終わりとはじまり
ついに五人のグループ名が決定! その名もJOKER!
はたして、瑠夏の作詞はうまくいく・・・のか?
それからの作曲初日では、あまりいいワードが出てこなかった。
よく兄さんが体験談をしにしてたと言ってたのを思い出し、とりあえず日記的に書いてみる。
最初のワードはこれで決まり、かな。
そだ、それぞれの感想を作詞調に書いてみるとかでもいいかも。
そう思って翌日には、それぞれのところに意見をもらいに行った。
朔也からは、
「何もかもが新しくなって少し混乱した」
要からは、
「こ、怖くて、勇気が、出なくて、ずっと、震えてました……」
迅ちゃんは、
「最初は不安だったけど、君達となら光のステージに立てる気がする。行っとくけど、気がするだからね」
ブッキー……は部屋にいなかったため飛ばした。
三人の言葉をもとに、オレなりに言葉にしてみる。
あとはブッキーだけだなあ。
そういえばあの人、いつも昼いなくて夜に帰ってくるけど何してるんだろ。
あのCD聞いてくれたのかな?
明日はブッキーが当番だったし、いつでも聞けるかな。
そう思って翌日。
最後の仕上げとして。グループ名を詞に入れてみた。
それがまた難しいのなんの!
まずJから始まる単語を見つけるのに一苦労!
単語が見つかったとして、つじつまが合わない始末!
あともうちょっとなのに、どうしてこううまくいかないんだろう。
こんな時、朔也達に助けを求めたら失望されてしまうだろうか。
ここまで頑張っててそれはないだろと、自分を責める。
なんたって、明日が提出日だ。
このままじゃ……!
「こんな時間までよくやってられるな、お前」
はっと気づくと、テーブルに温かいお茶が置いてあるのに気付く。
顔を上げると、台所で片づけをしているブッキーの姿があった。
当番制だけはちゃんと守ってくれるブッキーの当番が今日だったのをその時に思い出し、改めて入れてあるお茶の方を見る。
その隣にはチョコが置いてあった。
「これ、ブッキーが?」
「んなわけねぇだろ、あの三人がやったんだ。ここで食べたら邪魔になるっつって、さっき部屋に戻ってったがな」
朔也、迅ちゃん、要……
「ご飯、食べたのか?」
「そういや食べてないかも……ずっとこうしてたから」
「……三日間、寝ずにやってるだろ。お前」
ブッキーの怪訝そうな目が、痛いほど身に染みる。
何度も襲ってくる眠気を覚ますかのように、チョコをほおばった。
三人のやさしさがこもったチョコは、何倍にもおいしかった。
「グループ名を詞に入れたいんだけど、いいのが思いつかなくってさあ。ブッキー、なんかない?」
「知るか。そこまでやったんなら、自分で考えろ」
「えー、無責任なこと言わないでよ~。ブッキー、何も協力してないじゃん」
「俺に指図すんな。あの曲といい、その詞といいいかにも仲良く作りました感が出ててむかつくんだよ」
あの曲、と言われて飲んでいたお茶を吹きだす。
思わず立ち上がった。
「曲、きいてくれたの!? どうだった!? よかった!?」
「素人にしてはな」
「よかったー、朔也達が頑張ったおかげだね~いやあ、オレ実は何も協力……出来なく、て……」
ふっと視界がぼやける。
まずいと思ったときには、もう遅かった。
ぐらりと世界が反転し、真っ暗へと暗転する。
気が付くとオレは、寝てしまった。
「……か……瑠夏。起きろ」
ゆさゆさ揺られ、オレは重たげに目を開く。
ぼんやりと見える視界の中に、迅ちゃんや朔也の姿が映った。
「朔也……?」
「こんなとこで寝てたら風邪ひくぞ。まったく、無茶ばっかだな」
「もう昼だよ? 三日も寝ずにやるなんて、体に毒すぎ」
二人に言われ、時間を見てみる。
すっかり外も青空が広がっていて、時計も昼の二時を指していた。
ってことは……?
「オレ、もしかして寝てたの!?」
「思いっきしソファに寝転がって」
「え?」
いわれて、体を起こす。
足の方には布団がかけてあり、寝ている場所は以前テレビを見たあの部屋だった。
あれ? オレ、確かブッキーと話してる途中に寝ちゃわなかったっけ?
ていうか、台所の隣のテーブルで作詞してたはず……。
大体布団なんて、かけてな……
「あ、曲は!? オレが作詞してたやつは!?」
「え?」
「オレが三日かけて書いた紙だよ! まだ完成してないんだけど!」
オレが言うと、きょとんとした顔で二人は見つめ返してきた。
「それなら、さっき桜瀬が社長のとこに郵送したって言ってたけど」
「WHAT!?」
「詞が完成してたみたいだから、曲のサンプルと一緒に送ってきたって。あ、これ君が書いた詞のコピー」
迅ちゃんに渡されたのを見て、オレははっとする。
確かに、オレの字だ。
でも明らかに違うことが一つ。
最後のグループ名を詞に入れたところは、オレの字に似せてあるだけで書いたのはオレじゃない。
まさか、ブッキーが?
ソファに運んで、布団をかけてくれて、この詞を完成させてくれたのも?
「ほんと、桜瀬君って勝手だよね。自分は協力してないくせに、僕達が作ったやつを自分の手柄のように送って」
「確かに。ちょっと嫌な感じだな」
「……ブッキーは、そんなに悪い人じゃない気がする……」
オレは、思わずつぶやいていた。
「なんだかんだ言って、少しずつ協力してくれてるよ。ブッキーなりにだけど、そんな気がする」
知ってる、こんな風に不器用に表現する人が他にもいること。
言葉では悪く言ってても、本当とはとても優しい。
そうだ。昔の幼なじみ、歩美に似てるんだ。
なんか、うれしいな。ブッキーは、歩美なんかじゃないのに。
「あ、瑠夏君。起きたんですね」
「要」
「よかった……おか……社長から、中継が」
え? と聞き返した直後、テレビが勝手につく。
するとこの前同様、社長の姿が映し出された。
『ご苦労様、JOKERのみなさん』
この演出の仕方やめてもらえないかな! 心臓に悪いんですけど!?
つうかもうグループ名知ってんのかよ! 情報網すごすぎだろ!
『正直ここまでできるとは思っていませんでした。なかなかの出来で、私も驚きました』
へえ、社長もオレのこと素人としてみてたってことか。ちくしょう。
『曲作り、お疲れ様でした』
お、この空気的に休んでいいですよ的な発言来るんじゃね?
こっちは寝ないで作詞したりしたんだ、休まないとやっていけな……
『早速ですが、今日の三時からダンス・ボイスレッスンをしてもらいます』
WHAT!?
「社長! どういうことですか! 三時って、あと二時間しか……!」
『この曲をデビュー曲として音楽会社への制作を依頼してきました。あなた方はその期間に、ダンスや歌を完璧にしなければなりません』
「ぶっつづけにそれはない思うのですが」
『これは社長命令です。それでは、JOKERの晴れ晴れしい舞台を、楽しみにしています』
「ま、まって、お母さん!」
要のむなしい叫びは届くことなく、テレビは消えてしまう。
オレ達、JOKER五人の試練はまだまだ続くようだ……
(続く!)
今回はぶっきー大活躍ですね
彼だけ蚊帳の外感があるので出番が少なかったりしたので
瑠夏とからますことができてよかったです
次回から第二部と称して、
新キャラ続々登場します