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生徒会執行部

 本気で賢仁の胃の心配をし始めた時、生徒会室の扉が開いた。

「あらー!その人がユキちゃん先生!?」

 不可解な言葉とともに訪れた後ろからの突然の衝撃に、喉から息が漏れる。抱きついてきた人物は全く意に介さずに雪春の頭を撫で回した。

「ずっと気になってたのよー!顧問はいらないって突っぱねてたあの綜ちゃんが選んだ人だものね!」

「く、くるし・・・」

 上から押しつぶされるように頭をこねくり回されて、首が悲鳴を上げている。

 一体何者だ。口調は女性のようだが、雪春に回された腕はしっかりしているのを考えると、男性だろうか。いくら雪春が小柄といえど、ここまですっぽり抱え込むとなるとよほど身長が高くないと無理だ。

 雪春が手放しそうになる意識の端を必死で捉えながら考えていると、夏目が見かねて声をかけた。

「朔太郎、離せ。」

「はーい。」

 未練もなくぱっと解放される。雪春はくらくらする頭を抑えて息を吸い込んだ。横で心配そうに見ている幸太郎に手を上げて答えてから、やっと後ろの人物を視界に捉えた。

 やはり男子生徒だ。それにしても背が高い。幸太郎よりも高いのではないだろうか。体はしっかりしているが、全体的な印象はゴツくはない。むしろすらっとしていてモデルのようだった。後ろで縛った少し長めの髪も鬱陶しさは感じさせない。

「彼は二年の荻野朔太郎おぎのさくたろうです。会計をしています。」

「よろしくねー!」

 朔太郎は賢仁の紹介に手を上げて応じてから、もう一度雪春の顔を覗き込んだ。

「うんうんかわいいわー!ちょっと無表情で化粧っけないけど気に入った!」

「は、はぁ。」

 本来なら教師として怒るところなのかもしれないが、あまりのテンションの高さと勢いに言葉が出なかった。これがいわゆるおネエというものなのだろうか。テレビでしか見たことがなかったが、思っていたより言葉遣いに違和感はない。

「ったく、相変わらず気持ちわりぃなオメーは。」

 すると扉からまた生徒が二人入ってきた。

 一人は短髪をワックスで逆立てた目つきの悪い少年と、もう一人は色素の薄い髪を目を覆うぐらいまで伸ばした少年だった。

「男だったらもっとフツーに話せねーのかよ。」

「いいじゃないのー。わたしの勝手でしょ!」

 目つきの悪い少年の揶揄に朔太郎は頬をふくらませて答える。180cmを超える体格なのに妙に似合っているから不思議だ。

「彼は一年の志摩龍之介しまりゅうのすけです。一年の書記をしてます。」

「どーも。」

 賢仁の紹介に龍之介がぶっきらぼうに応じる。

「そして彼が芥辺亮太あくたべりょうた。一年書記です。」

「・・・・・。」

 亮太は無言でペコリと頭を下げた。

 なるほど。今日ここへ呼んだのは生徒会メンバーを紹介するためでもあったのか。

 雪春も三人に習って挨拶をした。

「三島雪春です。文化祭が終わるま「僕の任期が終わるまで」・・・・・よろしくお願いします。」

 間に挟まれた言葉はスルーして無理やり続けた。

「なんだか濃いメンバーだな。」

 幸太郎が後ろで呟く。

 たしかに、会長がこれなら集まるメンバーもなんだか一癖も二癖もありそうといった感じだ。これではますます賢仁のストレスが心配される。跡がついてしまっている眉間の皺が彼の苦労を物語っていた。

 するともう話は終わったとばかりに、龍之介が持っていた紙を夏目の前に掲げた。

「それより会長!文化祭の準備、何で俺がこんなカマ野郎と組まなきゃいけないんスか!」

 どうやら文化祭についての資料のようだ。

 しかし龍之介の怒りに対して、夏目も朔太郎もさらりと対応する。

「何か問題でもあるのか?」

「いいじゃなーい。一緒に頑張りましょーよー。」

「ぜってぇ嫌だ!お前とだけは死んでもごめんだ!」

「どうしてよ。つれないわね。」

 喧嘩しているというよりも、龍之介が一方的に突っかかっているようだ。朔太郎は特に傷ついた風も見せずにあしらっている。それが気に食わなくて更に龍之介が噛み付くという感じだった。

 夏目はしばらく静かに二人のやりとりを見ていたが、やがて軽くため息をついて龍之介を見据えた。

「龍之介・・・僕の言うことが聞けないのか?」

 瞬間固まる生徒会室の空気。それは夏目と行動を共にするとよく見られる光景だった。

 龍之介も例に漏れず顔を青くしていたが、果敢にも夏目に言い返した。

「い、いくら会長でも、こいつとはぜっっってー嫌っスから!」

 しかし勇気もそこまでだったようで、そのまま生徒会室を飛び出していった。勢いよく開け放たれた扉が虚しく音を立てる。

 賢仁が本日何回目になるかわからないため息を吐いた。

「気にしないでください。いつものことです。」

「・・・はぁ。」

 これで大丈夫なのだろうか。


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