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 ――その頃ルイスは、龍河りゅうがのいる客室内の浴場でシャワーを浴びていた。


 昨日は飲酒騒ぎのせいで入浴も出来なかったので、シャワーを済ませ着替えをするには今しかない。龍河はぐっすり眠っているし、シャルとあいなも城のどこかで遊んでいてそばにいない。


 浴室に設置された鏡。そこに映る裸の自分の右肩を見て、ルイスは小さくため息をついた。そこには、昔シャルを魔物の襲撃からかばって負った大きな傷痕きずあとがある。


 その頃まだ魔法を習得しておらず拳銃と剣しか扱えなかったルイスは、シャルをかばおうとして大怪我おおけがをしてしまった。魔物の攻撃を避けきれなかった、そのことを反省し、魔法を覚える気になったのだった。


 燕尾服えんびふくの内側には常に護身用の拳銃を装着しているが、予測のつかない敵を相手にする時は魔法攻撃で対抗する方が確実である。


 シャワーに濡れたまま鏡の中の自分を見つめていると、浴室の扉が開いた。


「……龍河様」

「……ごめんなさい。喉が渇いて……」

「こちらこそ申し訳ありません。すぐに参ります」


 誤って酒を口にしてしまった昨日から失態続きのルイスだった。龍河のそばを離れないためにあえてこの部屋のシャワーを使っていたのだが、裏目に出てしまった。とはいえ、当の龍河はそのことでルイスを責める気などなかったのだが。


 ルイスの右肩にある傷痕に気付き、龍河は何か言いたそうな顔をしていたが、子供心に何かを察したのか、何も言わずベッドに戻っていった。

 ルイスは反射的に傷痕を手のひらで隠し、今度は深いため息をついたのだった。


 すぐに身支度を整え、ルイスは手早く龍河の朝食を用意する。


「ルイスさんは何でもできてすごいね。お姉ちゃんみたい」

「あいな様にはかないませんよ、私も」


 龍河は嬉しそうに言った。


「お姉ちゃんもすごいけど、ルイスさんもすごいよ。頭痛いのも、もう治ったよ」

「そうですか。安心しました」

「ルイスさんは、コックさんとお医者さんになれるね」


 無邪気に笑う龍河を見て、ルイスは心が和んだ。そこに、昨日あいなと交わした言葉や、その時の一瞬一瞬が重なる。


「お医者さんですか。なれるものならなりたいですね。貧しい国に住む人の病も治せるようなお医者さんに」

「なれるといいね!」

「ええ」


 それから少し雑談をし、龍河に薬を飲ませると、ルイスのするべきことは一段落ついた。


「さて、あちらの様子を見に行きましょうか……」


 龍河がベッドの中で寝息をたてはじめたのを確認し部屋を出ると、ルイスは長い通路を歩く。


 その先のロビーのソファーで一人うなだれているブロンドヘアの少年の姿が目についた。彼の持つエメラルドグリーンの瞳には、これまで見たことのないほどの深い悲しみが浮かんでいる。


 ルイスは小走りで彼の元に駆け寄り、


「シャル様、どうされたのです?再び具合が悪くなりましたか?」


 そうではないと分かっていてもこんな尋ね方しかできないのは執事という職業柄仕方ないのであろうか。


「……ああ……。俺はきっと病気なんだ。重症なんだよ」


 半泣きでルイスに抱きつくシャル。ここまで深く落ち込む彼を見たことのないルイスは、戸惑いつつも冷静にシャルの体を離し、周囲を見渡した。近くにあいなの姿はなさそうだ。


「……おおよその事情は把握はあくしましたが、一応尋ねさせてください。どうされたのです?そんなに取り乱すなんてシャル様らしくありませんね」

「……あいなに嫌われた……。せっかく友達になれたのに……。グスンッ」

「……そんなことだろうとは思いましたが……。一体何をしでかしたのですか……」


 あきれつつも、ルイスはシャルの座る隣に腰をおろし話を聞く姿勢を示した。


「かくかくしかじかで……」


 シャルはかいつまんで事情を話した。あいなと友達になれて嬉しかったこと。彼女と話しているとしょっちゅう動悸どうきがして全身が熱くなること。彼女の結婚観が自分のそれと違い過ぎてショックを受けたこと、など……。


「……なるほど……。それで、あいな様と別行動をするほかなくなってしまったのですね……。何と申し上げていいやら……」


 自分があいなに持ちはじめた恋愛感情を脇に置いて考えても、答えに詰まるルイスであった。

(元々不器用な方だとは分かっていましたが、ここまでひどいとは……。恋患こいわずらいとは恐ろしいものですね。)


 ルイスの内心など知るよしもなく、シャルは悩んだ。今後あいなとどう接したらいいのだろう。


「ああっ!俺のバカ!時間巻き戻したいよっ……。何であんなこと言っちゃったんだろ……」

「誠心誠意謝るしかありませんよ。言ってしまったことは今さら取り消せませんから、反省しているということをあいな様にお伝えしないことには……」

「謝って許されるのかな……。あいな、そうとう怒ってたし……」

「あいな様の心証しんしょうを害すると、口にする前に気付けなかったのですか?」

「気付くもなにも、俺自身よく分かんないんだよ。別に言いたくて言ったことじゃないし……。たとえ仲直りできたとしても、あいなを前にしたらまた何かヘンなこと言っちゃいそう俺……。ホント、ビョーキだよな?」

「ええ、病気ですね」

「ルイスっ、何とかしてくれぇっ!」

「医術で何とかなるものではありません」

「そんなぁっ!」



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