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「姉ちゃん、入るよー」
突撃したいのを我慢しながら一応ノックをし、龍河はあいなの部屋に入った。
あいな本人もいないし、彼女が学校から帰った形跡もない。
「すいません、姉ちゃん帰ってないみたいです。もしかしたら、家には帰らず、直接秋葉さんのところに向かったのかもしれません」
『そうだね、どっか寄り道とかしてるのかも。もうちょっと待ってみるよ』
さっきよりも少し明るい声で、秋葉は言った。
『ありがとう、龍河君』
「いえ……。それじゃあ……」
『うん、バイバイ。またね』
バイバイ、またね。これは、友達の弟に対する挨拶であり礼儀であると知っている。わかっていても、龍河は、秋葉からかけられるその言葉を嬉しく思ってしまうのだった。
(秋葉さん相手にすると緊張してくだけた言動取れないけど、電話だと顔見なくて済む分、直接会うよりは落ち着いてしゃべれるな。)
通話終了ボタンを押し、大きく息を吐く。
幼なじみで、姉の親友。とはいえ、龍河は秋葉に対してリラックスできずにいる。
(姉ちゃんは鈍感だからなー。俺の気持ちなんて全く気付いてないし。まあ、それを言うなら秋葉さんも同じだけど……。)
彼も、十五歳男性として、人知れず片想いをしているのであった。
(だからって、俺は姉ちゃんみたいにガツガツアピールする勇気はないけどね。)
日頃、冗談めかしてあいなをからかってばかりいるが、実のところ、龍河はあいなのたくましさや積極的な性格を尊敬もしていた。
(調子に乗りそうだから、絶対本人には言わねーけど。)
自分は、あいなのように片想い相手に近付くようなマネはできない。フラれて傷つくのがこわいのだ。
(相手は、ハイスペックモテ度ナンバーワンの秋葉さんだしな……。俺なんて眼中にもないだろうし。ま、別に、それでいいんだ。姉ちゃんの弟として仲良くできれば、それで……。)




