幸太郎の信頼
宝も残すところ一個。しかしこれが一番の難関だった。
第六問“赤い司祭もいるところ”。
とりあえず二人は校内で赤いものを探していたが、それらしいものは全く見つからなかった。一通り回って本棟に戻ると、朔太郎は廊下の窓からうなだれるように上半身をのせた。
「ぜんぜんわからないわね・・・」
赤い司祭とはカードの裏に毎回かかれている言葉だ。ということは犯人がいるところという意味なのだろうか。
「第一“も”ってなによ。ほかにもいるのかしら。」
朔太郎がメモを見ながらため息をつく。
「これは探しきれないかもね・・・。ほかの人もわからないみたいだし。」
既にタイムリミットの17時まで、一時間を切っていた。
宝探しの参加者たちには一様に諦めムードが漂っている。もしこのまま見つからなかったら後日教員総出で探すことになるのだろう。そうなると夏目が懸念していた通り、犯人が逆上して残り一個の道具を壊してしまうのだろうか。
そして朔太郎と龍之介の二人も、決着がつくことなく終わってしまうのだろうか。
「あの、三島先生・・・。」
その時おどおどした声で呼ばれて振り向くと、そこには見たことのある少女が立っていた。たしか演劇部員だったはずだ。目が合うと、彼女はびくりとしてそらした。両手は握りしめたまま落ち着かないように親指をこすりあわせている。
「泥棒のことなんですけど。」
「どうかしたのか?」
小首を傾げる幸太郎に、少女はしばらく迷った末、ばっと頭を下げた。
「すみません!私のせいなんです!」
朔太郎と顔を見合わせる。
少女はそのままの姿勢で続けた。
「実は、演劇部の発表に使う道具類を運んだとき、部室が埃っぽかったので換気しようと窓を開けたんです。本当は最後に部屋を出た私が閉めなくちゃいけなかったのに、忘れて鍵をかけてしまって・・・。」
そういえば、この子は第一発見者だったと思い出す。部長の隣で妙に顔を青くさせていたのが気にかかっていた。
「それを後で思い出して慌てて部室に行ったら、もう・・・。」
「どうしてそれを私に?」
確かにあの場に雪春はいたが、演劇部の顧問は綾倉だ。彼女に言うのが道理ではないのか。
「・・・私、明日の演劇で初めて役をもらえたんです。でも、私のせいで盗難事件が起きたってバレたら、役を下ろされてしまうのではないかと・・・。すみません!」
しかし二日目が終わりに近づいても宝が全部見つかっていないことに耐えられなくなって、誰かに言ってしまいたかったのだろう。
「綾倉先生はそんなことする人じゃないぞ。ちゃんと言えばわかってくれる。」
「・・・はい。」
きっと本人も頭ではわかっているのだろう。しかし、嫌われたくない、呆れられたくないという思いが強いからこそ、言えなかったに違いない。
「大丈夫だ。」
「え?」
幸太郎は少女の頭に手をポンと置いて、にかっと笑った。
「道具は絶対、見つけてやるからな!」
少女はほっとしたような表情を浮かべた。
「どうするのよ~。あんなこと言っちゃって。」
朔太郎が少し呆れ気味に言う。たしかに手がかりさえもない状態だ。闇雲に探しても時間を食うだろう。しかし見つけなければいけない理由がもう一つ増えたため、幸太郎は自分の知識の引き出しを手当たり次第に探った。
赤い司祭、赤い司祭・・・。赤いは置いといて、司祭って教会にいるような奴だよな?でもここはキリスト教の学校ではないからチャペルはないし・・・。
わからない。一体何を指しているんだ?
何か手がかりはないのかと幸太郎が額に手を当てたとき。
(音楽室に行ってください。)
久しぶりに雪春の声が聞こえた。
なぜ音楽室?と思ったが、雪春はそれ以上言う気配がない。
幸太郎はとにかく音楽室に向かって走り出した。
「どこ行くの?!ユキちゃん先生!」
「音楽室だ!」
「どうして!」
「なんでもだ!」
だって雪春がそう言っているのだから。
幸太郎はこれ以上ない確信を持っていた。