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ベッド脇に座っていたルイスは弾かれたようにシャルを振り向き、あいなの頭から手を離す。
「シャル様、体調はもう大丈夫なのですか?」
「ああ、もうヘーキ。寝たら治った。でも、龍河がまだ起きないんだよ」
「これからは食卓の支度は私がしますから」
「やっぱり、俺が出したアレがダメだったんだな。悪かったよ」
「私は何ともありません。しかし、龍河様が心配です。様子を見に行きます」
「あいなは?」
「あいな様は眠っておられますから、そっとしておきましょう」
たどたどしく目をそらすルイスに違和感を覚えつつ、シャルは突っ込まなかった。
「わかった。龍河のとこ行こうぜ」
二人は、あいなが眠る部屋を出て龍河のいる別室へ向かった。
幼い体で飲酒してしまったせいで、龍河の体調は優れなかった。その日は、看病を兼ねてルイスが付き添うことになった。
「龍河様に何かあった時のため、私は1日ここにいます。私も時々そちらに伺おうとは思っていますが状況が状況です。シャル様、あいな様のことをよろしくお願いいたします」
「わかった。任せろ。龍河のことは頼む」
昼、あいなが目を覚ますと、枕元にはシャルがいた。
「シャル、もう平気なの?」
うとうとしながら身を起こし、あいなは昨夜酔いつぶれたシャルを心配した。
「この通り、俺はもう平気だっ」
シャルは両手をブンブン振り回し元気アピールをする。それを見てあいなは朗らかに笑い、
「よかった。龍河もシャルもご飯食べてたら急に倒れこむからビックリしたんだよ?」
「悪いな。あれ、酒だったんだって?調理場にある棚の奥に鍵のついた箱があってさ。なんか特別なモンなのかと思って鍵開けたんだよ」
「その箱の中身がお酒だったんだね。鍵って普通そんな簡単に開かないでしょ?どうやって開けたの?」
「いや?簡単に壊れたぜ?俺、ああいうの壊すの昔から得意でさ」
「それ、場合によっては危険な特技だよね……」
あいなはひきつり笑いをする。シャルはそんなもの気にせず、あいなの手を取った。
「まさか、酒が入ってるなんてな。でも、よかった。あいなは飲まなかったみたいだし」
「うん。お腹すいてると、飲み物は後回しにしちゃうんだよね。ところで、龍河は起きた?大丈夫かなぁ……」
「大丈夫。ルイスがついてるから」
「そっか、ルイスさんが……」
あいなは昨夜ルイスと話したことを思い出した。
「それなら、安心だよね」
「ああ。あいつは少し前から医術も学び始めたらしいからな。将来本格的に医術を学びたいって言ってたくらいだし」
「そうだったんだ」
(ルイスさんって、日本で言えばまだ中学生くらいなのにスゴイなぁ。医術ってことは、将来お医者さんになりたいのかな?もしかして、昔別れた両親のことと医術を学ぶことは関係あるのかな?)
シャルはあいなの手を引き、
「今日も遊ぼうぜ!龍河やルイスの分までさ」
彼女を外へ連れ出し、庭園に出た。エトリアの泉がある場所まで、あいなを案内する。
「すごく広い庭だね!公園みたい!」
「お前達姉弟と初めて会った場所だぞ」
「そうだね。わぁ……。綺麗な水!」
感動し、あいなは石造りの泉の水面を眺める。
「そんなに喜んでくれるなんてな」
「だって、うちの近くの川は濁ってるから。こんなに透明な水って、自然の中でもめったに見られないんだぁ」
「そうなのか?あいなの世界は、水が汚いのか」
「地域にもよるけどね。日本は田舎か沖縄しか水の綺麗なところはないよ」
「日本っていう世界から来たのか。一度行ってみたいな、俺も」
「うん、来れるものなら来てみてよ」
「そうだな……。でも、いいんだ。日本に行けなくても、お前とこうしていられるから」
「そんなに喜んでくれるなんて、ここへ来たかいがあるよ」
あいなが笑うと、シャルの胸は小さな音を立て彼の全身を熱くさせた。
「お前のそういう顔見てると動悸がして全身がほてるんだけど、俺、病気か何かかな?健康優良児だったのに」
将来は好きになった女性と結婚したい。近頃になってそんな思考が表れ始めているものの、今まで恋をしたことのないシャルは、今まさに自分が恋愛感情を抱いているということに気付けないでいた。
しかし、あいなの方は、年上のお兄さん相手に片想いの初恋を経験済みだったので、シャルの抱いている感情が何なのかをはっきり理解することができた。
「それって……」
口にしようとして、あいなはハッとし、押し黙る。
(ここで、「私のこと好きなの?」なんて、訊けるわけないしっ!バカなことは考えないっ。ありえないよ。シャルは夢の世界の住人なんだからっ!……ん?でも、だとしたら、昨日のルイスさんの話は具体的過ぎるよなぁ……。ここは、私と龍河の見てる夢の中、なんだよね??)
一人考え込むあいなにキョトンとした顔を向け、シャルは首をかしげる。
あいなは取ってつけたように、いい加減な返事をしてごまかすことにした。
「う、うんっ。それは病気かもしれないから、ルイスさんに見てもらった方がいいよっ」
「そう思うか?わかった。そうする」
様子の落ち着かないあいなを不思議そうに見ていたシャルも、エトリアの泉を見て物憂げな顔になった。
「……あいなと龍河の住む世界は……。あいなは、将来の結婚相手ってもう決まってんのか?」
「ケッ、コン!?」
初恋経験済みとはいえ、十歳のあいなには結婚など程遠い言葉だし、シャルの言っていることの意味が分からなかった。




