天使先生の告白
少し、思いだしすぎたと思いながら横に立つ天使先生を見る。彼も同じことを思い出したのだろうか。あの時、僕が「あの人」の車に乗ったあの時、天使先生はそれを窓から見ていた。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ目があった。
暫く、僕も天使先生も何も言わずただ立っていた。遠くで授業開始のベルが聞こえた。それでもまだ、僕らは何も言わずただ立っている。ふと、天使先生の口が遠慮がちに言葉を紡いだ。僕は何も言わずに少し頷く。ふっと天使先生が笑った。ふわっとしたその笑みに思わず見惚れる自分がいた。
「やっぱり見られてましたか!」
「……バレバレでしたよ」
「……」
天使先生の口は言葉を紡がない。ただ、遠くを見ているだけだ。沈黙が続くのが嫌で、少し質問してみる。
「どうして、それを見せたくなかったんですか? もう、吸血鬼である事はみんな知っているのに」
「どうしてですか……少し困る質問だなあ」
天使先生は困った様子でははっと笑っている。
「吸血鬼だと知られていても、やっぱり吸血しているところは見られたくなかったんです。実は……僕はね」
今まで聞いた事のないような真面目な音声で天使先生は言葉を紡ぐ。
「さて、問題です! 僕は混血の吸血鬼? それとも純血? どっちでしょーか!」
「折角人がたまには真面目に話すんだなと思って見直しかけたのに何でそうやってふざけるんですか?」
「あはははっ酷いなあ、とりあえずどっちだと思うか答えてよ」
「純血」
「……ブー! 残念! 不正解!」
「は? いや、その髪の毛の色で日本語話してて純血じゃないってどういう事ですか?」
「正解は混血でーす!」
「正解より先にどういう事かさっさと言って下さい」
「そう急かさないでよ」
「急かしますよ」
「そこ本当に慧みたいだと思うよ」
「零時先生と僕、全くもって関係ないでしょ」
「はいはい五月蝿い五月蝿い! もう分かったから五月蝿ーい!」
「あなたが一番五月蝿いですよ?!」
「……僕さ、天使と吸血鬼の混血なんだよね」