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 ルイスとシャル。異なる魅力を持つ男性二人を前に気持ちが高鳴る。そのことを、あいなはまっさらな気持ちで受け止めた。キスするかどうかはさておき、自分のありのままの気持ちに向き合うことで楽になったのはたしかである。


秋葉あきは、ありがとう」

「気が晴れたみたいで良かった」


 秋葉も秋葉で、あいなに恋愛相談をしようと思った。もちろん、龍河りゅうがのいない場所で。


「後で、私もあいなに聞いてほしいことが……」


 言い終わらないうちに、ノックの音が響く。扉の向こうからメイドの声が告げた。


「ご歓談かんだん中、大変申し訳ありません。あいな様はこちらにいらっしゃいますでしょうか?」

「はい、私はここです。何でしょうか?」 


 秋葉に向けて「ごめんね!」と唇を動かし、あいなは扉を開けた。訪ねてきたのは、王族のに入る前まであいなの着替えや彼女の使う客室の清掃を担当した若いメイドだった。


「おはようございます。あいな様、国王様がお呼びでございます」

「国王様が!?」


 シャルの父親からの呼び出し。あいなは困惑した。なぜなら、前にシャルはこう言っていたからだ。


『国王様は多忙で滅多に城にいない。俺達の結婚の報告はすでに済ませてあるが、あいなが国王様に挨拶するのは、後日正式に行われる婚礼パーティーの場でと考えている。国王様もそれに納得している。それまでお前は、客人同様、旅行にでも来た気分でここへ居てくれればいい』


 結婚相手の親に対する挨拶や報告がそんないい加減でいいのだろうかと、その時は疑問に思ったものだが、シャルがそう言うのだから納得するしかなかった。城の事情や王族の規則を知らないあいなはなおさらである。


「すぐにお召し変えの準備をいたしますので、王族のへお越し願います」


 品よく頭を下げるメイドを前に、あいなは違和感を拭えないままうなずく。


「分かりました。すぐ行きます。秋葉、龍河、また後で話そ」


 顔なじみ二人に見送られ、あいなはメイドと連れ立って客室を出た。



 あいな達の気配が無くなったのを確認すると、秋葉は難しい顔で腕組みをした。


「今の、書庫にいたメイドだよね?ルイスさんに告白したって話してた……」

「ですね。あの人、姉ちゃんの世話係してたんですね……」


 あいなの身を案じるように、二人は息をのんだ。


「何も起きなきゃいいけど……」

「未然に防ぐよ。あのメイド、見たところ魔力強化の訓練を受けていない普通の人間だし」


 挑戦的なまなざしで腕を宙にかざし、秋葉は魔法を使うしぐさをしてみせる。


「そういうのも、秋葉さんには分かるんですね。すごいな」


 尊敬のまなざしで秋葉を見つめ、龍河は言った。


「さっきはありがとうございました。姉ちゃんの悩み軽くしてくれて」

「龍河君こそ、ありがとう。私、あの時あいなに何て言ってあげるべきか、すぐには分からなかったから……。龍河君には助けられたよ。でも、言いにくいことばかり言わせたよね」


 秋葉は申し訳なさげにうつむく。この瞬間、龍河は正直になる決心をした。彼を貫いたのは、理屈にまさる感情、ただそれだけだった。


「大丈夫ですよ。姉ちゃんとは普段からあんな感じで言いたいこと言い合ってますし、耳に痛いことは身内が言ってやらないと気付けないでしょうから。


 それに……。姉ちゃんに幸せになってもらいたいってだけじゃなかった。秋葉さんの代わりに汚れ役を引き受けるのは、昔から俺の仕事だと思ってますから。困った時もそうでない時も、頼って下さい」

「……昔の龍河君だね」

「ずっと昔のままでいられたら良かったのに……。ここ数年、秋葉さんに対する自分をごまかしてました」

「え……?」

「俺が頼られたいのは、今も昔もこれからも、秋葉さんだけです」


 秋葉を見つめ、龍河は誓うような心持ちで想いを告げる。


「この先も、秋葉さんだけを守りたいです。


 盗み聞きする気はなかったんですが、さっき、秋葉さんとルイスさんの会話、多分ほとんど聞きました。すみません」

「……そっか。聞かれてたんだ。龍河君、そういうの隠すのうまいよね」


 それまで通り“気楽な幼なじみ”を装ってはいるものの、秋葉は激しく動揺していた。


「龍河君、同情なんていらないよ。はっきり振ってくれていいから。私があいなの親友だからって、気は遣わないでほしいな」

「……気なんて遣ってないですよ。むしろ、変に気を遣ってたのは俺の方でした」

「……」

「今すぐ信じてもらおうなんて思わないけど、昔から秋葉さんは俺の全てでした」


 いつの間にか秋葉を追い抜かしていた身長。龍河は彼女の正面に立ち、照れた表情でうつむいた。


「秋葉さんの気持ち知った今でも、信じられないんです。俺年下だし、ガキっぽく思われてないかーって様子見ばかりしてたから……。でも、昔よりもずっと、秋葉さんを想う気持ちは大きいです」

「ありがとう、龍河君」


 龍河の両手をそっと手に取り、秋葉は悲しげな笑みを浮かべる。


「子供だなんて思わない。ずっと昔から、私にとって頼もしい男の子だと思ってるよ。でも私、自分に自信がないの。中身から愛されるような女なのかどうか、分からない。

 だから、龍河君との恋は、急がずゆっくり進ませたい。これから時間をかけて信じさせて?」

「分かりました。秋葉さんに信じてもらえるまで、努力しながら待ちます」


 今すぐ付き合うわけではないが、距離のある幼なじみの関係を一歩抜け出せた二人であった。


(さっきあいなに言ったのは、自分の経験そくだよ。今まで付き合った人達と重ねた唇は熱くならなかった。誰とキスをしても愛しさを感じなかった。でも、龍河君とのキスはきっと……。)



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