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ひどく残酷な言葉

作者: 神崎 今宵



「本当に可愛いんだ、あいつ」




そう語るのは、私の好きな人。

表情をくるくる変えながら、彼は自分の好きな人のことを私に語る。私は適当に彼の言葉に相槌を打つ。

本当は聞くのだって嫌な彼の惚気。

しかし、彼が私だけに相談してくるという優越感と、彼と一緒にいたいという乙女心のためだけに、私は彼の話を聞く。

彼の言葉を聞くたびに、私は傷ついているが、もうそんなことは慣れてしまった。




「あー俺、あいつと付き合えて嬉しいわぁ」


「そう・・・よかったね」


「お前さーちゃんと聴いてるわけ?」




そう言って、彼は私が読んでいた本を取り上げた。

・・・君と一緒に話すのは嬉しい。けれども、素面で私は君の恋バナが聞けるほど強くない。

だからちょっと違うことに意識を傾けることくらい許して欲しいわけで。



「あのさ、本返してくれる?」


「だめーお前がちゃんと俺の話を聞いてくれるまでは返さない!」




そう言われ、私は深い溜息をつく。

この厄介な乙女心のせいで、私は一体何回傷つかなければならいのだ。




「わかったよ、ちゃんと聞くから」


「よろしい!あ、そういえば次初デートするんだけどさぁ」



彼はそう言って、彼が考えたであろうデートプランを楽しそうに話す。

私は目を閉じて、彼とデートする相手を自分に置き換えて聞いてみる。きっと楽しいのだろう、一生懸命考えられているデートプランが私のために作られたわけではないと思い出し、再び胸がいたんだ。




「で、どう思う?!」


「いいんじゃない。あ、そうそう、ちゃんと彼女家まで送ってあげなさいよ?」


「はっ・・・そうだな!つ、ついでに手とか握れたらいいなぁ」


「本当に草食系だね」


「うっせ!好きな人と二人きりだぞ?!緊張するに決まってるだろ!」




そうだね、好きな人と二人きりって緊張するね。

気がついてくれないかな、君の目の前にいる私の胸も、さっきから高鳴ったり傷ついてるってこと。

・・・私も、君と手をつなぎたいなぁ。

そう思って、彼の手を見るけど、多分彼は私の視線の意味に気がつかない。




「そうだね、好きな人と一緒だと緊張するね」


「だろ?」



彼が笑顔を見せる。

私の胸がたかなると同時に、その笑顔を彼女にも見せていると思うと、嫉妬にも似たような感情で胸が痛む。

彼の携帯がなり、彼はそれを見て花が咲いたような笑顔を見せた。・・・多分彼女からのメールだろう。



「彼女から?」


「そ!じゃあ、俺帰るな!」




そう言って彼は私から取り上げた本を私に返し、カバンをもって教室の外へと出ようとする。

私は返してもらった本を鞄の中にしまおうとしたら、彼が振り返った。




「俺、本当にお前と友達でよかったわ!じゃあまた明日な!」




そう言って、彼は駆けていった。

彼が愛する、彼女のもとに。






(ああ、その言葉はなんて残酷なんだろう)





友達でよかった。

そんな言葉を聞いて、私は目を閉じる。

本当は君に愛して欲しい。君の笑顔を私だけのものにしたい。私にだけ、その恋に悩む可愛らしい姿を見せて欲しい。

なんて、かなわないのだろう。

彼女はきっと、私の知らない彼の姿を見ている。そう思うと、私はひどい劣等感と、嫉妬を覚える。





そんなことがあった、夜のことだろうか。彼が私の家を訪ねてきたのは。

私と彼の家は隣同士で、私と彼はいわゆる幼馴染という関係だ。だからこそ彼が家を訪ねてくるというのは、対して珍しいことじゃなかった。




「・・・どうしたの?」




私がそう尋ねると、彼はうつろな目で私を見る。そしてその目から、大粒の涙を流し私に抱きついてきた。

私は急なことに驚いた。胸が必要以上にうるさい。顔が熱い。

しばらく混乱していたが、冷静になったとき、なぜ彼が泣いているのか気になった。まだ困惑を隠せない声で、私は彼の肩を叩く。




「どうしたの?」




さっきより、優しい声で聞く。

彼は、ゆっくりと、私から離れた。

少しだけ残るぬくもりを残念に思ってしまったのは、内緒だ。




「・・・あいつが、別れてくれって、」


「え?」


「なんで、って聞いても、教えてくれなくて・・・」





彼は嗚咽混じりになりながら、そう告げた。

そしてそのまま、自分がどれほど彼女のことを好きか、別れたくないかを、君のことが好きな私に語るのだ。

本当に、彼はひどく残酷な言葉を私の前で言う。

一通り言い終わると、彼はその場に座り込んでしまった。




「なんでだよ・・・俺、別れたくないのに・・・」




そう言う彼を、私は思わず抱きしめてしまった。

一瞬自分が何をしているのかわからなかった。多分、彼もわからなかったのだろう。抱きしめてる体がこわばっているのを、私は見ないふりをした。





そして、今までの仕返しと言わんばかりに、私は彼にひどい言葉を囁いた。




「――私にしなよ」


「え・・・」


「私だったら君を泣かせたりしない・・・君のことが、好きなんだ」




そう言って、彼の顔を見たくないから、私は抱きしめる力を強めた。

そして、私は彼の言葉を聞かないうちに、彼から離れ、そのまま自分の部屋へと閉じこもった。






答えなんて、わかりきってるものを、私は聞きたくなかった。






(伝えるつもりなんてなかったのに、君が残酷なことばかりいうから悪いんだ)

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