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掌編小説集5 (201話~250話)

犬の力

作者: 蹴沢缶九郎

製薬会社の研究室に勤める田中という男がいた。田中はひょんな事から犬の能力が備わる薬を開発した。


ある時、田中が外出先で仕事の打ち合わせをしていると、先方が困った様子で言った。


「大切な書類が見つからない。どこかへやったかな」


田中は待ってましたと言わんばかり、ポケットから薬が入った小瓶を取り出し、中の薬を一錠飲んで申し出る。


「私がその書類を見つけましょう。ちょっと失礼…」


田中は先方の首筋をクンクンと嗅いで匂いを覚え、さらに床面に鼻を近づけ、先方の匂いがついた書類の場所を辿って行く。そんな田中を先方は怪訝な表情で見守っていた。

しばらく匂いを辿り、公衆電話の前までやってくると、電話の上に置かれた封筒を発見した。


「ありましたよ、これではありませんか」


「おお、そんな所にありましたか。そういえば、先程電話をした時に置いたのだった。ありがとう、本当に助かりました」


先方から見れば、田中の行動はまったくもって奇妙だったが、結果、こうして無事に大切な書類が見つかったのだ。感謝以外にない。

一方田中も、自分の開発した薬が役に立ち、自分の株も上がって気分が良い。もっとも、薬の効果で犬の能力、すなわち人間の百万倍以上とも言われる犬の嗅覚が備わった田中には、書類を見つけ出す事など造作もないのだった。


先方との打ち合わせを終え、意気揚々と車で研究室に戻る田中は、帰りの交差点でトラックとの衝突事故を起こした。大怪我を負ったが、幸い命に別状はなかった。


嗅覚だけでなく、視覚も犬になっていた田中には、赤信号を識別する事が出来なかったらしい。

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