‐
自分の趣味が詰まった紙袋をルイスから受け取り、あいなは懐かしげに笑う。
「ウチ、お父さんが長年勤めてた会社をリストラされて以来貧乏で、お母さんもパートで働いてますけどおこづかいとかはもらえないから私自分でおこづかい稼いでて、弟の龍河も欲しいものとかけっこう我慢して無料で遊べるスマホゲームばっかやってるんです。ホント、どうしようもないくらいお金がないけど、お父さんとお母さんはお互いに支え合ってて仲がいいし、弟ともよく語り合ったりしてるんです。自慢の家族です」
「そうでしたか」
「すいません、よく分かんないですよね、こんな話されても……。ルイスさんにウチのこと良く言ってもらえたのが嬉しくて、つい」
「大丈夫ですよ」
「昨日からずっと誰ともしゃべってないせいか、長話しちゃいました。さっきから独り言も多くなって。恥ずかしいです」
出会った時はピリピリしていたのに、お茶や食事の時に何度か顔を合わせていたせいか、ルイスに対して、あいなは警戒心や不快感を薄れさせていた。
ルイスの方は、出会いの瞬間と何ら変わらず穏やかで冷静な態度を貫いていたが、あいなに接する時の彼は、日頃より柔らかい表情になっている。
「さぞ、賑やかなご家庭だったのでしょうね。やはり寂しいものですか?こうしてご家族と離れて暮らすのは」
「はい。急な話でしたし、やっぱり、ちょっと……」
あいなの瞳は、涙のせいでかすかに潤む。大切な家族と離れて、突然ひとりの空間に閉じ込められるのは寂しい。こうしてルイスに色々話しかけてしまうのも、普段弟と気楽な冗談を言い合っていたせいだ。
しかし、ここで大人しくシャルの言いなりになるつもりはない。
「泣くなんて、私らしくないっ」
弱音を瞬時に吹き飛ばし、あいなは強気な目付きで言った。
「私、絶対シャルに嫌われてみせるし、そうして他の恋を探しますからねっ!」
「あいな様は、これまでも積極的に恋をされてきたのですか?」
「うん、色々とねっ!」
じゃっかん、声が裏返ってしまう。誇れる恋愛などしたことがないけれど、片想い惨敗の事実など人にはとても言えないので、見栄を張るべく、誇らしげな表情を浮かべて見せた。
「シャル様にお仕えする者としても、興味がありますね。あいな様は、これまでどのような恋を?差し支えなければ……」
「ルッ、ルイスさんこそ、恋とかしないんですかっ?彼女の一人や二人、いそうに見えますがっ」
苦しいかも、と思いつつ、あいなは質問返しでピンチをのりきった。とてもじゃないが、失恋の経験などもう思い出したくもないのだ。
内心汗だくのあいなに気付いてか気付かずか、ルイスは丁寧に受け答えをする。
「…………いえ。私は、恋に時間を割けるような立場にありませんので」
「今、間がありましたよっ!!」
相手が自分にとって不利益をもたらす人物だということも忘れ、あいなは目を輝かせた。
ルイスが相手でもかまわない。恋の話がしたくてしたくて仕方がないのである。恋愛体質なあいならしい反応だった。
ルイスは、その端正な顔にやや戸惑いを浮かべ、
「少し考え事をしていたものですから……」
「ホントですか!?この質問、このタイミングの『間』って、アヤシーですっ!本当はいるんじゃないですか?ス・キ・ナ・ヒ・ト!」
浮かれ口調のあいなに、さすがのルイスもたじたじである。まっすぐ見つめていた目をあいなからそらし、
「私は、執務室に用事がありますので……」
「そうやって逃げるの、好きな人がいるって言っちゃってるのと同じですよっ!」
調子に乗り、あいなはつっこむ。
たとえ不本意な出会いだとしても、自分の気持ち次第で楽しく付き合えるかもしれないと、あいなはこの時思った。




