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「何が起きた!?」

「シャル様、危険です、お下がり下さい」


 この当時、シャルはまだ魔法を使えなかった。城の人間達の中で唯一魔法を習得していたルイスは、突然現れ瞬く間に消えた光の正体を敵の侵入だと判断し、シャルを守る体勢を取る。


 しかし、それは敵ではなかった。闖入者ちんにゅうしゃであることは変わらないのだが、見てれも珍しく、この国の人間でないのはたしかだった。シャルもルイスも、呆気あっけにとられる。


 闖入者は二名。少女一人。少年一人。どちらもシャル達より年下なのは明らかであり、少年の方に至っては十代にも満たない幼い子供である。

 これまで、外敵による突然の侵入は時折あったが、こんな無垢むくそうな侵入者はいなかった。


「わあ!ここが夢の世界かぁ!」


 十代いくかいかないかと思われる少女はその幼い顔に満面の笑みを浮かべ元気にはしゃぐ。


「お姉ちゃん、おまじない成功したね!」


 少女の弟なのだろうか。少年は、一緒にいる少女に尊敬のまなざしを向けている。


 なぜこの二人がはしゃいでいるのかは分からないが、見るに、こことは違う場所から空間転移してきたのは明らかだ。前代未聞の出来事。

 ルイスは、動揺しつつも冷静に尋ねる。


「あなた方はいったいどちら様でしょう?どういった方法でいらっしゃったのですか?」


 燕尾えんび服をまとう執事姿のルイスをキラキラ輝く瞳で見上げ、少女は言った。


「私は神蔵かみくらあいな。この子は弟の龍河りゅうがです。おまじないを使ってここに来ました。ここは、夢の世界ですよね?」

「えっと……。夢の世界ではなく、こちらはロールシャイン王国の国王様が管理されているカスティタ城の庭園になります」


 少女あいなの言葉にルイスは困惑し、たどたどしくそう告げるのがやっとだった。


 空間転移の術は、この時代に魔法として存在するしルイスもその術は習得している。突然現れたあいなと龍河でも、魔法を使えばここへの侵入は可能だ。

 しかし、おまじないを使っての空間転移など聞いたことがない。魔法を習った者にとって、おまじないほど不安定で効き目のないすべはないと考えてしまうし、実際、効率が悪いのだ。エセ占い師の予言なみにアテにならない。

 そもそも、この世界で言われるおまじないは太古たいこのものとして捉えられており、現代でそれを使う人間など見たことがない。


(この少女は、一体何者なんです……!?あえてこんな古く成功率0と言われてきた術式を使い、また、それを成功させた所を見ると、この世界の人間ではない可能性が高い。しかも、普段から魔法を使いこなしているようには見えない。素人しろうとですね……。今回のこのまじないも気まぐれか遊びの一環いっかんで偶然やってみただけのことでしょう。とはいえ、魔法の熟練者すらし得なかったまじないを成功させるなど、ただ者ではないですね。)


 動揺のうずにのまれ黙りこくるルイスとは反対に、シャルは太陽のように晴れ晴れとした表情で少女達に近付いた。


「お前達、どういう魔法使ったんだよ!?おまじないって何?『夢の世界』って初めて聞くけど、そんなもんがあんの?俺も連れてってくれよっ!」

「ここが、私達の行きたかった夢の世界だよ。あなたはここの人?」

「ああ、一応この国の王子やってる。視察であちこち見てるから、どんな場所にも行けるぜ」

「すごい!王子様なんだぁ!なんかかっこいいね!」

「そっ、それほどでもねぇって」


 初めて、まっさらな誉め方をされ、シャルは照れた。それに、何者かは分からないが、こんなに心を開いて自分に接してくる人間はこの少女が初めて。シャルの胸は、生まれて初めて感じる高鳴りを覚えた。


「じゃあ、私達にこの世界を案内してくれる?」

「おお!いいぜっ!任せろっ。まずは、城の中でも探険してみるか?」

「うん!探険したい!ありがとう!行こ、龍河っ」


 シャルは乗り気であいなと龍河を城内に連れていく。考え込んでいたルイスもさすがに我に返った。


「シャル様!あなたは今勉強の時間を抜け出している最中なのですよ!?遊んでいては国王様にしかられます!」

「こいつらを野放しにしとく方が問題あるんじゃないの?」

「そうですが、しかしっ」

「大丈夫!ルイスのせいじゃない。俺が勝手にやったことだって言っとけ!」

「それでも私がお叱りを受けるのに変わりはありません!」

「それもそっか。じゃあさ、ルイスも遊んじゃえよ。どっちみち後で怒られるんなら、何もしないより楽しんだ方がいいしっ!」

「どんな理屈ですかそれはっ。わあっ!」


 反対しているそばからシャルに手を引かれ、ルイスはそれ以上止めることが出来なくなってしまう。


「あなたは自由ですね」

「何言ってんだ。俺が不自由だってこと、お前が一番よく分かってるクセに」

「……そうでしたね」


 目を合わせ、どちらかともなく笑う。シャルとルイスは、謎の少年少女と共に、よく知るカスティタ城を駆け回ったのであった。



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