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雪春と一花

「え?三島先生、生徒会の顧問になったんですか?」

 一花がマグカップを持つ手を止めて言った。

 五月の事件以来、彼女はこうしてよく音楽準備室に来るようになった。他愛もない話をしては、「別に先生に会いにきてる訳じゃないんですからね!」と言って去っていく。そう言いつつ三日とあけずに来るのだから、きっと本心ではないのだろう。現在手に持っているマグカップも、いつの間にか一花専用になっていた。

 雪春もマグカップを手にとって答える。

「はい。成り行きですが。」

 その言葉に一花はふうん、と答えてから、考えを巡らせるように空中を見た。

「たしかにあの生徒会長ならやりかねないですね。」

 生徒会長の評判は一年生にまで伝わっているのか。事件以降は特に親しく付き合っているわけでもなさそうだったので、クラスメイトにでも聞いたのだろう。

 しかし一花は少し予想外なことを言った。

「だってなんだか、先生に対して妙に強引じゃないですか?」

「あの子は誰に対しても強引です。それに、反応を面白がっているだけでしょう。」

「・・・三島先生って鈍いんですか?」

 失礼な。

 一花のうろんな視線に内心ため息をつく。

 雪春だって、夏目が自分のことを他の教師よりは特別に思っているということは、この二ヶ月で流石にわかった。しかし、それがどういう種類の思いなのかは知る必要はないし、知っていはいけないと思っている。仮に知ってしまったところで、どうこうなるつもりはないが。

「そういえば、一花さんのクラスは文化祭何をするんですか?」

 強引な話題変換に少し納得がいかないようだったが、一花は素直に答えた。

「うちのクラスは喫茶店です!不思議の国のアリスのティーパーティーをテーマにしたんですよ。」

「へぇ、おもしろそうですね。」

「はい!なので先生もぜひ遊びに・・・」

 そこまで言いかけて、一花ははっと顔を赤らめた。

「べ、別に遊びに来てほしいわけじゃないですからね!まぁいらっしゃるなら少しぐらいサービスしてあげてもかまいませんけど!」

 一息で言い直した。

 最近、この言動はわざとやっているのではないかと思い始めている。夏目と違って害はないし、微笑ましいから何も言わないが。

 じゃあ伺いますね、と言うと嬉しそうに笑った。

「あ、それからミスコンに出ることになったんです。」

「ミスコン?」

「はい。推薦された女子生徒の中から、来場者と来賓の先生の投票で一位を競い合うんです。」

 聞いたことはある行事だが、まさか二葉亭学園でも行われているとは思わなかった。どうやら優勝した女子生徒は「ミス二葉亭」と呼ばれ、高校の紹介パンフレットのモデルなどに起用されるらしい。

 一花は少し憂鬱そうにため息をついた。

「クラスメイトの子達が勝手に決めてしまって。・・・ちょっと面倒くさいです。」

 一花は道を歩いていたら10人中9人は振り返るであろう美少女だ。しかも残り一人はコンタクトを落としたに違いないと言える程の。クラスから推薦されるのも当然だろう。

 そう考える自分に、幸太郎のシスコンが伝染ったかもと内心苦笑した。

「それは楽しみですね。頑張ってください。一花さんならきっと大丈夫です。」

「そ、そうですか・・・?」

「はい。」

 雪春の口元を上げただけの精一杯の笑顔に本心を感じ取れたのか、一花は安心したように微笑んだ。

「お兄ちゃんも、喜んでくれるかな。」

「・・・・・はい。絶対。」

 止まりかけた息を誤魔化すように、声をしぼりだす。

 幸い気づかれなかったようで、彼女はコーヒーを飲み終えると機嫌よく帰っていった。

 閉じられた扉を眺める。するとそれまで黙っていた幸太郎が感心したように言った。

「一花がミスコンかー。すごいなー。さすが俺の妹だな!」

「・・・・・あの。」

「ん?」

 小首をかしげてこちらを見る。

 雪春はこのところずっと喉元に引っかかっていた言葉を出そうか迷った。


“一花さんに本当のことを言わなくていいんですか?”


 幸太郎は雪春の葛藤をわかったかのように、にかっと笑って雪春の頭を撫でた。

「気にすんなって。言わない方が一花のためだってのは俺もわかってるから。」

 一花が攫われた時、幸太郎が成仏していないことを言わなかった判断は間違っていなかったと思う。

 しかしそれは、あの事件が解決すれば幸太郎は成仏すると考えていたからだ。

 一花が危険な目にあったから助けに来たという事実は、前に進もうとしている一花の足を止めてしまうのではないかと。

(でも・・・)

 幸太郎は成仏できなかった。原因がわからない以上、幸太郎のことを考えるなら妹である一花に相談した方が何か解決策が見つかるかもしれない。

 一度は幸太郎の存在を信じた彼女だ。誠意を持って話せば、以前のように馬鹿にされたとは考えないだろう。

 それでも―・・・

「そう・・・ですね。」

 すっかりぬるくなってしまったコーヒーに目をおとす。

 

 そうしない原因から、雪春は目をそらしていた。



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