オレ達、とうとうやったんだ!
やっと、アイドルらしくなれたってことじゃん!
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「うわ! ど、どうした瑠夏。いきなり大声出して」
「やる気でてきたよ、朔也! オレ達、もっともっと歌えるよ!」
「やる気でたって……今頃?」
「どうでもいいけど、半裸で叫ぶのはやめなよ。恥ずかしい」
迅ちゃんに言われ、しぶしぶ上着を着る。
何もかもが順調で、これから始まるんだと思うとわくわくして!!
この時のオレは、何もわかっていなかった。
このあと何かが起ころうとしているのを―
(つづく・・・)
初期の頃から比べると、要はほんっとに成長しましたよね。
我が子の成長を見ているようで、ほんと感動ものです。
次回から第四部、やっとアイドル活動します!




