人生、そんな甘くない
無事にデビューライブを成功させることができた瑠夏達、JOKER。
いよいよ本格的に活動! ・・・と思いきや・・・?
「あ~~~~あっづ~~~い」
じりじりと焼き尽くすように照らす、太陽の日差し。
うっとおしいほど体から滴る、汗の数々。
みんみんと鳴き続ける、セミ達の声……
「んも~~~~! うるっさぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
オレはいてもたってもいられず、その場から大声で叫んだ。
セミ達は驚いたように一瞬鳴き止んだが、それでもむなしくもう一度鳴きだした。
夏。それはオレがもっとも嫌いな季節。
ぬいでもぬいでも暑さは和らいでくれずに、ただただ熱くなるばかり。
冷たいものを食べごまかすようにしても、すぐに戻るだけだった。
「瑠夏、うるさいよ。近所迷惑だから、そういうのほどほどにしてね」
パソコンに向かいながらこちらを見ようともせずに言ったのは、無論迅ちゃんだ。
彼は自分だけにあたるように扇風機を固定しており、いかにも涼しそうに快適に過ごしている。
「ちょっと迅ちゃん、扇風機独り占めしないでよ! リビングのはみんなで使うって約束でしょ?」
「これ僕の部屋のだけど」
「それでもこんな狭い部屋で一人占めにするのはどうかと―」
「クーラーとリビングの扇風機壊した人に言われたくない」
「はい、すみません。黙ってます」
オレは機械にめっぽう弱い。
無自覚だったが、ここで生活をしててよ~く思い知らされた。
どれがどのボタンかわからずいじくっていたら、クーラーの電源さえつかなくなり故障。
扇風機はコンセントの線に気付かず転んでしまい、見事に破損。
迅ちゃんの言う通り、自分の部屋にあるものを使えばいいのではないかというのがみんなの意見。
それがオレの部屋では朔也が気を利かせたのか、うちわしか置いてない始末。
この扱いの差は一体何なのかねぇ……。
「うわ、この部屋あっつ。迅~瑠夏~アイスあるけど、食うか?」
「食べる~!」
いわれたと同時に部屋から朔也が出てくると、すかさずオレはアイスを取りに行く。
彼の部屋からは冷気が少し漏れていて、それだけでも涼しかった。
「お前まさか、冷房つけてるな!?」
「それが何か?」
「ずるい! オレにも冷房当たらせて!」
「俺の部屋の冷房まで壊れたらシャレにならないから却下」
ちっくしょう! 何なんだよ、この二人は!
こうなったら!
「ブッキ――! なんか冷たいの作って~!」
「恵波のアイスで充分だろ」
「アイスだけじゃ暑さはしのげないよ!」
「要するに、涼しくなればいいんだな?」
ブッキーはにやりと笑い、食べていたアイスの棒をごみ箱に捨てるとオレに一枚の紙を突き出した。
「なにこれ?」
「お前が壊したクーラーや扇風機の弁償代」
うえぇぇぇぇぇぇぇ! たっか!
オレ、一人でこんなに払わなきゃなんないの!?
「どうだ、涼しくなっただろ」
「涼しくなるの意味違うから! これ、マジでオレが払うの!?」
「そうなりたくなければ、無駄な悪あがきはやめることだな」
ううう……鬼ぃ……
ブッキーだって朔也や迅ちゃんと同じように、涼し~い部屋で作業してるんでしょ~?
いいんだ、いいんだ。オレの部屋なんてどうせうちわだけなんだから……
「み、みんな。ちょっと、いいかな?」
嗚呼、どこかで要の声が聞こえるなぁ。
ふんだ、要だってどうせオレのことなんて……
「どうした、要」
「会社から宅配便として新しいクーラーがおいてあったんだ。運ぶの手伝ってくれないかな?」
え!? 新しいクーラー!?
「瑠夏、その浮き沈みなんかうざい」
迅ちゃんの言うことなんか気にしな~い、気にしな~い♪
オレは疾風のごとく起き上がると、要と朔也が運んでくるクーラーに手をかけた。
「すげー! 要が頼んでくれたの?」
「あ、うん。壊れたって言ったら、新しいの届けるからって。お母さんが」
おお! ってことはオレ、弁償代払わずに新しいのが来る!
「ただ、条件があるって。これを、DVDデッキに入れてくれないかな?」
ん? なんだその意味深な発言は。
いわれた通りオレがDVDデッキに入れようとすると、「僕がするよ」と迅ちゃんが横から入ってくる。
どうせ機械音痴ですよ、フン。
迅ちゃんが慣れたような手つきで操作すると、テレビに社長が映された。
『JOKERのみなさん、初公演見ました。すばらしいものでしたね』
あ、これはどうもご丁寧に。
『今回は仕事の都合上、こうして収録したものを渡しています』
うーん、そこら辺は別にいい情報かな~。
収録だろうが中継だろうがあんまり関係ないしね。
『公演はうまくいったようですが、今はどうでしょう』
ギクリ。
『暑さに呆けているだけで、アイドル活動をしていないのではないでしょうか?』
ギク、ギクゥ! すごいこの社長、エスパーだわ!
社長の言う通り、初公演が終わってからは取材の嵐だった。
と言っても瞬きするくらいの速さでそれは終わり、何の変化もなく今はこうしてのんびりとした生活中である。
それだけ注目されていないのかもしれない。
ネットとかで一応検索しては見るけどオレ達の名前はなく、あの日の公演も最近は注目されなくなっていた。
『そしてもう一つ、あなた達は次の公演費を稼がなくてはなりません』
WHAT? 公演費って社長が払うもんじゃないの?
『そこで、次の指令を与えます』
あ、スルーされた。まあ当然だけど。
って、ちょっと待って。いつからそんな制度になったの、うちのグループ!
『マネージャーにある店の住所を渡しています。その店でバイトし、公演費や生活費を稼いでください』
うえぇぇぇぇ! まじっすかあああ!
『そして朝倉君は、弁償代の支払いもお願いします』
なんだ、社長にもばれてんじゃん。ちぇっ。
再生が終わったのか、テレビはたちまち真っ暗へと変わる。
相変わらずの気まずい沈黙が流れる。
何か話さないとと思いながら、口を開こうとした時だった。
「どうやら、DVDはみたようですね」
後ろから、聞きなれた声がする。
いつの間に来ていたのか、そこにはいっちゃんがいた。
彼女は表情を変えようともせず、一枚の紙に書いてあるやつを読みだした。
「なら話が早いですね。これが店の住所です」
「え? オレらマジでバイトするの?」
「当たり前です。まさか、人気のないこのままの生活の方がいいとは言いませんよね?」
う~ん。本当はその方が良かったりしたんだけど~……そういうわけにはいかないよね~
「それで? この店なんて名前なの?」
「霞亭です。うどんとそばで有名なチェーン店として知られています」
あ~なんか聞いたことあるような名前のような……
確か小さい頃一緒に親父とよく行ったっけ。あの人、うどんすきだからな~
「本当にするんだなー、俺達。どうする? 瑠夏」
「もっちろん! やるに決まってるっしょ!」
オレがそういい、全員に微笑みかけた。
(続く!)
第三部は、お察しの通り資金稼ぎのお話です。
さて、JOKERはいつになったらアイドルとしてできるんでしょうね。
私事ではありますが、約半年?ぶりに先日散髪しました
髪の量はそんなかわりないと家族には言われたんですが
長すぎた頃の名残か、なにか大事なものをなくした感が
はんぱはいです笑 以上、久々の近況でした
次回、霞亭へ突入!