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恋は不運続きで、その記録は更新を止める気配がないけれど、友情には恵まれ充実している。
秋葉に話を聞いてもらったおかげで、あいなの元気度は9割方回復した。
「たっだいまー!」
「姉ちゃん、おかえり。今日はバイト休み?」
「うん!」
学校から帰ると、あいなの弟・神蔵龍河が、リビングであいなを出迎えた。
今年中学三年生になった弟・龍河は、帰宅部ゆえ、電車通学のあいなよりも先に帰宅していることが多い。彼は、スマートフォン片手に、棒状アイスを食べていた。
「春になったとはいえ、アイスなんか食べたら寒くない?」
「アイスは季節問わずおいしいから」
龍河は無類の甘党で、特にアイスが大好物なのである。それが分かっているのに、弟が薄着でアイスを頬張る姿を見るとこちらが寒くなるので、あいなはつい、そんなことを尋ねてしまうのだった。
「これからゲーム?」
「うん。ギルドメンバーの人達、みんなinしてるから」
インしている、とは、ゲーム仲間がゲームサイトにログインしゲームに参加している……という意味である。あいなも、少し前から同じゲームをやっていた。
「じゃあ、私もinしよっと。せっかくバイトが休みで、時間もあるしね」
ソーシャルゲームの話だった。この神蔵姉弟は、二人そろってゲーム好きである(龍河に誘われてあいなが引き込まれる、というパターンがほとんど)。
はじめのうちは面倒に感じたオンラインネットゲームも、龍河と一緒にプレイするうちに、あいなは面白いと思うようになった。
「そういえば姉ちゃん、今朝より元気になったな」
「えっ、そう!?」
「うん。今朝は、この世からゲームが消失した並みに暗い顔してた」
「マジか。っていうか、その例えはおかしくないかい」
ツッコミを入れつつ、あいなは内心ドキッとしていた。今朝の自分は、片想い連続連敗という厳しい実体験を表情に出してしまっていたのだろうか。隠していたつもりだったのに。
「また、男にフラれたの?」
「ゲームばっかしてるクセに、鋭い奴め」
「察しが良くて頭の切れるかっこいい男、と、言ってほしいな」
「私と秋葉の会話いつも聞いてるから、でしょ?っていうか、クラスの女子にそういうこと言うなよー」
「言うかよ。うっかり者の姉ちゃんじゃあるまいし。俺はちゃんと、学校では爽やかイケメンキャラの皮被ってるから」
「はいはい。猫の皮被ってるみたいなノリで言わないのー」
「猫の皮って、女が被るもんだろ?男の俺には不要だ」
「演技派中学生とでも言いたいの?すごいねー」
「棒だな、声音。誉めるんならもっと心込めろよな」
こんな、どうでもいい会話で場をつなげるのは姉弟の特性なのであろうか。昔はそんなこともなかったはずだが、いつの頃からか、二人の会話の大半はこんな感じである。




