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「ふふふ」
笑みをこぼしつつ、こんな状況の中で笑える自分。あいなは少しホッとしていた。
(ここへ来た時は『お先真っ暗』だと思ったけど、ルイスさんはいい人っぽいし、安心していいかもしれない。それに……。)
ルイスは言っていた。近々、この城に龍河と秋葉がやってくると。
どういう意味なのか全く分からないし、ルイスもシャルにはこのことを話していないみたいなので、手放しで喜んでいいものか分からないが、それでも、あいなにとって、龍河や秋葉と会えるのはこの上なく楽しみなことだった。
(龍河は弟だけど私よりしっかりしてるから、きっと無事だよね。ルイスさんに私の荷物預けるくらいだし。)
抱えた紙袋の重みに、あいなはジンと胸が熱くなる。龍河がルイスに渡したものだ。中には、あいな好みの恋愛系少女漫画やゲームが入っている。
(みんな、私の好きなものばかり。……大きくなって昔よりナマイキになったなーと思ってたけど、やっぱり龍河は優しい子だ……。)
少し気になるのは、両親や学校のこと。そして、秋葉のことだ。みんな、自分がいなくなって心配しているに違いない。
ルイスとの会話で、龍河の無事は分かった。しかし、秋葉のことは何一つ聞けていない。
(もしかして、秋葉や龍河も、私と同じように無理矢理この城に連れてこられるってこと!?ルイスさんは魔法使いだし、充分ありうる話だ。私にしたみたいに、秋葉や龍河にも眠りの魔法を使うつもりだったりして!!)
焦る思いで、あいなは部屋の内線を使った。執事達に直につながる通信手段。見た目は、日本の家庭用電話機と似ていたので、さほど抵抗なく使うことができた。
『はい。あいな様。どうされましたか?』
幸い、内線にはルイスが出た。
「あの!ちょっと確かめたいことがあるんですけどっ」
『ずいぶん慌てておられますね。私にお答えできることであればいいのですが……』
「ルイスさんにしか訊けないことです!
さっき、ルイスさん言ってましたよね。秋葉と龍河がこの城に来るって。それって、ルイスさんがシャルに内緒であの二人を連れてくるってことですか?」
『いえ、私の力でお連れするのではございません。シャル様の指示以外で魔法を使えば、どのような罰を受けるか分かりませんのでね』
あいなの気持ちを察し、ルイスは穏やかに告げる。
『あいな様が悲しむようなことは極力避けたいと思っております。龍河様と秋葉様はご無事でいらっしゃいますよ。近い日に、あいな様はそれを知ることになりましょう』
「ルイスさん……」
ルイスの優しさに安心感を覚える一方、あいなの疑問も同時に膨らむ。
「あなたはシャルの専属執事なんですよね?アイツの言うことは何でも聞くんですよね?なのにどうして、私にそこまでしてくれるんですか?
秋葉達が来てくれるのは嬉しいけど、シャルに内緒ってことは、そのことをシャルが知ったらルイスさんは怒られるんじゃないですか?」
ずっと、引っ掛かっていたこと。シャルの専属執事を名乗るわりに、ルイスはあいなの話をよく聞いて、親切に対応してくれる。あいなはそれを不思議に思っていた。




