一歩、前へ
いよいよ公演の日、到来!
はたしてどうなる!?
「おはようございます、みなさん。リハーサルには間に合ったみたいですね」
そりゃあ、もう……あれで間に合わなかったら最悪ですよ、まったく。
オレ達五人は車で三十分はかかる公演場へやってきた。
忘れ物やら髪のセットやらでバタバタしたせいもあり、時間に間に合わないという話になった時ブッキーの暴走運転が始まった。
まったく、あれは暴走族並みの速さだぞ……
まあそのおかげで、遅刻はしないですんだけどさあ。
「早速ですが、この衣装に着替えてください」
「ん、なにこれ?」
「決まっているでしょう、ステージ衣装です」
す、ステージ衣装ぅぅぅぅぅぅ!?
いっちゃんに渡されたものは、今回の公演用に用意されたきらびやかな衣装だった。
いかにもアイドルって感じで、すごくかっこよかった。
「すげぇ! これ、いっちゃんが作ったの?」
「まさか。この服装のデザインと制作は、桜瀬さんが担当したと聞いていますが」
え? 桜瀬って、ブッキーのこと!?
パッと後ろを振り向くが、ブッキーはすでに衣装を取り勝手に着替えようとしていた。
もしかしていつも夜頃に帰ってくるのは、そのためだったのかな。
ダンスやボイスレッスンの時も、そうしてたし。
「ブッキーってすごいね。料理もできて、裁縫もできるなんて」
「とてもじゃないけど、女子以上の実力かもね」
「これ着て踊るんだなあ、俺達」
朔也や迅ちゃんも、呆れかえるような声を上げる。
いよいよ、本番が近付いてるんだなあ。
確か衣装に着替えてリハーサルもやるんだっけ。
みんなが衣装を取っていくのでオレも手に取ろうとすると、ただ一人おびえている要の姿があった。
「どったの、要。衣装に着替えないと、リハーサル遅れちゃうよ」
「え? いや……その……、怖く、なっちゃって」
「怖い?」
「これを着て、大勢の人の前で歌うことを想像すると、恐ろしくて……」
彼の手が、小さく震えだす。
そんな要の手を取り、オレは微笑んで見せた。
「も~オレがあげた天然石だってあるんだし、要はずいぶん変わったから大丈夫! 隣には、オレがいるから☆」
「瑠夏君……」
要はしばらく黙っていると、着替え終わった迅ちゃんが出てきたと同時にあのと声をかけた。
「迅君、お願いがあるんだけど……」
「何? リハーサル近いんだから、手短にね」
「リハーサルの後でいいんだけど、僕の前髪、切ってくれないかな」
驚いたのは、オレだけではなかった。
だってあの要が自分からお願いしてきたんですよ、みなさん! 驚かずにはいられないじゃないですか!
迅ちゃんは少し顔を曇らせながらも、ため息交じりで言った。
「いいけど、それくらい自分で切ったらどうなの?」
「……僕がやると、失敗しそうだなあって……ごめんなさい」
「もうわかったから、いちいち謝んないでよ。ほら、早く準備しないと遅刻するよ」
迅ちゃんが声をかけると、要はゆっくり自分の着換えを取って控室へと行く。
これから始まる公演に向けて、オレも衣装に着替え始めた。
「煌、サマーライブ。まもなく開演しまーす」
あわわわわわ、客がいっぱいいるんですけどぉ……
舞台袖からそうっと覗き込んでいたオレは、あまりの観客の多さに驚愕していた。
公演だからそんなに人は集まんないだろうとか思ってたオレが浅はかだった!
しかもこれ、あれでしょ? 煌の三人の歌を聴くためだけに来てるわけでしょ!?
人気の有無にはとやかく言うつもりはなかったのだが、さすがにここまで集まるとは思ってなかったよ!?
どどどどうしよう! 一気に緊張がぁぁぁ!
「なんだお前、怖気づいてんのか?」
オレをばかにしたように言ったブッキーが、フンと鼻で笑った。
同じ衣装を着ているはずなのに、彼の方がすごくかっこよく見えた。
「まっさか~そんなわけないよ~」
「じゃあ手が震えている理由を教えてもらおうか」
「うぐっ……ちょ、ちょっと寒くて」
「今は夏だろ」
ぐはぁ! つ、強い!!
彼があまりにもオレを憐れむような目で見るもんだから、正直に言うのがなんかしゃくに障りなおも話し続けた。
「こ、これは……そう! 武者震いってやつ! こんだけの客の前で歌って踊れるんだよ! これに勝れる喜びはない!」
「へぇ」
「それに! あんだけ練習したんだもん! なんとかならなきゃ意味がない!」
これは本当だった。
練習に練習を重ね、レコーディングの日よりもうまくなってる自信がある。
迅ちゃんの過去を知って、形はともあれ一緒にアイドルをやるってって夢は叶ってるんだと思ったらワクワクが止まらなくて。
このメンバーとどこまでやれるか、それがもう楽しいのなんの!
「言うことだけは一人前だな」
む、なんだと!
「そんぐらい言えりゃあ、大丈夫だろ」
その言葉を言い捨て去っていくブッキーの背中を見て、え? という声が漏れた。
もしかして今の、励ましてくれたの?
ブッキーは最初から、オレが緊張していたのに気付いてたとか?
本当は優しいのに、どうして彼はオレ達と一緒にいようとしないんだろう。
どうしてあんなに一人を好むんだろう……
「ここにいましたか、朝倉さん。公演前の打ち合わせをします、楽屋へどうぞ」
いつのまにきたのか、いっちゃんがオレのところへ歩いてきていた。
彼女に言われるがまま、楽屋の方へと歩いてゆく。
楽屋を開けると、そこにいたのは―
「あ、瑠夏君。遅かった、ね」
「か、かかかかかかかかかか要!? え、嘘! やべぇ! かわいい!」
「ひえぇぇ!? かわいいなんて、そんな! あんまり見ないでよ~!」
要だ。前髪を切ってかわいらしい顔がはっきりと見えていた。
赤く高揚する要の顔を見て、なんだか新鮮に思える。
今から人前で歌うっていうのに、すごく勇気がいっただろうな。
「遅いよ、瑠夏。ちゃんと時間守ってくれない?」
「あはは、ごめんなさい」
「それとさっきのリハーサルの時、ステップが甘かったよ」
ぐさっ!
「ターンするときも一人だけ遅れてたから、気を付けてね」
ぐさぐさっ!
「ああそれと、俺からも一つ」
ぐすん、なんだよぅ……朔也まで……
「サビのとこ、音程ずれてた。以上」
がーーん! なんだよ、二人して! 言うこと指摘しかないわけ?!
公演前なんだからさ、励ましの言葉とか言わない!?
うう……悲しい……
「指摘を言い合えるのは、グループにとって大切なことなんだよ」
とそこに、聞きなれない声がする。
だけどどこかで聞いたことのあるような声だなと思い、ゆっくり顔をあげる。
そこには予想通り、煌の三人がいた。
その中の一人―確か優奏さんとか言った人がにっこり笑った。
「こんにちは、JOKERのみなさん。今日は楽しんでいってね~」
「こ、こちらこそ! よろしくお願いします!」
「まあまあそう固くならないで。自分達らしく、最っ高の公演にすればいいんだよ」
優奏さんの笑顔に、オレは何にも言えなくなる。
なんでだろう、この人が言うとすっげー説得力ある!
つっても自分達らしくが一番難しい気がするんだけどね。
「いっとくけど、あなた達は私達の引き立て役よ。主役より目立ったりしたら、許さないんだからね」
もう一人の女性―舞楽さんが髪の毛をくるくるいじりながら、フンと笑って見せた。
相変わらず、性格きついな~この人。
よくこんな人達が、人気だよね。まったく。
「……二人とも……そろそろ……本番」
ぼそぼそとしゃべる忘れられがちな男性、拓人さんが口を開く。
すごく小さな声だったというのに二人はわかったと小さく返事し、オレ達に言った。
「じゃあお互い頑張りましょうね~いってきま~す」
「その目に焼き付けてあげるわ! 私達、煌の実力をね!」
そういって三人は、ステージの向こうへと消えていった。
(続く!)
私的に推しの二人が出ているこの回が、一番好きです。
さりげない伊吹の優しさとか、要ちゃんの決心とか・・・
こんな感じで、自分の作ったキャラに萌える頻度が高いのが私です。覚えといてねっ
次回、間もなく本番でーす