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世の中には、恋をテーマにしたたくさんのマニュアル本が広く出回っている。恋愛上手になるためのマニュアル、異性の心を自分の思うがままに操る心理術、等々。
それらの本や雑誌は、若い女性を中心に大ヒットし、類似品が続々と出版されている。
あいなの親友秋葉は、それらを駆使して、歴代彼氏を作ってきたという。
「これは、あいなが幸せな恋をつかむための近道でもあるんだよ」
秋葉は言った。
「マニュアルのおかげで、私、今まで好きになった男は片っぱしから手に入れてきたもん。って言っても、友達の彼氏は対象外だけどね」
「秋葉は美人だし性格もいいし、色っぽいから恋が実るんだよー」
あいなにはあいなの言い分があった。
「たしかに、マニュアルって賢いことがいっぱい書いてあってすごいと思うよ。でも、秋葉がモテて恋愛が上手くいってるのは、秋葉の見た目がおおいに関係してると思う!」
Dカップの胸。モデルのようにスラリとした手足。サラサラのロングヘア。小悪魔っぽくラブリーな顔。明るくて優しい雰囲気の中に、どこかミステリアスなオーラが漂っていて……。
「そんなことないって。いつも言ってるけど、あいなは私のこと誉めすぎ。私だって、好きな人をモノにしても最後にはフラれて終わるってことはあるし、この外見って意外と役に立たないんだよ。こっちが興味ない軽そうな男はうざいくらい寄ってくるのに、本命の男には『近寄りがたい』って敬遠されるしさ」
「そんなセリフ、一度でいいから私も言ってみたいよ~!」
「何でそうなるの!!」
「だって、それだけたくさんの男の子に声かけられるってことは、その中から運命の相手を見つけ出せる可能性があるってことじゃん!万年失恋ガールの私なんかより、チャンスいっぱいじゃんか!」
「んー……。あいなは前向きというか、何て言うか……」
「その外見、ちょうだ~い!」
瞳を潤ませ、あいなは秋葉に抱きつく。陽気に前向き(?)な発言をしてはいるが、今まで一度も恋愛を成就させたことがないというコンプレックスが、彼女の中でパンパンに膨れ上がっていたのだ。
「よしよし。こんなに可愛いのにね、あいなは。男に見る目がないだけだよ。あんまり悪く考えちゃダメ」
「ふえーん!秋葉大好きー!!」
泣き笑いするあいなの頭を撫で、励ます。これが、秋葉流の『片想いに破れた親友をなぐさめる方法』だった。
(私はいつ、あいなの笑顔を見られるんだろうね。恋するたびに泣いてばかりで、可哀想だよ……。)
そんなことを思いながら、秋葉はあいなをハグしたのだった。