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「あいな様にはかないませんね」
扉の手前で立ち止まり、ルイスはフワリと口元を緩めた。その頬は、やや赤い。
「だって、お城でもたくさんの出会いがありますよね、メイドさんとか、外国のお姫様とかっ!」
「ええ、出会いはありますね。日々、何人かの方と接していますから」
「ですよね。もし良かったら、私、協力しますよっ」
後先考えないあいなだった。
ルイスはそれには明確な答えを示さず、普段通りの丁寧な口調で別の話をしはじめた。
「寂しいお気持ちを感じる時間は、もうすぐ終わりにできるかと思いますよ」
「え?どういうことですか?」
「近々、龍河様と一ノ瀬様がこちらにいらっしゃると思われます。あ、このこと、シャル様には秘密ですよ」
「龍河と秋葉が!?」
「その時は、シャル様にプロポーズを受けた瞬間より、ある意味驚くこととなるかもしれませんね、あいな様」
「ちょっ、どういうことですか?シャルも知らないことなんですか?」
訊きたいことが多すぎる。あいなは、何から理解していいのか分からず、その場その場で口を挟むことしかできなかった。
弟や親友と再会できるのは嬉しいし、願ってもいない事態だが、そこに行き着くまでの経緯を知らされないままなのは引っかかる。
しかし、あいなが尋ねても、ルイスはそれについて何も答えなかった。
「詳しいことは、その時わかりますよ」
「ルイスさん……?」
「シャル様に対しご不満が解消されないようでしたら、私がシャル様に代わり、あいな様のお相手になって差し上げましょうか?」
「ほぇっ?」
それまでと違うルイスの真剣な表情に、あいなはドキリとし、固まってしまう。執事ではなく、今の彼の顔つきは男性のそれだった。
異性からそんなまなざしで見つめられたことのないあいなが言葉を失ってしまうのは仕方がない。
「――なんて、冗談が過ぎました。さきほどからかいを受けたお返しですよ。それでは」
「――なーんだ!冗談ですよね、わかってますよっ」
ルイスの気配が扉の向こうへ遠くなるのを確認し、あいなは声をあげて笑った。
「ルイスさんも、真面目そうな雰囲気のクセに言うねー!次はもっとからかっちゃおうかな。面白そうだし!あ、でも、やりすぎはほどほどにしとこ。ルイスさんて、親切だけど何考えてるのかイマイチつかめないとこあるしなー……」




