会社がなくなる!?
「はあ!? 会社売ったぁ!?」
オレの叫び声が、部屋中に響き渡る。
電信柱にとまっていた小鳥達が、びっくりして飛び立っていく。
「声がでかいぞ、瑠夏。もうちょい年寄りをいたわれ」
「いったい何がどうなったら会社売ることになるんだよ!」
「こうするしかなかったのだ! 私は未来のことを考えてだな」
「未来より今を考えろよ!!!」
「二人とも、落ち着いて。けんかしてても意味ないですよ」
優しい声色で、オレを落ち着かせる朔也は安堵の息を漏らした。
激しく肩で息をしながら、ふっか~いため息をついた。
オレ朝倉瑠夏は、こうみえてこの事務所に所属する芸能人だ。
現在二十歳となり、成人を迎えたばかりである。
ここマタン事務所はオレの親父ー朝倉龍之介が社長を務める、まあ有名な芸能会社だ。
高校生から隣にいる恵波朔也と一緒に、「ラピスムーン」というアイドルでやってきた。
その矢先が、これだ。
「社長、詳しく話してもらえませんか? どうして売ったりなんて……」
「とある会社の売り上げがアップして、この機に大きくするらしくてな。最近は伸び悩んでいたし、いいかな~って」
適当だな、相変わらず……オレ達のことは関係なしかよ。
まあ親父の言うことにも一理ある。
「ラピスムーン」と活動していくにしても、地域への貢献活動をおもにしたボランティアぐらいしかしたことしかやっていない。
この会社で売れている芸能人は、色々な事情があって移籍していった。
つまり、無名の人達しか集まってないわけで……
「それで、俺と瑠夏はどうすれば?」
「ん? そうだな……とりあえず、部屋の片づけを今すぐにしたまえ」
「今すぐ……ですか?」
「今日事務所前にトラックが止まっていただろう。今から撤去作業が始まる!」
はぁぁぁぁぁぁ!?
「しっかし、本当に売ったとは……」
工事が始まっていくのを見ながら、朔也がつぶやく。
荷物が入ったバックは、ずっしりと重かった。
何一つ、残してくれないんだな。
そう思うと、今までのことが全部消えてしまうようで寂しくなる……
「瑠夏は、これからどうするんだ?」
「もちろん、アイドルを続ける!」
朔也の質問に間髪を入れず、その言葉に答える。
彼はそれが分かりきっていたかのように微笑んで見せた。
「そういうと思った、巽さんを越えるのがお前の夢だったもんな」
「……まね」
朝倉巽
数々の有名な賞を受賞し、永遠のアイドルといわれ続けたオレの兄貴。
本業は俳優だったが、それにとどまらず歌手など幅広く活躍していた。
だけど、そんな兄さんはオレの小さい頃に命を落とした。
兄のようになるために、オレは小さい頃からアイドルを夢見ていた。
だからこうして会社がなくなったことに困ってるわけで……
「つってもなあ、会社ないしどうすりゃいいかぜんっぜんわかんないんだよね~。なんかいいアイデアないの? 朔也」
「俺に聞くなよ。そういうのは自分で考えるもんだろ?」
「ちぇ~ケチ~」
ぶうっとほっぺを膨らませながら一人で考えていると、不意に自分の携帯のバイブが鳴ったことに気付いた。
なんだよ~、この忙しいときに。
しかめっ面を浮かべながら、携帯を開く。
そこには送り主がない、長々とした長文が書かれていた。
『ラピスムーンのお二人さん、初めまして。天王寺グループ社長の天王寺喜美江と言います。このたび、マタン事務所と合併することになりました。それにより、あなた方をこちらで引き取りたいと思っています。もしよろしければ、この住所と地図が示す場所にお越しください』
「……なんじゃこりゃ」
よみながら、つい口に出した。
それをのぞき込むようにして読んでいた朔也が、顔をしかめて言う。
「いかにも胡散臭いメールだな。天王寺会社と合併するなんて初耳だぞ」
「でもぉ、ここに行けって書いてあるしぃ」
「まさか瑠夏、行く気か?」
「アイドル続けるには、そうするしかないんじゃね?」
朔也の言う通り、オレだってこのメールは信じがたい。
でも同時に、このメールから逆らい難い力を感じた。
ただのメールだっつうのに、変なの。
それに嘘かどうかなんて、行ってみて確かめればいい!
「まったく、お前らしいな。わかった、行くよ」
「そうこなくっちゃ!」
彼ににこりと笑いかけながら、オレ達は出発した。
(続く・・・)
ここからお話が本格的始動していきますのでよろしくお願いします。
余談ですが、作者的に瑠夏君は父親似だと思ってます。