天然石
デビュー曲レコーディングのため、五人はスタジオへ!
そのあとのことはもう説明できないほどすごかった。
なんといっても一番驚いたのは、ブッキーの歌が想像を上回るような声だったこと。
それはもう、言葉じゃ説明できないほどの美しい歌声だった。
そんなブッキーの歌声に、みんなも魅了されていた。
朔也も負けずと劣らず、きれいな歌を披露する。
力強い歌声で、正確に音をとらえていく。
どこも悪いところはないはずなのに、それを聞いていた大人の人達がもうちょっとこうした方がいいよと意見を言い合う。
これが、歌手になるってことなんだな。
そしていうまでもなく、一番時間がかかったのは要だった。
オレの予想通り、彼はたくさんの人に見られていることにおびえるので精いっぱいって感じだった。
せっかく歌がうまいのに、声が小さくて音が拾えないとクレームが殺到した。
要が必死に頑張っている姿が見られるだけで、何も変化はない。
少し離れたところで見物していたブッキーが部屋を退出したのは、その時だった。
「ちょ、ブッキー! どこ行くの?」
「これ以上は時間の無駄だろ。収録終わったから、帰らせてもらう」
なんて自分勝手な……
やっぱりブッキーとオレ達、仲良くなれないのかなあ……。
「朔也~迅ちゃ~ん、ブッキーの奴ひどくね? 要があんなに頑張ってるのに」
「でも桜瀬君の言うことにも一理あるよ。これじゃ、いつまでかかるかわからないしね」
うう……迅ちゃんまで……
「確かに要はオレ達との仲は縮まったけど、人見知りが完全に治ったわけじゃないからな」
そりゃそうだけどさあ~
「要、いったん休憩しよっか。そこの三人も、リラックスしていいよ」
気を利かせたのか、美鈴さんが言ってそこにいた人達のほとんどが席を外す。
人がいなくなったのを確認しながら、要はしょぼしょぼと戻ってきた。
「お疲れさん、要」
「うん……ごめんね……迷惑、かけて……」
「気にすんなって。大丈夫か?」
朔也が優しく声をかけると、要は困ったように笑った。
彼の手が少しだけ、まだふるえていることに気が付いた。
やっぱり難しいのだろうか。
確かにオレでも緊張することはあるけど、オレのとはくらべものにはならないんだろうな。
あ、緊張するといえば!!!
「要、これ貸してあげるよ」
オレはポケットの中に入ってたあるものを要に差し出す。
要はびっくりしながら手を広げると、オレが渡したものを見て目をぱちぱちさせた。
その渡したものを、迅ちゃんと朔也も覗き込む。
「……何? この薄汚い石は……」
「薄汚い石違う! これは天然石だよ! て・ん・ね・ん・せ・き!!」
オレが言うと、迅ちゃんは怪訝そうに顔をしかめる。
要はぽかんと口を開けたまま、オレを見る。
「小さい頃、偶然拾ったんだ。持ってると幸せなことが起こったりするから、こうやって持ち歩いてるんだ~なんか不思議な力が宿ってるみたいでさ」
「ふうん、君そういうの信じてるんだ」
「拾ったやつなら天然石って言わないよな?」
「文句言わない!」
オレ達が言ってる間も、要は不思議そうに見つめている。
彼はゆっくりオレへ視線を向けた。
「……いいの? そんな大事なものを、借りちゃって」
「ん、全然いいよ☆ もしかしたら緊張がほぐれるかもだし?」
「あ……ありがとう、瑠夏君」
にこりと笑った要の顔は相変わらずよく見えなかったけど、何か吹っ切れたように感じた。
天然石が少しでも役に立てればと思って渡したが、予想以上の効果が発揮された。
休憩前とは打って変わって、要の歌はちゃんと聞こえるようになった。
透き通った、さわやかな歌声だった。
聞いていると、心が洗われていくような……
「彼が持っている石……アクアマリンの一種ですか」
ぬっと声がしたかと思うと、そこにはいつのまにかいっちゃんがいた。
彼女は要が持っている石―つまりはオレがあげた天然石を見ながら珍しそうな声を上げた。
「アクアマリンには恐怖を和らぐ力があるといわれています。あの石を持つことによって、彼の対人恐怖症が和らいだのかもしれませんね」
へ~……ただ道端で拾っただけなんだけどなあ、あの石。
まあ確かに持ってた時は全然緊張しなかったもんな。
文化祭の時とかよく持ってたなあ。懐かしい限り。
というか、この人よくそんなことまで知ってるな。何者なんだ、まったく。
「はい、要いいよ! お疲れさん!」
美鈴さんの掛け声で、要は我に返ったかのように悲鳴を上げる。
彼は力が抜けたかのように、その場にしゃがみ込んだ。
「要~おっ疲れ~! よかったじゃん! 何あのきれいな歌声!」
「いえ……あの……」
「にしても瑠夏があげたその石、すごいな。道端で拾っただけなのに」
朔也が呆れたように言うのを、オレはうんうんとうなずきながら聞く。
しばらくぼうっと石を見ていた要は、はいとオレに渡した。
「……瑠夏君、ありがとう。助かったよ」
「ん? ああ、それもらっていいよ」
「え……でも大切なものなんじゃ……」
「オレより要が持ってた方がいいみたいだしさ。それに、オレにはこいつがあるから大丈夫☆」
そういいながら、携帯についているキーホルダー上のものを揺らしてみせる。
青く輝いた、ガラス製のものだ。
「それは……?」
「小さい頃、幼馴染と一緒にガラス工房に行った時のお土産。本当はネックレスだったんだけど、ひもが切れちゃって」
「俺もその時にいたんだけど、あちこち探しまわってもなくて。結果、携帯のキーホルダーに落ち着いたわけだ」
「へぇ……きれいだね」
このガラスのキーホルダー、もといネックレスを付けている人が後二人いる。
それがオレの幼馴染でもある、迅ちゃんと歩美。
これを付けていれば何年たっても自分だってわかるからと、オレが提案したんだ。
まだ、あの二人はオレの前には現れない。
いったいどこでアイドルをしてるんだろう。
もしかして約束も忘れちゃったのかな?
「……ガラスの……ネックレス?」
すると、今の今まで黙って見つめていた迅ちゃんが何かをつぶやいたのが聞こえた。
彼は一点にオレのキーホルダーを見つめた直後、体がふらりと揺れた。
「おい、迅?! 大丈夫か?」
「あ……ごめん、ちょっとめまいがして……」
「今日はハードだったから、疲れが出たのかもな。もう時間もないし、そろそろ帰るか」
「うん、そうだね……迅君、歩ける?」
「大丈夫。たいしたことないから」
迅ちゃんが少し笑ったのを見て、オレは安心するとともになぜか不思議な気持ちに包まれた。
(続く・・・)
なろうにて小説を読んでくれているリア友に、
「つぶやき面白いね!」と感想を言われました。
内容は? とつっこみたいのは私だけでしょうか‥‥笑
次回、ライバル登場です