ミス二葉亭
「すごいな!おめでとう!」
「お疲れ、荻野。」
幸太郎と賢仁が、朔太郎に告げる。
「ありがとう~!嬉しいわ~!」
朔太郎は嬉しそうにトロフィーを掲げた。
ファッションショーは朔太郎の優勝で幕を閉じた。ミスコンは朔太郎の服を着た嶺藤愛梨という女生徒が優勝。たしか彼女は以前、雪春が帰りを送っていった女子生徒だ。
そして一花は他の上級生を差し置いて見事二位だった。さすが俺の妹だ、と幸太郎は誇らしくなった。
「龍之介たちも見に来ていたぞ。」
「あ、そうなの?」
夏目の言葉に朔太郎は意外そうな声をあげる。幸太郎は見つけられなかったが、もしかしたらこっそり見ていたのかもしれない。朔太郎の服を破ってしまったので気になっていたのだろう。
「荻野くん!」
ホールの楽屋入口から、朔太郎と同様にトロフィーを抱えた愛梨が近寄ってくる。彼女は朔太郎の横に立つと、綺麗な笑顔を浮かべた。
「お疲れ様!一位おめでとう!」
朔太郎もにっこりと笑って応じる。
「嶺藤さんこそおめでとう!」
「私は荻野くんの服を着れたから優勝できたんだよ、ありがとう。」
「そんなことないわよ、嶺藤さんの実力よ~」
違うよ、と恥ずかしそうな顔で手を振ってから、隣に立つ夏目にむかってはにかんだ笑顔を見せた。
「夏目くんも見てたんだ。」
「ああ。朔太郎が出るしな。」
特に感慨もなさそうに答える。前から思っていたが、夏目は雪春以外の人間に素っ気無さ過ぎじゃないだろうか。もちろん朔太郎や賢仁や潤平のように仲のいい人間にはまた違うが、まるで別人のようである。
案の定、嶺藤は少しだけ不満そうな顔をした。しかし彼女の場合、他でもない夏目にそっけなくされたからこそだろう。以前盗撮が怖くて泣きついてきたのだって、本当は夏目に送って欲しかったに違いない。こうたろうから見ても、彼女の好意の先にいる人物は丸分かりだった。雪春は気がついていないようだが。
雪春はこういうことに関して鈍いからなぁ、と自分を棚に上げて考えていると、横から美咲が声をかけてきた。
「私そろそろ帰るね。」
今まで言い出すタイミングを図っていたのだろう。幸太郎は慌てて美咲の方へ向き直った。
「あぁ、忙しいのにわざわざごめんな。」
「忙しくないから来たのよ。」
肩をすくめて答えられる。
幸太郎はショーの前の言葉の続きを聞こうか迷った。雪春が依然として何かに囚われていることに関係しているのかもしれないと思うと、知っておきたい。しかし雪春の許可なく聞き出すようなことは抵抗があった。
すると美咲は安心させるように幸太郎の肩を優しく叩いた。
「今のあんたがするべきことを教えてあげるわ。」
「な、なんだ?」
「恋をすることよ。」
意外な言葉を言われて目が点になる。
「は?こいって・・・」
「そうですね。それには僕も賛成です。」
自然な動作で会話に割り込んできた夏目が頷く。
「ね?先生。」
「ねってお前な・・・。」
思わず半眼になってしまう。美咲はそれを面白そうに見てから、にやりと笑った。
「なんだ、私がつつかなくても大丈夫そうね。」
雪春にとって何だか不穏な言葉を残して、美咲は帰っていった。
今日は二話更新します。