3 恋の伏兵
龍河の想像通り、あいなは城での生活に退屈し、発狂する一歩手前の状態になっていた。
「マンガ読みたい。お菓子食べたい。ブルーレイ見たい。アニメ鑑賞したい。秋葉に会いたいよー。
あーもーつまんないっ。って言っても、ここに来てまだ1日しか経ってないんだけどね……。もう、1年は経った気分だよ」
ルイスに指示されるがまま、部屋の中でお茶を飲んだり食事をするだけの生活。何も集中できるものがないから、時間がちっとも進まない。
シャルも仕事で忙しいらしく、壺の件以来、顔を見せにこない。本当に彼が自分の婚約者だなんて信じられないと、あいなは思った。
「はぁ……。部屋の外にも出してもらえないなんて、ツイてないなー。まあ、そうなったらそうなった時で、ちゃんと脱走するけどさ」
せめて、城の中をぶらつかせてくれてもいいのに、まだ、その許可は出ない。
ついてもついても、尽きないため息。
肌触りのいいベッドに寝そべり、ハッとした。
「!秋葉と買い物行く約束してたんだった!っやばい!秋葉、心配してるよね!?連絡しなきゃ!スマホ!」
あわてて身の回りのものを探ったが、スマートフォンはおろか、通学に使っているスクールバッグすら、部屋にはなかった。
「あ、そっか……。ここで目覚めた時には、なかったっけ……。多分、家に置いてきちゃったんだな……」
「失礼します、あいな様」
「ルイスさんっ……!」
すぐさま身を起こし、あいなは窓の外を見ているフリをする。
「あいな様のお荷物をお持ちいたしました。お返しするのが遅れて、申し訳ありません」
「それ、私のスクバ!」
体に馴染んだスクールバッグをルイスの手から受け取り、あいなは勢いよくその中身を確かめた。
「あった!スマホ!」
まるで子猫にそうするかのように、あいなは両手でスマホを包みそれを頬擦りした。
その様子を微笑ましげに見つめ、ルイスは別に持っていた紙袋を彼女に差し出す。紙袋には、あいながマンガを買う時によく立ち寄る書店の名前が印刷されている。
「どうして、これを!?ここ、異世界ですよね……」
「そちらは、龍河様よりお預かりした物になります」
「龍河に会ったんですか?」
「ご挨拶をさせていただくため、昨日、私が神蔵邸に」
「『邸』なんて付けられるほど立派な家じゃないし、やめてくださいよ。貧乏なのが分かる家だと思いませんでした?」
「温か味の伝わってくるお住まいでした」
「……お世辞でも嬉しいです」




