ボイスレッスン
「それでは、ボイストレーニングを始めますよ。均等に広がってくださいまし」
眼鏡をかけたきっちりしてそうなおばさん講師が、オレ達に言う。
ダンスの次は、ボイストレーニングかあ。
いよいよあの曲にオレ達の歌が入るんだな~うひょぉ、わくわくしてきた!
「それではまずこの音から順に音を取っていきますよ」
と先生がならした三つの音は、ドとミとソだった。
迅ちゃんが言ってたコードってやつの一種みたいなんだけど、細かいことは忘れたなあ。
でも! ダンスが完璧になったんだ! ここでくじけるわけにはいかない!
「さ、いきますよ! さん、はい」
はあ~っと勢いよく息を吸う。
「ちょっ、やめろ瑠夏!」
朔也がとめる声が聞こえたのは、その時だった。
「ボエ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
オレは歌った。気が済むまで。
久々にこういうことを成し遂げたせいか、達成感さえあった。
ふっふっふ、どうだ! これがオレの実力……
「……あれ?」
目を開けると、そこには倒れこんでいる四人の姿があった。
ピアノの方を見ると、かけていたメガネが割れている先生がいる。
他にも窓が割れていたり、飛んでいたであろう小鳥が屋根の上で気絶している。
「え、何? どったの、みんな」
「どったのじゃないでしょ……! 何してるの、君は……!」
ひえぇぇぇぇぇ! 迅ちゃん、怖い! そんな顔しないで!
「だからやめろって止めたんだ。バカ瑠夏」
あ、やっぱり朔也の声がしてたのか。全然気づかなかった。
「朝倉ぁ……お前、ここをぶっ壊すつもりかぁ……? いい度胸してんな」
うお! こっちは迅ちゃん以上の迫力!
ブッキーって怒るとこんな怖いの!? 恐ろしい子!
「もう君のせいで耳がおかしくなりそうだよ! 要なんて気絶してるからね!」
あ、本当だ。要の頭上に天使が飛んでる。
って、そうじゃなくて!
「これ、オレがやったの!?」
「当たり前でしょ!? 何あの声!」
「何って、ただ歌っただけ……」
「あんな破壊力を持ってめちゃくちゃ下手なやつが歌!?」
迅ちゃんの様子と、ブッキーがむける怒りの視線を見てオレは思った。
ははあ、これはまさしく高校の時と同じことが起こってる……ということはつまり……
「オレもしかして……オンチがまだ治ってないってこと?」
「治ってないどころか健在だ。バリバリ」
あちゃー、またやっちゃった。
「オンチ?」
「んーいや、悪気はないんだけどね。オレ、かなり歌声すごいんだわ」
というのもすべて学生時代の出来事で気づいたこと。
それまでは誰も、何も知らなかった。
小学の時、学習発表会か何かの時の練習で教師や同級生達を失神させた記録を持つ。
それからも器物破損の疑いや、校長先生の命をも危ない目に合わせたという重要危険人物とさえされていた。
それを知った親父から、お前はもう二度と歌うなと口止めされたほどだった。
「す、すごい、ね……瑠夏君……って」
「すごいレベルじゃないでしょ。これ」
「悪いな。説明するのすっかり忘れてた」
「どのみち、やることは一つしかねぇよな」
ブッキーがぎろりとオレをにらむ。
みんなが、オレを一斉に見つめている。
え? 何? オレの顔に何かついてる?
「瑠夏。今から個室で一人、その声をどうにかしてくる特訓して。オンチが治らない限り、君はJOKERとしてやれないから」
う、うっそーーーーーーーん!
(続く!)
音階は知らない、歌は超絶オンチ・・・
瑠夏、お前アイドル向いてないだろと思っているのは、私だけじゃないはず。
次回、オンチ特訓です。