煌
瑠夏からもらった天然石のおかげで、順調にレコーディングが終わった要。
そしてついに、瑠夏もレコーディング開始か?
「おはよ~ございま~す! JOKER全員到着しました~☆」
オレはそういいながら、レコーディング現場へと入っていく。
その翌日、まだ録っていないオレと迅ちゃんの収録をするために再度レコーディング現場に集まった。
本当は全員で行くつもりだったのだが、終わっているブッキーは時間の無駄とか言って一人だけついてこなかった。
作曲の面は、確かに感謝はしている。
が! オレの歌が時間の無駄ってどういうこと!? 少しはうまくなったんだから、聞いてくれてもいいじゃん!
まったく、これだからブッキーは……。
「人の悪口言えるくらい、余裕があるんだね。びっくりだよ」
ありゃ? 声に出てた?
オレがてへっと笑って見せると、迅ちゃんはむすっとした顔で言った。
「いっとくけど、君はオンチの中のオンチなんだから。そこを自覚してよね。せっかくの歌が、オンチのせいで台無しになっちゃうから」
「オンチオンチ言わないでくれないかな!? 少しはうまくなってるよ!?」
「じゃあ僕、先に収録してくるから」
「スルー!?」
大袈裟にリアクションを取っていると、後ろから苦笑いが聞こえた。
無論、要と朔也だ。
「相っ変わらずのバカっぷりだな、瑠夏」
「瑠夏君の歌、すごかったもんね……」
「二人までひっど! ふんだ、いいもん! うまくなってるって証明してやる! 身震いしても知らねぇぞ!」
オレが言っても、朔也ははいはいと言いながら流しただけだった。
要も要で、苦笑いを浮かべただけ。
こんにゃろう、オレのことなんだと思ってんだよ。
そもそも迅ちゃんがオレをスルーしたのが悪いんだ!
もし下手だったら、オレをばかにした恨みとして……!
「しっ、収録始まる」
朔也の声が遠く、聞こえないもののようにあいまいになる。
歌いだしを聞いた途端、鳥肌が立った。
それは、何とも表現できないような甘い甘い声だった。
ルックスにとてもあった、まるで天使のような歌声。
しゃくれやこぶしなど、カラオケなどにある高度なテクニックを見事に使い分け、かつ繊細に歌っている。
すごい。
どうしてこうブッキーといい迅ちゃんといい、歌手経験者は違うんだと改めて思う。
途端、あれだけ自信があった歌を歌うのがなんだか怖くなってしまった。
無意識に震える足に、オレは少し戸惑っていた。
「どうだった? 僕の歌」
はっと我に返ると、そこにはすでに迅ちゃんが立っていた。
勝ち誇ったかのような笑みを浮かべており、オレを見下すように見ている。
「さすがだな、迅。うまかったよ」
「……すごく、聞き惚れた」
「ま、これくらい当然の結果だけどね。さあ瑠夏、次は君の番だよ」
ど、どうしよう! これじゃ証明どころじゃない!
迅ちゃんの後にオレだよ? 下手さが強調されるようなもんじゃん!
ああ、もう! 一気に緊張してきた!
「こんにちは~あれ? 収録、先にやってます? 先こされちゃったみたいだね~」
そんな時、だった。
レコーディング現場に入るドアの向こうから、ぬっと女の人が現れたのは。
その女の人は花の髪飾りを付けており、三つ編みを一つにまとめている。
女の人が登場したことにより、要がおびえながら朔也の後ろに隠れ今までどこにいたのかもわからなかったいっちゃんが急にやってきた。
「これはこれは、望月さんではありませんか。お久しぶりです」
「あ、樹ちゃ~ん。お久しぶり~新人さんのマネージャーさんになったんだ~」
えっと、誰だ。この人は。
いっちゃんが知ってるってことは、天王寺会社の人か何かかな。
オレが助けを求めるかのように朔也や迅ちゃんを仰ぎ見るが、二人も知らないようで肩をすくめている。
「ちょっと優奏、後ろつっかえてんだからさっさと中入ってよ」
「あ~ごめんごめん。まゆちゃん達のこと忘れてた~」
「ったく、しょうがないんだから」
そういって出てきたもう一人の女の人を見て、驚いたのなんの!
なんとその人は、昨日ここに向かう途中にあったきれいな赤色の瞳を持ったあの子だったからだ!
女の人はオレ達の方を見ると、見下すかのような目を向けた。
「樹、それは?」
「例の新人です。JOKERといいます。事情により、一人はいません」
いっちゃんはオレ達の説明をざっぺらんにすると、今度は彼女達の説明をしてくれた。
「こちらは天王寺グループ所属、煌という三人ユニットです。あなた方の初公演時のメイン出演者です」
ああ、どうりで見たことあるわけだ。
ん? てか三人って言わなかった? 二人の女性しかいないんだけど……。
「初めまして~私、煌のベース担当の望月優奏といいま~す。こっちはギター担当の、永尾舞楽」
「……どうも」
舞楽と紹介された少女は、無愛想に会釈する。
いかにもなんかきっつそうな人な気がして、少し怖くなった。
「んでそちらの方に見えるのが、成海拓人」
なぬ? そちらの方って……
「拓人、勝手にマイク調節してんじゃないわよ。あんたを紹介してるんだから」
「……早く……収録したかったから……つい……あ……どうも」
うお! びっくりした!
いつの間にいたのか、さっきまで迅ちゃんが収録していた場所に一人の男性がいた。
何だかいかにも不思議なオーラを醸し出してる人だった。
この三人が、オレ達の先輩にあたるのかな。
いかにも先輩らしい威厳があって、近寄りがたいというか……
「それで? 真城さんは、僕達の初公演時のメイン出演者とか言ってたけど?」
迅ちゃんが気になっていたことを言うと、いっちゃんはきょとんとした顔で答えた。
「言ってませんでしたか? あなた方の公演は、彼女達のライブで行われるんです。そこで天王寺会社の新人の紹介の場を設けさせてもらって」
は、初耳なんですけどぉぉぉ!?
よく今まで言わないでこれたね、まったく!
というか、今まで知らせなかったいっちゃんもいっちゃんだと思うんだけど!?
「もしかして、新人さん達は収録がまだなのかな?」
「あ、オレがまだ、です」
「そうなんだ~悪いけど、私達からやってもいいかな。スケジュールが立て込んでて、今日しか三人で収録できる日がないの~お願いしていいかな?」
はあ……
これはもう、従うしかないよなあ。
先輩の言うことは絶対、とかいうし。しょうがないか。
そんな感じで考えていたオレと同じように、他の三人も仕方なさそうにその部屋を出た。
「じゃ、先帰っとくな」
「二人とも、気を付けて」
要と朔也の後ろ姿を見ながら、オレは手を振り返す。
レコーディング現場を出た後今日が迅ちゃんの当番だということで、ご飯の材料を買いに行くことになった。
さすがにそんな人だかりに要がいけるわけがなく、朔也が気を使って二人だけ先に帰った。
え? 別にオレが要と一緒でもよかったんじゃないかって?
それはですね、みなさん。色々な事情がありまして……
「近くに安売りの店があるから、そこにいこっか」
「朔也と一緒じゃなくてよかったの? あいつの方が食品系は詳しいぜ?」
「確かにそうかもしれないけど、朔也には荷が重いと思ったから」
「荷が重いって、何が?」
「決まってるでしょ。荷物持ちだよ」
ほ~ら、やっぱり。迅ちゃんがわざわざオレを推薦したからおかしいと思ってたんだよね~。
朔也も同じ男子なんだし、別に何も害はないと思うんだけどなあ。
この扱いの差は何なんだ……
「それに、君に聞きたいことがあったから」
ぽつりと言った迅ちゃんの声に、オレは敏感に反応する。
迅ちゃんはそんなオレの反応をめんどくさそうに見つめ、しぶしぶ口を開いた。
「君が携帯につけてたあれ、いつから持ってるの?」
意外なことを聞かれ、思わず自分の手でガラス製のキーホルダーを触った。
まさか迅ちゃんがこんなものに興味があるなんて。
いつから、か……。あの頃は遊んでばっかりで、どれがいつの話かわかんないんだよな~。
「多分小学中旬。ガラス工房に、三人の家族総出で連れてってもらってからかな」
「その三人っていうのが、幼馴染?」
「そ。ほら、最初迅ちゃんを違う人と間違えちゃったじゃん。その人と、歩美っていうのがいるんだ」
「ふうん」
迅ちゃんから聞いてきたはずなのに、なぜか興味なさそうに顔をしかめる。
彼は頭を抱えるようなしぐさをしたかと思うと、ぶんぶん首を振った。
「どったの、迅ちゃん」
「ちょっと頭痛がして……」
「大丈夫? 買い物、オレがしてこようか」
「君にいかせるとろくなもの買ってこないから、それは却下」
む、なんだと! この野郎!
迅ちゃんに怒りをぶつけようとした、その時だった。
『ブ――――――――――!』
大きなクラクションの音が、その場に響き渡る。
パット音がした方を見ると、こちらの方向にトラックが突っ込んできていた。
これは、かなりまずい展開!
「迅ちゃん、こっち!」
彼を引っ張って、運よくトラックから逃れる。
トラックはガードレールにぶつかり横に転倒したものの、運転手は無事で周囲の人もけが人はいなかった。
「あっぶね~大丈夫だった? 迅ちゃん」
気楽に声をかけたつもりだった。
迅ちゃんは呆然と立ち尽くし、トラックだけをじっと見ている。
どうしたのと声をかけようとしたその時、迅ちゃんは後ろへと倒れてしまって―
「迅ちゃん!!!!!」
必死で支え、彼の名前を何度も呼んでも迅ちゃんは目を開けなかった……
(続く・・・・)
作中にでてくる舞うに楽しむとかいてまゆらちゃんですが
おそらくキラキラネームですよね
私の作品の中でも、唯一この子だけだったりします
あ、でも結構珍しい名前だねと
いわれる子もいたりするので
どこからどこまでがキラキラネームというのか、
基準が最近わからない私です
次回、ついに迅ちゃん秘密解禁です